第42話
俺達は岩が退いた先にあった穴を通り抜け、階段を下りていく。階段は所々、欠けてはいるものの石を加工したもので出来ていて、歩けないほどではない。
「この階段、人が作っていますよね?」とエマが後ろから話しかけてくる。
「あぁ、多分ね。だけど明かりを灯すものが全くないのは何故だ?」
「仕掛けで階段を隠すぐらいですから、出来るだけ見つかりにくくするため、ロウソクを持ちながら行き来していたとか?」
「あと父様みたいにサンライトの魔法を使って、辺りを照らしながら行き来できたから不要だったとかもありそうですね」
「あぁ……そうか。だったら、この先に居るのは魔法使いの可能性もあるんだな」
「えぇ、そうですね」
「──にしても、狭い道だな」
「はい。これだけ狭いと圧迫感がありますわね……」
「そうだな。それに罠が無いか心配になってくるよ」
「まぁ……むやみやたらに触らぬよう気を付けますわ」
人一人がようやく通れる様な道って事は、行き来しているのはそんな多くの人ではない? エマの言う通り魔法が掛かった岩で隠すぐらいだから、何か隠したかったんだろうけど、この先に何があるんだ?
──階段が終わり俺達は古びた木製のドアの前に辿り着く。
「中に入るぞ?」
「はい」
「うん、大丈夫」
俺はゆっくりドアを開け、中に入る。中はとてつもなく広く、激しく動き回っても、余裕がありそうぐらいの広さをしていた。俺はとりあえず目に入った燭台に魔法で火を点けた。
「──すり鉢に薬品……見慣れない魔物の死骸に……ズラリと山積みになった本……人がここに居たのは間違いないようだな」
「えぇ……医学の本や魔導書? それに見慣れない文字の本など沢山ありますわね。ここで何か研究でもしていたのかしら?」
「そうかもな……」
ホープは珍しいものが点々と、転がっているからか辺りを見渡しながら吸い寄せられる様に奥へと進んでいく。
「おい、ホープ。あまり色々、触るなよ」
「分かってる!」
エマはホープの事が心配になったのか、ホープの後に続く。俺もエマの後に続いた。すると突然、ホープが振り向く。
「父様! 後ろッ!!」
ホープの声に従い、俺はすぐさま後ろを振り向く。すると鋭く長い爪で突き刺そうとしてくるファシナンテが視界に入ってきた。
俺はすかさずマジック・シールドを張って凌ぐ。
「ちッ……感が良いクソガキが居るねぇ……」
「ファシナンテ! 何でお前がここに居るんだ!?」
「そりゃ、こっちが知りたいよ! ここには火種の一族しか入れないはず、どうやって入ったんだい!?」
「火種の一族?」
「なんだ、知らないで入って来れたのかい。運がいい奴等だね」
ファシナンテは何故か、攻撃をせずに後退りを始める──。
「まぁ……お前らがどうやって入って来たなんて、どうだっていい事……必要なものは手に入ったから、ここはもう用なしだよ」
ファシナンテはそう言って、また何の言葉か分からない言葉で詠唱を始める。俺は情報を知りたくて魔法の鞄から魔訳の実を取り出し、食べてみた。
「──チッ……」
それでも分からない。魔物の言葉ではないのか? しくじった、時間を無駄にした。俺は直ぐにブリザードが放てるように詠唱を始める。だが──先にファシナンテの詠唱が終わってしまった。
ファシナンテは俺達に両手を突き出し「これでジワジワと焼かれ死ぬがいいッ!!」と、青紫の炎を放ってきた。
「下がれッ!」と、俺はエマたちに指示をして、後ろへと逃げる。
チラッと後ろの様子をみると、エマ達にも当たっている様子は無かった。良かった……だけど妙だ。炎は俺達から随分と離れて燃えている。それにこんな炎の色した魔法を見た事がない。
──あれこれ考えていても仕方ない。とにかく今は足止めついでに、こいつを消さなければッ!
「ブリザード!!!」
詠唱が終わった俺はファシナンテに向かって魔法を放つ──だけど、ファシナンテを凍らせる所か、炎を消す事さえ出来なかった。
「嘘だろ……どうなっているんだ……?」
「キャハハハハハ。そんな事をしても無駄無駄。この炎には決して消えない呪いの魔法も込められているのさ」
「クッ……」
「大事な王女様が綺麗なうちに一緒に死ねて良かったじゃないか。じゃ」
ファシナンテは俺達を馬鹿にするかのように後ろを向きながら手を振り、出入り口に向かって歩いていく。
「待ちやがれッ!!」
せっかくのチャンスなのに、逃してたまるかよッ!! そう思っていると、所々で何かが爆発し始める。
「危ない、エマ!!」
俺はエマの前に立ち、飛んでくるガラスの破片をマジック・シールドで防いだ。
「大丈夫かい?」
「あ……ありがとうございます。アルウィン様」
「あぁ。なるほど、そういう事か。ファシナンテのやつ、逃げ道を塞いでこの研究所ごと俺達を燃やし尽くすつもりだったんだ」
「まぁ! それは大変……どうしましょう?」
ブリザードでさえ消せない魔法をどうしたらいい? ──魔法石を使って、強力な魔法で壁に穴を開けるか? いや……天井が壊れてきたら生き埋めになってしまうし、この洞窟は結構、深い。魔力が持つかどうか……。
「父様」
「どうした?」
「父様、大丈夫。どうにかなるかもしれない!」
そう言ったホープの手には、今にも崩れそうな古い本が握られていた。
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