第22話

 俺達は船を乗り継ぎ、色々な精霊と契約を交わしながら旅を続ける──俺達はいま、風との精霊を済ませ、休憩しようと町に戻ろうと森を歩いている所だ。


「──皆、止まれ」


 先頭を歩いていたルーカスさんがそう言って、ゆっくりと足を止める。俺達も合わせてゆっくりと足を止めた。


 ルーカスさんの目線の先には、縦横二メートルぐらいありそうな大きなカメがいる。もちろんこいつは魔物で、鋼のように硬い甲羅がテカテカしているからミラータートルと言われている。


 テカテカには意味があって、あいつは属性魔法を跳ね返す魔法を甲羅に掛けている実に厄介な魔物だ。


「あそこにミラータートルがいる。近くに町があるし、ここで倒しておこう」

「おう!」

「じゃあガイ、宜しく頼むよ」

「ん?」

 

 ルーカスさんがガイさんの後ろに下がると、ガイさんはキョトンとした表情を浮かべる。確かにルーカスさんが丸投げするのは珍しい。


「俺一人で相手にするのか?」

「あぁ。魔力で補助をしてあげたいが、俺とアルウィン君は魔力切れ。フィアーナには回復に専念して貰う」

「じゃあ、しょうがねぇか」


 ガイさんは頼られたことが嬉しいのかニヤッと微笑むと、拳を突き合わせながら、ミラータートルに向かって歩いていく。


 ルーカスさん、なにを考えているんだろ? ミラータートルは決して弱い敵ではないし、俺達はまだ補助魔法を掛けてあげられるぐらいの魔力は残っている。


 ガイさんはミラータートルの前で立ち止まり、腰に掛けている鞘から大剣を抜くと、「おい、デカブツ!」と、挑発するかのように叫んだ。


 ミラータートルはガイさんに気が付いた様で、ゆっくりと体をガイさんの方へと向ける。


「俺が相手してやるから、掛かって来いや!」


 ガイさんがそう言うと、ミラータートルはガイさんに向かって雄叫びを上げながら突進する。


 ガイさんはスレスレのところで避け、大きく振りかぶってミラータートルの甲羅に一撃を食らわした。


「かてぇな、おいッ!」


 ガイさんの攻撃は直撃したが、弾かれてしまう。甲羅にはヒビ一つ入っていなかった。


「ルーカスさん。補助魔法をガイさんに掛けた方が……」

「それじゃ意味が無いんだよ」


 ルーカスさんはそれだけ言って、目線をこちらに向けずにジッとガイさんの戦いを見守っている。やっぱり俺がまだ魔力がある事は分かっている……それでも一人で戦わせているのには意味があるんだ。俺もガイさんを信じて、黙って見守る事にした。


 ──攻防が繰り返され、ガイさんは体力の限界にきたのか、ミラータートルの攻撃を避け切れず、こちらに吹き飛ばされてしまう。


「フィアーナ、回復!」

「うん!」


 ルーカスさんの指示でフィアーナさんはガイさんに駆け寄り、回復を始める。


「ち……情けねぇな。あれだけ打ち込んで甲羅には傷1つ付いちゃいねぇ」

「──ガイ、力任せに思いっきり振らなくて良い。今度は野草をナイフでサクッと切るイメージで斬ってみてくれ」

「あぁん? そんなんで──」


 ガイさんはそう言い掛けたが、ルーカスさんの真剣な顔を見つめ、目を閉じると「分かったよ」と返事をした。


 目を開けて、ゆっくりと立ち上がると、ガイさんはまたミラータートルの方へと駆けていく。


 ──ミラータートルが突進してくるが、ガイさんは上手にかわし背後に回った。


「野草をサクッと切るイメージだな……」と、ガイさんは想像しているかのように呟きながら、ミラータートルに向かって剣を振り下ろす。


 ガイさんの攻撃は甲羅に当たり──僅かだが壊すことに成功した!


「おいおい、なんでだよ……」

「え? え? なんで?」


 ガイさんとフィアーナさんが驚きの声を上げている時、ルーカスさんはこうなることが分かっていた様に、にやける。


「後で説明してやるよ」

「おっしゃぁ!! こうなればこっちのもんだッ!!」

 

 ──ガイさんは今の攻撃を体に叩きこむかのように、何度もミラータートルを攻撃する。その度に、ミラータートルの甲羅は欠けていった。俺は何が起きているのか、何となく分かっていた。これはきっと──。


「よし、完全にコツを掴んだぜッ!! 後はチマチマやっても仕方ねぇ!!」


 ガイさんは野球のバットを振るかのように大剣を構え、ミラータートルが突進してくる中、ソッと目を閉じる。


 それを心配したフィアーナさんが「ガイ! 調子に──」と言い掛けたところで、ルーカスさんはフィアーナさんを止めるかのように前に腕を伸ばし、「大丈夫。ガイは集中しているだけだよ」と首を横に振った。


 ルーカスさんはそう言うけど……万が一に備えて俺は魔法を唱える準備だけはしておく。


 ガイさんは目をカッと見開くと、「一刀両断ッ!!!!」と叫びながらミラータートルに向かって全力で大剣を振り払う。


 その威力は凄まじく、ミラータートルは真っ二つになり……ガイさんの前で倒れこんだ。


「おっとっとっと……」と、ガイさんは急にふらつき、尻もちをつく。それをみたフィアーナさんは慌ててガイさんに駆け寄った。


「もう……何やってるのよ、ガイ。締まらないわねぇ……」

「ガッハッハッハ、悪い悪い。急にフラッときて」

「大丈夫?」

「おう! 大丈夫、大丈夫」


 ルーカスさんはゆっくりガイさんに近づきながら「魔力が急に放出されたから、その反動で眩暈めまいがしたんだよ」


「魔力? 魔法使いでもない俺が?」

「世間では目に見える魔法を使える人を魔法使いと呼んでいるけど、魔力は誰にでもあって、無意識に魔法を使っている人もいるんだ。実際、俺はガイから普通の人より強い魔力を感じていたよ」

「君もそうだろ? アルウィン君」

「はい」

「精霊との契約をしていく中で、強い魔力があるのに精霊と契約が出来ない事に疑問を抱いていてね。ガイは無意識に筋力や防御力などを魔力で強化できる無属性タイプなんじゃないかと思ったんだよ」


 ルーカスさんはそう言って、ガイさんの前で立ち止まると、ガイさんに手を差し伸べる。ガイさんはルーカスさんの手を取ると、立ち上がった。


「なるほど……だから魔力があるのにミラータートルを俺に任せたって訳か」


 ガイさんがそう言ってニヤッと微笑むと、ルーカスさんは驚きの表情を見せる。


「ガイ……気が付いていたのか?」

「当たり前だろ。魔力感知が使えなくても、長年一緒に居る相棒の魔力が尽きそうなのか、そうじゃないのかぐらい戦いをみてりゃ、分かるよ。ありがとな、ルーカスのお蔭でまた一段と強くなれた」


 ルーカスさんは優しく微笑むと「俺のお蔭じゃない。ガイが俺のことを信じてくれたから、その力は君の力だよ」


「ガッハッハッハッハ」と、ガイさんは豪快に笑いながら、ルーカスさんの肩に腕を回し「またまた、そんな事を言って照れ臭いのか? ん?」


「そんなんじゃないよ──」


 二人は仲良さそうに会話を続け、そのまま歩き出す。そんな微笑ましい光景を見ながら、俺とフィアーナさんは後に続いた。


 さすがだな……お互いがお互いのことをみて、自分のしなきゃいけないことを考えている。だからこのパーティは強いんだ。

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