第34話

「お前ら、許さん……絶対に許さんぞッ!!!!」


 デストルクシオンが激昂し、声だけで押されてしまいそうな迫力のある声を出す。死にぞこないの癖に、何て声を出すんだ!


 それでもルーカスさんは臆することなく剣を振り上げ──全体重を乗せるかのように勢いよく振り下ろすッ!!!!


「なッ……」


 そんな馬鹿な……パワー・エクストリームにホーリー・ブレードが掛かった攻撃だぞ? それが効かないなんて……。


 ルーカスさんの攻撃はデストルクシオンが引き籠った黒い球体によって弾かれてしまう。なんだあの引き込まれそうなぐらい不気味な黒い球体は……魔力の塊の様だが、あんな防御魔法みたことがない。


「シューティング・アロー!!」と、フィアーナさんが球体に放つ──が、「ダメ! シューティング・アローも効かない!」


「だったら、これでどうだッ! 一刀両断ッ!!」


 ──ガイさんが球体に直接攻撃をくらわすが、これも弾かれてしまう。


「グッ……」

「嫌な予感がする……どうにかしないと大変なことになるぞ!」

「そんなこと言ってもよぉ……攻撃が効かないんだ、どうすりゃ良いんだよッ!」


 それから俺達はそれを壊すべく、あらゆる攻撃を球体に当ててみた──が、ヒビ一つ付ける事が出来なかった。


 ルーカスさんの言っていた嫌な予感っていうのは、きっとデストルクシオンの魔力がどんどんと中心に集中している事だ。俺はそれを警戒していた……警戒していたが──。


「破壊……破壊……破壊……我は破壊しか望まぬもの」


 何だ……? デストルクシオンのやつ、こんな時に独り言か……?


「溢れ出る魔力を解放し、すべてを破壊し尽くす力へと変える……ダーク・エクスプロージョン!!」


 いや、違うッ! そう思った時には時は既に遅く、何とか原型を留めていた城が崩壊していき、俺達を埃の様にいとも簡単に吹き飛ばす!!!


 俺は自分の前にマジック・シールドを張るので精一杯で、味方を気に掛けている隙すら貰えなかった……。


 俺がよろめきながらも立ち上がると、球体の中からデストルクシオンが姿を現す。人を見下すような鋭く冷たい目つきに、真っ白な長髪、肌もまるで血が通っていない様に真っ白だ。


 さっきのルーカスさんの攻撃で学び、魔力により生成したのか赤いマントが付いた漆黒の鎧に身を包み、細くて長い黒刀を装備している。さっきまで魔物のボスにふさわしい巨体と、異形をしていたのに、だいぶスッキリし、まるで人の様な姿になっていた。


 ちきしょう……ルーカスさんがデストルクシオンに付けた傷は無かったことになってやがる。


「我は強気者を完膚なきまでに壊すのは好きだが、壊されるのは好きではない」


 デストルクシオンはギロッと俺達を睨みつけてくる。なんて身勝手な奴なんだ……俺はそう思いながら、後ろに居る仲間の方にチラッと視線を向けた。


 ガイさんとフィアーナさんは気を失っている様で、地面に転がり、ピクリとも動かない。ルーカスは何とか凌いだようで倒れてはいるが、何かを言いたそうにこちらを見ていた。


 微かにルーカスさんから光の魔力を感じる。ルーカスさんが魔法で防いでくれたのか? そうじゃなければ皆、体ごと消し飛んでいても、おかしくはない攻撃だった。


「アルウィン君……逃げるぞ……」


 リーダーであるルーカスさんから指示が飛ぶ。確かにこの状況なら妥当な判断だ。俺は──。


「すみません……その指示には従えません」


 俺はルーカスさんの指示を拒否した。


「何を言っているんだ、アルウィン君……」

「デストルクシオンは球体に籠る前に、許さん……絶対に許さんぞッ!!!! と、激昂していました。そんな奴が、俺達が逃げた後に、大切な人達に何をするのか……考えただけでも震えが止まりません。奴はここで仕留めなければいけないんですよ!」

「……」


 それにきっとデストルクシオンは逃がしてはくれない……人間の姿になり、濃縮された奴の溢れ出る邪悪な魔力がそう言っている。


 だったら……だったら俺が、ここで皆を守ってみせるッ!!


「大丈夫です。まだ助かる手はあります」


 俺はそう言って、ローブから魔法石を取り出すと、左手でギュッと握り、右手をデストルクシオンの方へと突き出す。デストルクシオンは一人だけだとなめているのか、不敵な笑みを浮かべながら、ゆっくりと俺達の方へと歩いて来ていた。好都合だ。


 ルーカスさんは初めて三属性を同時に放った時、体に異常が出たと言っていた。それを考えると、聖なる肉体を持つ者しか、二属性以上の魔法を同時に放てないのは、普通の魔法使いでは急激な魔力の放出に肉体と精神が耐え切れないからだと思う。


 だったら魔力で体を強化して、もう一つは──。


 俺は魔力透視の力を使い、魔力を全身に纏い、体全体を強化する。魔法石から、まるでエマ王女に守られているかのような温かみを感じ、更に魔力を高めてくれたのが分かった。


 そう……この感じ……魔法石には大量の魔素が込められていて、俺がそれを吸い上げて魔力を上げているものだと思っていた……でもきっと違う。これはきっと第二の心として精神力を支えてくれるものなんだ。


「火……水……土……風の四大精霊たちよ……」


 俺が詠唱を始めると、ルーカスさんは「アルウィン君、何を詠唱しようとしているんだ! やめろ!」と口を挟む。


 さすがルーカスさんだ。俺が何を詠唱しようとしているのか、それだけで分かったようだ。それでも俺は詠唱を続ける。


「禁忌を犯して、我が魔力と生命力を捧げ代わりに、我に悪しきものを消し去り無へと返す力を授けよ」

「やめろ、アルウィンッ!!」

「アブソリュート・デリート!!!」


 俺が魔法を唱えると、辺りが眩いばかりの光で包まれる。視界が奪われ、この先がどうなったのかが分からない。でもきっと大丈夫だよな。アブソリュート・デリートは、四大精霊の力を借りてあらゆる敵を消滅させる究極魔法。きっとデストルクシオンでさえ消滅させてくれるだろう。

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