第32話

 いける! そう思えたのは束の間の話だった。


「少しはやるようになったみたいだが、まだまだ甘い……」


 デストルクシオンはクイックが解けたガイさんを包み込むように左手で掴み上げる。ガイさんは体をよじって抵抗するが、逆に更に強く締め付けられてしまい「ギャァァァ!!!!」と、悲鳴を上げた。


「ガイッ!!」


 ルーカスさんはガイさんを助けようと駆け寄ろうとするが、デストルクシオンの残った右手がルーカスさんを払い除ける。


 デストルクシオンの攻撃をくらってしまったルーカスさんは吹き飛び、地面に背中を引き摺り、握っていた剣を離してしまった。


 一瞬のうちに、どちらを助けるか二択を迫られた俺達だったが──。


「なにッ!!」


 デストルクシオンが俺とフィアーナさんに放った魔法攻撃に驚かされて、更に選択肢を増やされてしまう。なんとデストルクシオンは詠唱なしで上級魔法のブリザードを俺達に放ってきたのだ!!


「クソッ!!」


 俺達は詠唱なしで上級魔法を使えない。今までのボスクラスの魔物だってそうだった。だからこそ、完全に油断してしまったッ!!

 

 視界を奪われつつも俺は何とかフレイムで相殺を試みる──だけど見る見る足……手……と、凍らされていった。


 ブリザードが止む頃には、顔だけ残し身動きが出来ない状態まで凍らされてしまった。これじゃ魔法を使うことが出来ない!! 


 俺の前にいるフィアーナさんも、顔だけは光の下級魔法で凌いだようだが、見る限り俺と同じ状況に陥っている様だ。


 更にピンチは続く。ブリザードが止み視界が晴れた俺は信じられない光景を目の当たりにする……なんとデストルクシオンは上級の回復魔法で自分の腕を元通りにしたのだッ!!


 死んだり、切断されなければ回復することは可能……それは俺達もやっている事……でもあの巨大な腕を一瞬で!? なんて回復力だ……って、驚いている場合じゃない!! この状況を何とか立て直さなければッ!!!!


 デストルクシオンはガイさんを更に持ち上げ、自分の角の方へと持っていく。


「なにをしようとているんだ……やめろッ!!!!」

「ふふふふふ………」


 デストルクシオンはルーカスさんの言う事を聞くわけもなく──ガイさんの背中を角で突き刺した。


「ガイィィィィ!!!!」

「イヤァァァァァァ!!!!」


 ルーカスさんとフィアーナさんの声が部屋中に響き渡る。


 ルーカスさんにグランさんの事を話して貰ったあの日。誰一人として欠けて欲しくなくて、絶対に守り抜くと誓ったのにッ!! 俺は何も出来なかった怒りをぶつけるかのように「あぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」と叫んだ。


 泣き叫んでも戦況は変わらんよ。ふと、修行をしている時に師匠が教えてくれた言葉を思い出す。そんな暇があったら、少しでも状況を見る様にしなさい。魔法使いが一番、形勢逆転が狙える秘術を持っているのだからな。


 そうだった……まだだ……きっとまだ間に合う! 俺は更に師匠と修行をした事を思い出す。


「アルウィン。もし敵に体を凍らされた時、お前ならどうする?」

「ファイアボールかフレイムを使って溶かします」

「うむ。ではもし、体を動かすことが出来ない状態なら、どうするんじゃ?」

「え……それは──すみません、思いつきません」


 師匠は杖を持ち上げ、先端でトンッと優しく俺の心臓を指す。


「もし魔力が残っているなら、それを使うのだ」

「手から魔法を放てないのに……ですか?」

「そうじゃ。魔力の流れを知り、操るイメージ……ほんの一握りの魔法使いはそれを掴み、少ない魔力で色々な事に応用している」

「へぇー……凄い!」


 それから俺は何度か試したけど、さっぱり出来なかった。俺はほんの一人の魔法使いに入れるほど、天才ではない……だけど、ルーカスさん達と死線を越えてきた今の俺ならきっと出来るはずッ!!


 ルーカスさんはデストルクシオンの攻撃のダメージが残っているのか、フルフルと体を震わせながら、ゆっくり上半身を起こす。


 それをみたデストルクシオンはニヤリと微笑み、ガイさんを角から引き抜くとルーカスさんに向かってガイさんを投げつけた。


 ルーカスさんは慌ててガイさんに駆け寄り──キャッチするが、ガイさんと一緒に倒れてしまった。


「ふ……お前は所詮、その程度……我があの男にさえ劣ることを証明してやろう」


 デストルクシオンがルーカスさんに話かけている間、ルーカスさんはガイさんの回復に専念していた。


 魔力感知で魔力を感じ取れるんだ。それを更に洗練させるイメージ……デストルクシオンをジッと見つめていると魔力が2本の腕に流れていくのが見えてくる。魔力感知はそこまで分からない。きっとこれは更に上の力……魔力透視!


 その力を手に入れた俺は、体の外に漏れだそうとしている魔力を操り体内に溜め込む。そして──。


「パージ・ディストラクション!!!!」と、一気に溜め込んだ魔力を解放した。体の周りについた氷は砕け散り、俺は自由の身となる。


「さぁーて……反撃開始だッ!」


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