第39話
俺は自分の部屋に戻ると、旅の準備を一人で始める──ファシナンテはエマに掛けた呪いは上級魔法のディジーズ・ヴァニッシュでも解けないと言っていた。でも、そうさせない為の罠かもしれない。本当か嘘か分からないから、試してみたい。
「でもディジーズ・ヴァニッシュを使える程の魔法使いといったらフィアーナさんしか思いつかないだよな……だけど、いまは何処にいるか分からないから情報を集めて探さないと……」
エマはどうしようか? ファシナンテはジワジワと変貌していくと言っていたから、直ぐにはどうこうならないと思うが……フィアーナさんを見つけて戻っている間に手遅れになってしまう可能性がある。
「だったら連れて行った方が良いか……」
エマは呪いをかけられ、自分の姿が変わってしまった事が相当ショックだった様で、まだ昼食も食べずに部屋に
ホープは……どうするか……? 魔力が高いとはいえ、まだ10歳。戦闘経験も浅いし危険だから、王様と王妃様だけに事情を話して面倒を見て貰う様にしよう。
「さて、そろそろ行くか……」
俺は魔法の鞄を腰に掛けると部屋を出て、エマの部屋へと向かった──エマの部屋の前に来ると、まずはコンコンとノックをしてみる。
「エマ。俺だけど、入っても大丈夫かい?」
──少し待っても返事がない。俺はドアノブに手を掛けてみる……良かった、鍵は閉まっていない。
「入るよ?」
俺はもう一度、エマに声を掛けると、部屋のドアを開いて中に入る。エマは顔全体を覆う黒い仮面を被り、窓の外を眺めていた。俺はゆっくり、エマの方へと近づく。
「──アルウィン様。それ以上、近づいてはダメですわ」
「どうして?」
「だって、呪いが……」
「呪いがうつる事を心配しているのですか? 大丈夫、これから君を治そうとしているのに、そんなの気にしませんよ」
俺はそう言って構わず近づき、エマの前に立つ。エマは俺に顔を見せたくない様で、顔を背けた。
「──それもありますが……こんな醜い姿ではアルウィン様の側にいられません」
「エマ……」
エマから感じられる愛が愛おしくて思わずギュッと抱きしめたくなる。でも俺はグッと堪えて話を続けた。
「じゃあ……エマは俺とずっと一緒にいられなくて良いの?」
今のエマにはとても酷な質問だ。それは分かってる……分かっているけど、本当の気持ちを曝け出し、前に進むには必要な事だ。
──少し待ってみるが、エマは心の中で葛藤している様で、なかなか口を開かない。俺は後押しするため、先に口を開いた。
「エマ……大丈夫だよ。君がどんな姿に変わっても、俺には君の瞳の様に心を落ち着かせる綺麗な心が見えている。だから──」
俺はそう言って、エマの仮面をソッと外す。
「あ……」と、エマは声を漏らしたが抵抗はしなかった。
「私の前では仮面を外してください」
自分が言った言葉を俺に言われ、エマは少し驚いているのか、黙ったまま俺の顔を見つめる。
「君があの時、俺にそう言ってくれたから、俺はこの姿に戻れたし、魔力を見る力に目覚めて、一時的だったけどファシナンテを倒す事だって出来た。俺は今までずっと君に守られていたんだ。」
俺はスッとエマの前に手を差し出す。
「だから、今度は俺が君を守りたい……どんな困難な事でも君を守るから、俺についてきてくれないか?」
「──はい……さっきはアルウィン様に迷惑を掛けない様にと気持ちを隠していましたが、本音を言うと私……あの時からずっと気持ちは変わっていません。だから……一緒に旅をさせて下さい」
エマは苦笑いを浮かべると手を伸ばし、俺の手に自分の手を重ねた。
「ありがとう……絶対に君を助けてみせるよ」
「はい、信じています」
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