第35話
気が付くと俺はベッドの上で寝ていた。この天井は……俺が城に居た時に、泊めて貰っていた部屋の天井だ。え……って事は戻って来たのか?
「お。目を覚ましたかい?」
この声はルーカスさんだ。俺が声のした方に視線を向けると、ルーカスさんは背もたれのない丸椅子に座ってこちらを見ていた。
「ルーカスさん、俺……どうしてここに?」
「君はデストルクシオンを消滅させた後、魔力の消費が激しくて倒れてしまったんだよ」
「あぁ……そうだったんですか……でも、良かった。無事にデストルクシオンは倒せたんですね!」
「あぁ……」
ルーカスさんは返事をしてスッと立ち上がると、俺の隣で立ち止まる。苦笑いを浮かべると、コツンと指で俺のおでこを突いた。
「痛い。いきなり何をするんですか?」
「ラスボスにトドメを刺すのは勇者の仕事だろ? それを奪いやがって、お前って奴は……」
「あは、はははは……」
ルーカスさんは優しく微笑み「デコ以外に痛い所はあるか?」と気遣ってくれる。
「いえ、まったく」
「そうか……じゃあ、愛しの王女様を呼んできてやるから、大人しく待ってろ」
「あ、はい。ありがとうございます」
ルーカスさんが部屋を出て行くのを見送ると、俺はゆっくりと上半身を起こす。久しぶりにエマ王女と対面できる事に胸を躍らせながら、部屋のドアを見つめた──すると、ノックもなく勢いよくドアが開く。
「アルウィン様! 御身体の方は大丈夫ですか!?」
エマ王女は本当に俺の事を心配してくれている様で、部屋に入ると直ぐに駆け寄りながら話しかけてくる。
「はい、大丈夫ですよ。ご心配、お掛けしました」
俺がそう返事をすると、エマ王女は俺の前で立ち止まり、何故かフグの様にホッペを膨らまし、何か言いたそうに俺を見つめる。
「──どうかされましたか?」
「ルーカス様に聞きました。アルウィン様、自己犠牲魔法を使われたのですって?」
ルーカスさん、何でそんなことをエマ王女に……まぁ、俺の今後の事を心配して言ってくれたんだろうけど……。
「──確かにアブソリュート・デリートは聖なる肉体を持った勇者でさえ困難で、俺みたいな魔法使いが使うのは自殺行為だって言われている……だけど俺は絶対に出来るって思っていたよ」
「どうしてですの?」
俺はローブのポケットから青紫色になった魔法石を取り出すと、エマ王女に見せる。
「ほら、これのおかげだよ。君が旅に出る前に愛情をたっぷり込めてくれたから、きっと俺は聖なる肉体さえ凌駕することが出来る! って思えたんだよ」
「まぁ……そんな言い方ズルいですわ……何も言い返せません」
エマ王女は恥ずかしくて俺の顔を見られないのか、俯き加減でそう言った。そんな彼女を見ていると愛おしくて仕方がない。俺は素直になって、エマ王女に向かって両手を広げる。
「おいで」
「はい」
エマ王女は俺が両手を広げた意味を分かった様で、俺に近づくと身を委ねた。俺はエマ王女の背中に手を回し、ギュッと抱きしめる。するとエマ王女は俺の心臓の音を確かめるかのように、俺の胸に頬を寄せた。
「──本当は元気よく送り出しましたけど、ずっとずっと……心配していたんですからね」
「心配させて悪かった。もう無理はしないよ」
「はい……そうしてください」
お互い目を瞑り、温もりを感じながら、しばらくそのままの姿勢でいると「──ふふふ……」と、エマ王女が突然、笑いだす。
「どうかされましたか?」
「私達、愛の力で世界を救ってしまいましたね」
「あぁ……確かに……そういう事になりますね」
「ふふふ……ねぇ、アルウィン様。そろそろ私達、結婚しませんか?」
「うん。これで平和になったんだ。結婚して、ずっと一緒に暮らしましょう」
「はい!」
俺達は少しイチャイチャした後に、王様の所へ行って、そろそろ結婚したい事を告げた。世界を救った魔法使いの頼みだ。さすがに誰も反対することは無かった。
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