第31話

 俺達は先に進む前に魔法の鞄から回復アイテムを取り出し、魔力と体力を回復する。ここまで戦闘を繰り返してきたから、アイテムはほんの僅かになってしまった。


「どうする? 引き返す?」とフィアーナさんがルーカスさんに聞くと、ルーカスさんは首を横に振る。


「いや、ここまで来たんだ。このまま一気に進もう!」

「分かった」


 俺達は横並びで扉の前に立つ。ルーカスさんが一歩前に出て──扉を押した。扉はギィ……と、音を鳴らし簡単に開いた。


「さっきビクともしなかったのにどうなってるんだ?」

「おそらくさっきはコーシャスと俺達が戦った魔物の魔力で保護されていたんだろう」

「なるほど……」


 ルーカスさんはガイさんとの会話を終えると、こちらを振り向く。


「先頭は俺、ガイはその後ろ、フィアーナはガイの後ろで最後はアルウィン君の順で進む。準備は良いか?」

「おぅ!」

「うん!」

「はい!」

「じゃあ行こう!」


 ──扉の奥に進むと、部屋? は真っ暗で左右に青紫の炎が灯る篝火だけが置かれているのが見える。ルーカスさんは慎重に進み、俺達も合わせて慎重に進む。


 一歩……二歩……三歩……と、奥に進むにつれ、ボワッ! と炎が点く音がして、青紫の炎が灯る篝火が増えていく。


 一体、どういう仕組みで、どういった意図があるのか……それは分からないが、進んでいる位置を知らされている様で、手に汗を握らせるには十分な仕掛けだ。


 今すぐにでもマルス・エクスクルードを張っておきたい気持ちにさせられるが、あれは詠唱に時間が掛かる割には、効果時間が短い。タイミングを見誤ると無駄に魔力を消費して終わることになる。


 俺とフィアーナさんは部屋を照らす魔法を持っているけど、その魔法を使っている間は、他の魔法を使用することが出来なくなる。もし二人のどちらかに頼みたい魔法があったとしても、直ぐには出せなくなってしまうから、ルーカスさんは俺達に指示しないのだろう。結果……黙ってこのまま進むしかない。


 離れていても微かに感じる魔力だったが、一歩一歩進むにつれ、吐き気がするほど濃い、どす黒い魔力を感じる様になっていく──。


 その魔力に押し潰されそうになりながらも、堪えながら進んでいたが、ついにルーカスさんが足を止める。賢明な判断だ……これ以上、前に進むと巨大な魔力の主の射程範囲内に入ってしまいそうな危うさをヒシヒシと感じる。


 俺達が完全に立ち止まると、ボワァ……ボワァ……と、円を描くように篝に青紫の炎が灯っていき──玉座の左右にある篝に火が灯ると部屋が一気に明るくなる。


 玉座に座っているのはドラゴンの如く巨大な翼を背中に生やし、俺達を簡単に鷲掴み出来そうなぐらい大きな3本の手に、それに見合った巨体に人間を虫のように潰せそうなぐらい大きい2本の足がある魔物で、不気味な笑顔を浮かべながら、足を組んでこちらを見つめている。


 巨体といっても、ブクブク太っている訳ではなく、腕の筋肉や腹筋がキュッと引き締まっていて、周りにある柱を一発で壊しそうなぐらい力がありそうだ。


 鎧などの防具はなく、腰蓑こしみのだけを身に付けているのは、余程、防御力に自信があるのだろう。


 肌の色は毒でも含んでいそうな紫色をしていて、額に岩さえ貫通しそうなぐらい硬そうな黒い一本角を生やしている。


 こいつが闇の帝王デストルクシオンか……?


「ほぅ……誰が来たのかと思えば、お前たちか……」


 魔物は体に響くぐらいの重低音な声をしているが、不気味なぐらい聞き取りやすく、俺はゾクッと鳥肌を立てる。


「お前たちの事は覚えているぞ……闇の帝王と恐れられている我の腕を一本、焼き切った男の仲間だからなぁ。だが、お前たちの中で一番強かったあの男はどうなった? ん? 先頭の男よ、答えてみろ」


 デストルクシオンはニヤついた顔で、その男がルーカスさんの弟だと知っているかのように、挑発をしてくる。いつも冷静なルーカスさんはフルフルと震え──。


「うあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」と、鞘から剣を抜き、感情を爆発させるかの如く叫びながら、我を忘れたかの様に、一直線にデストルクシオンに向かって駆けていく。


 大切な人を挑発の材料に使われて、ブチぎれない人間なんていない! 俺……いや、それを分かっていた俺達は一斉に動き出す。


 俺はルーカスさんの後ろを駆けるガイさんにクイックの魔法を掛ける。動きが速くなったガイさんは一気にルーカスさんを追い抜き、ルーカスさんの盾になるかのように先頭を走り出す。


 デストルクシオンはスッと立ち上がり、ガイさんに向かって、ブォォォン! と、轟音を立てながら右手のパンチを繰り出した。


 ガイさんは大剣でパンチを受け止めた──が、パワー負けしていて押し戻される。このままではルーカスさんもろとも吹き飛ばされてしまう! 


 そう思った俺は「パワー・エクストリーム!!」と、一時的に仲間一人の力を極限まで上げる魔法でガイさんを強化する。


 ガイさんは一瞬とはいえ、デストルクシオンの攻撃を受け止めた。その隙にルーカスさんはデストルクシオンの前腕部まで駆け抜ける!


「ルーカス、行くよッ! ホーリー・ブレードッ!!」


 フィアーナさんは詠唱を終え、ルーカスさんに声が届く様に大声だす。それに気づいたルーカスさんは足を止め、デストルクシオンの前腕部に向かってジャンプをして──叩き切る!


「ぐぅ……」


 ルーカスさんの攻撃はデストルクシオンの腕を切り落とすことは出来なかったが、ダランと垂れていて使い物にならない状態にまでする事が出来ていた。


 よし、この調子ならいける!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る