第40話

 さすがに派手なドレスのまま旅は出来ないと、エマは動きやすい服に着替え、旅の支度を進める──。


「お待たせしました。アルウィン様」

「うん。それじゃ──」と、俺はエターナル・メタルフォーゼを唱え、失敗した時の姿へと変える。


 エマは驚きを隠せず、両手で口を覆うと「アルウィン様……何を……!?」


「君にだけ恥ずかしい思いをさせないよ」

「アルウィン様……大丈夫なのですか? また魔法石に愛情をたっぷり詰めましょうか?」

「あはははは、もう大丈夫だよ。もう魔法石の力を頼りにしなくても、ちゃんと戻れるだけの魔力を持ってるから」


 エマは両手を口から離すと「ほ……それを聞いて安心しましたわ……」と言って微笑む。俺は魔法の鞄から、前に使っていた仮面をつけ、フードを被った。


「さて、行きましょうか」

「はい!」


 ──城を出て王都の出口に向かって歩いていると、一人の少年が俺達の前に立ちはだかる。少年はツンツンと逆立つほど短い銀髪をしていて、何故か俺と似たような白い仮面をつけている。服装は黒いローブを着ていて、フードは被っていない。


 魔力で同然、分かるのだが、それが無くても、この子のことを俺が間違える訳がない。


「こんな所で何をやってるんだ、ホープ」

「父様たちこそ」

「俺達はとても大事な用事があって、しばらく出掛けなければならないんだ。ホープは城で良い子に待っていてくれ」

「嫌だ。俺も行く」

「デストルクシオンが居なくなったとはいえ、まだ外には強い魔物がウヨウヨいて危険なんだ」

「大丈夫、自分の身ぐらい自分で守れるよ。ルーカスさんがくれた、これで──」


 ホープはそう言って、腰に掛けてあったマジック・ダガーを見せる。ホープの魔力は俺がルーカスさん達と旅立った時より強い。でも、使える魔法は少ないままだ。それを補うには確かに魔力を吸って強くなるマジック・ダガーが効果的だ。だけど──。


「さっきも言ったが大事な用事で遊びじゃないんだ。連れていけない」

「そんなの分かってる! 父様が母様を心配するように俺だって、母様の事が心配なんだ! 俺……父様の後ろでファシナンテが消えることろを見ていた。だからファシナンテがどっちの方向に居なくなったのか、何となく分かるよ」

「何だって……!? どうやって?」

「感じた事のない魔力の痕跡みたいのが見えたんだ」

「……」


 ホープも魔力透視が使えるのか……? いや、魔力透視でも、そこまでは分からない。魔力があるのに使える魔法が少ないのもそうだけど、ホープには昔から他の魔法使いとは違うとは思う所があった。


 もしホープが言っている事が本当ならファシナンテの方を先に見つける事が出来るかもしれない。ファシナンテを殺せば呪いも解けるかもしれないし、ここはホープを頼ってみるのも一つの手だ……。


「分かった。案内をしてくれ」

「やったぁ!」

「ただし! 俺達の言う事をちゃんと聞くんだぞ?」

「うん! もちろん!」

「ふふふ。不謹慎ではありますが、親子水入らずで楽しそうな旅になりそうですね」

「──そうだな」


 こうして俺達は馬車に揺られながら、ホープが言う方向へと向かった──しばらくすると草原の真ん中で、ホープはキョロキョロと辺りを見渡す。


「──父様、ごめんなさい。ここから先は何も分からないや」

「そうか、仕方ない」


 向かっている方にはカントリーファームがある。偶然か? ──そういえばファシナンテは俺から魔法石を奪った後、逃げられたのに住処に戻っていた……理由は分からないが、今回も有り得るかもしれない──せっかく、ここまで来たんだ。覗いてみるか。


「エマ、ホープ。ちょっと寄ってみたい所があるんだ。良いかな?」

「はい」

「うん」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る