第41話

 俺達はまずカントリーファームに寄り、道具屋へ向かった。


「ねぇ、父様。父様はこの村に来た事あるの?」

「どうしてそう思ったんだ?」

「すんなり道具屋まで来たからさ」

「あぁ、なるほど。あるよ、ここの料理はとにかく美味しいぞ」

「えー……良いなぁ。だったら食べてから行こうよ!」


 俺はホープの話を聞きながら、毒消し薬や気付け薬など必要なものを手に取って、カウンターへと向かう。


「ダメだ。まずはエマを治してからじゃないと」

「じゃあさ、母様が治ったら寄って行こうよ」

「それなら良いぞ」

「やったぁ! 約束だからね!」

「はいはい」


 ──俺達は買い物を済ませると、直ぐにファシナンテが住処にしていた洞窟へと向かった。


 洞窟に入ると、また魔物が徘徊していた。ホープはマジック・ダガーでホーネットタイプの魔物をバッタバッタと切り捨てていく。魔力で強化しているとはいえ、相変わらず猫の様に素早い動きで、驚かされる。


「ザっとこんなもんだよ!」

「ホープ君、すごーい!」


 エマはホープを褒めながら拍手をする。ホープは照れ臭そうに頬を掻いていた。エマがいると、何処に居ても家にいるような和やかな雰囲気になるな。


「えへへへ。ところで父様、ここには何が?」

「ここは昔、ファシナンテが住処にしていた場所なんだ。だから戻ってないか念のために確かめに来たんだよ」

「あぁ、なるほど!」

「まだあいつの魔力は感じられないが、気を付けて進もう」

「はい!」

 

 ──魔力の消費を抑えながら奥へと進むと、以前ファシナンテと戦った所から、強い魔力を感じる。魔力の雰囲気でファシナンテではないと分かるが、ピエールぐらいの魔力はある。


 俺は足を止め、後ろを向き「ホープ」と名前を呼ぶ。ホープは頷き「うん、分かってる。強い魔物が居るんでしょ? 俺はここで母様を守るよ」


「話が早くて助かるよ」


 俺はゆっくり開けた場所へと入っていく──正面に青くて丸い魔力の塊がある。あちらは俺に気付いた様で、急にコアだと思われる塊は光を放ち、周りの岩が集まっていった。


 ゴーレムか! 何でこんな所に!? 存在は知っていたが見るのは初めてだ。さて何の魔法を繰り出そうか。そう考えている間に3メートル程ありそうな巨大な岩の塊が俺の前に立ちはだかる。


 考えていても仕方ない! 俺は手始めに「アイシクル」をゴーレムに放つ。


「なに!?」


 ゴーレムはバラけてアイシクルをかわす。何個かは岩に当たったが、当たっただけで傷がつくことなく砕けてしまった。魔力が通った岩だから相当、硬いな。初級魔法じゃ、まったく歯が立たない。


 ゴーレムのコアは浮遊しながら、俺の横を通り、エマたちの方へと向かってしまう。


「ホープ! エマを連れて逃げろッ」

「嫌だッ! 俺はここで母様を守りながら、父様のために時間を稼ぐッ!」

「あいつ……」


 まったく、言う事を聞かないのはどっちに似たんだ。とにかく今はあれこれ言っている暇はない。俺は魔法の詠唱を始める。


「氷の精霊よ……極寒の地より生まれし美しき氷を、我の魔力で強化し、敵を貫く巨大な氷の柱とせよ……」


 俺が詠唱している間、ホープは後退しながら、マジック・ダガーでゴーレムの攻撃を受け流す。詠唱が終わるまで後少しだ……俺がハラハラしながら、その様子を見ていると、ホープのマジック・ダガーがパキッと折れる! 


 間に合ってくれよッ!!


「アイシクル・ニードルッ!!」


 魔力透視でゴーレムのコアの場所が分かっていた俺は、巨大な針の形をした氷柱を思いっ切り投げつける。


 アイシクル・ニードルは──コアの中心を貫いた。コアが徐々にひび割れていき……ドシンッ!!!! と、地響きを鳴らしながら岩と共に地面に落ちていく。その影響で砂埃が舞い、視界が奪われてしまった。


 エマとホープは大丈夫だろうか? 確認したいが、声は届かないだろうし、岩が落ちている間、駆け寄るのは危険だ。様子を見るしかない──最後の岩が地面に落ちるのを確認すると、俺は急いでエマたちの元へと駆け寄る。


「エマ! ホープ! 大丈夫か!?」

「父様、こっち。俺達は大丈夫だよ」

「良かった……」

「父様、凄いですね。俺のマジック・ダガーでさえ、防ぐのでやっとだったのに一発で仕留めてしまうだなんて!」

「ほんと! アルウィン様、カッコ良かったですわ」

「いやぁ……そんな事ないよ」

 

 俺は二人に褒められて照れ臭くなり、頬を掻く。


「ところでホープ。さっきのは危なかったぞ、気を付けなさい」

「はぁい。ごめんなさい」

「うん」

「父様、気に入っていたマジック・ダガー、折れちゃったよ」

「ゴーレム相手だったから、仕方ないよ。刃が危ないから、ここに置いて行きなさい」

「はーい」


 ホープは返事をしながら、折れたマジック・ダガーを地面に置く。俺は辺りを見渡し、ファシナンテに繋がるものが無いか確認をした──が、それらしいものは見つからなかった。


「にしても……強い魔物が居た割には何にも無いようだし、とんだ無駄足だったな」

「そんな事ないよ、父様」

「え?」

「開けた場所から、ちょっと変わった魔力を感じた。行ってみよう」

「あ、あぁ……」


 俺達はホープの後についていき、開けた場所へと戻る──俺とエマは中央で立ち止まり、ホープは壁に向かって歩いていく……そして突き当たると壁伝いに歩き始めた。


「──父様。この辺り、この辺りから変わった魔力を強く感じるよ」


 ホープはそう言って立ち止まり、天井にまで届きそうな巨大な岩に手を当てる。するとホープの魔力に反応したのか岩が光り始め、スライドドアの様にズズズズズ……と、音を立てながら勝手に岩が横に動く。その先の壁には、人が通れそうな穴が空いていて、奥へと進めそうだった。


「何だよ、これ……」

「父様、奥に階段が見えるよ!」

「ちょっと待て!」


 勝手に進もうとするホープを止め、俺達はホープへと近づいた。


「俺が先に行く。次はエマ、最後にホープの順番で行こう」


 マジック・ダガーが折れてしまったから、いまホープは無防備に近い状態で心配だが、近くにいてくれれば何とかカバー出来るだろう。


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