第33話
ルーカスさんはデストルクシオンが何かしようとしている事を感じ取ったのか、まだガイさんの回復に専念したい様子だったが、顔を歪めながらもスッと立ち上がり、デストルクシオンの方に体を向けていた。
その間、俺はフィアーナさんに駆け寄る。
「フィアーナさん、火傷してしまうかもしれませんが……」
「大丈夫、やっちゃって」
「分かりました」
俺はフレイムを出し続け、フィアーナさんの手についた氷から溶かしていく──。
「アルウィンさん、もう大丈夫。後は自分で何とか出来るから先にルーカス達の所へ」
「分かりました」
俺はフィアーナさんにクイックの魔法を掛けると、自分にもクイックの魔法を掛ける。そして直ぐにルーカスさんの所へ向かった。
デストルクシオンはルーカスさん達に向けて両手を前に突き出す。ルーカスさんはガイさんを守る様に前に立ち、左手をデストルクシオンに突き出すと、右手で左手の手首を支える様に押さえた。
「邪悪な魂よ……闇の帝王たる我が闇の魔力を存分に吸い上げ、永遠に破壊を繰り返す黒炎の鳥となれ……」
「全てを飲み込む程の激流で荒れ狂う水の精霊よ……我が光の魔力により心を静め、我に従う水龍となれ……」
二人がほぼ同時に詠唱を終わらせ──。
「ダーク・フェニックス!!!!」
「ハイドロ・ドラゴン!!!!」
魔法と魔法のぶつかり合いを始める!! デストルクシオンの方は黒と紫が入り混じった不死鳥の形をした魔法を、ルーカスさんの方は光が反射した水面の様に輝く龍の形をした魔法を放っている。
詠唱の感じから、おそらくデストルクシオンは炎属性に闇属性を、ルーカスさんは水属性に聖属性を混ぜているだろう。
二人の魔法のぶつかり合いは凄まじく、バチバチバチ……!!と、轟音が響くとともに熱気さえ伝わってくる。俺はルーカスさんの邪魔をしない様、ガイさんに近づいた。
「ガイさん、しっかり!」と、俺はガイさんにヒールを掛け始める。
ガイさんはルーカスさんに回復呪文を掛けてもらってはいたが、まだ血が止まっていなかった。この感じだと早くフィアーナさんの上級魔法が欲しいところだ。
「どうした? 勇者よ……随分と辛そうな顔ではないか。それに少しずつ後退しておるぞ?」
「ぐッ……」
「ほら、もっと魔力を上げたらどうだ? そうしないと仲間もろとも死んでしまうぞ?」
ルーカスさん……頑張れッ! 助けに入りたいけど、フィアーナさんが到着するまでは、回復魔法を続けないと……。
「くっそぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
ルーカスさんは気合を入れるかのように大声を出す。確かにルーカスさんの魔力が上がった。
「そうだ……もっとだ!! もっと魔力を上げてみろっ!!!!」
「あぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
ルーカスさんは更に魔力を上げた──上げたが直ぐに下がってしまう。デストルクシオンはそれが分かったかのように「それがお前の限界か? 勇者よ……何と情けない。あの男は我の魔法を相殺し、腕まで奪ったというのに……」
「グゥゥゥ……」
「興覚めだ……一気に方を付けてやる」
デストルクシオンがそう言って魔力を高めた瞬間、「お待たせ」と、フィアーナさんがやってくる。
ルーカスさんはまだ堪えているし、このタイミングだったら、まだマルス・エクスクルードが間に合う──だけど俺はマルス・エクスクルードを唱えず、スッと立ち上がった。
「フィアーナさん、ガイさんを頼みます」
「うん!」
「さらばだッ! 勇者どもよッ!!」と、デストルクシオンはダーク・フェニックスに魔力を上乗せする。
俺はルーカスさんに駆け寄り、辛そうに顔を歪めているルーカスさんの腕と肩を掴んだ。
「こんな弱っちい魔法でやれらるかよッ! だろ? ルーカス! もちろん、押し返せるよなッ!?」
本当なら今すぐにでも俺も魔法を放ち、押し返すのが正解なのかもしれない。だけど、これはルーカスさんが乗り越えるべき壁。そう感じた俺は、グランさんが言いそうな言葉を想像しながら口にする。
ルーカスさんは一瞬、驚いた表情を見せたが、直ぐに辛そうな表情をしながらも、ニヤァっと笑顔を見せた。
「ほんと生意気な奴だな、お前は……当たり前だッ!!」
ルーカスさんの魔力がグンッと上がり、僅かにダーク・フェニックスを押し戻す。
「ほぅ……まだそんな力が残っていたのか。面白いッ!!」
「これで褒めて貰っちゃ困るぜ、帝王! 我は更に氷の精霊に魔力を捧げ、水龍をあらゆるものを凍てつかせる美しき氷龍へと進化をさせる……」
ルーカスさんは遂に三属性の魔法を同時に放つ覚悟をした様だ。大丈夫、あとは俺達が何とかする! その想いを込めるかのように俺はグッとルーカスさんの肩を支えた。
「フリーズ・ドラゴンッ!!!!」
ルーカスさんが叫ぶと、水龍がパキパキパキ……と、音を立てながら、たちまち凍っていき、刺々しい氷の龍へと変わっていく。
「──グゥゥゥ……」
その氷龍の威力は帝王も唸り声を上げる程に凄まじく、押されていたのが嘘だったかのように、ダーク・フェニックスを飲み込んでいく。
「──馬鹿なぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
ルーカスさんの魔法を押し戻せなかったデストルクシオンは氷龍に飲まれる! 3本あった腕は全て吹き飛び、傷口は凍っている。あれでは回復魔法を使えても回復する事は出来ない。体も所々が凍っていて、まさに瀕死状態といった所だ。
ルーカスさんは……倒れる所かゆっくりとデストルクシオンに向かって歩いていく。俺はパワー・エクストリームを掛けサポートした。
「ルーカス!」
ルーカスさんに声を掛け、ルーカスさんの剣を拾って、近くに投げつけたのはガイさんだった。良かった……回復魔法が間に合ったんだ。
「サンキュー、ガイ」と、ルーカスさんは振り向きもせず、剣を拾い、またデストルクシオンに向かって歩き続ける。
「お前に証明されなくても、俺が弟より劣っているのは分かってるよ……だから俺はこいつ等を頼っているんだ!!」
ルーカスさんがそう叫び、地面を蹴り上げた瞬間、フィアーナさんのホーリー・ブレードがルーカスさんの剣を覆い、まさに聖剣にふさわしい光を上げた。
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