第45話

 カントリーファームに戻ると、俺達は宿屋に向かう。無理を言って食事は俺達の部屋に運んでもらい、親子水入らずで美味しい料理を堪能した。


「あ~、美味しかった~」


 ホープは満足そうにそう言って、膨れたお腹をポンポンと叩く。


「だろ?」

「新鮮の料理はやっぱり美味しいですね」

「うんうん」

「さて……少し食休みしたら、寝る準備を始めるか。明日は朝早く出よう」

「もう少し旅をしたかったですけど、お父様たちが心配していますもんね」

「うん、そういうこと」

 

 チラッとホープの方に視線を向けると、ホープは俯き加減で黙っていた。てっきり、まだ旅をしたい! って、駄々をこねると思っていたが……ホープなりに気を遣っているのかもしれない。


 その日の夜──二人とも疲れて寝てしまったと思いきや「父様……まだ起きてる?」と、俺の隣のベッドで横になっているホープが話しかけてきた。


「ん? どうした?」

「今回の旅……楽しかったよ」

「それは良かったな」

「うん……でも……」

「でも?」


 俺が聞き返すとホープは言いにくい事があるのか黙り込む。俺は少し様子を見る事にした。


「でも……やっぱり物足りない」

「そっかぁ……ホープも男の子だもんな」

「うん……だから──だから俺……城に帰ったら、もう一度、一人で旅に出ても良いかな?」

「一人でってお前……ダメに決まってるじゃないか」

「──やっぱり、そうだよね……ごめん」


 ここからじゃ暗くてホープの表情は見えない。だけど、声の感じからして悲しんでいるのは分かる。


「──いや……俺の方こそ、ごめん。頭ごなしに否定するのは良くないよな。ホープ、どうして一人で旅をしたいと思ったんだい?」

「──俺しか開かない岩の扉……俺しか読めない魔導書……俺しか出来ない事が世の中には沢山あるんだ! って、思ったらワクワクが止まらなくて、もっと色々なこと見て知りたい! そう思ったんだ」

「なるほど、何で一人なんだ?」

「それは……もちろん父様が居ると心強いよ。でもさ……父様が居たら、父様に頼りっきりになっちゃうじゃないか。そんなのつまらないし、俺自身も成長しない……だから一人で旅をしてみたいんだ」


 子供、子供と思っていたが、自分の考えを言える程、成長していたんだな……ちょっとウルっときてしまった。さて、どうするか──俺が考えている間、ホープは黙って様子を見ている。


「分かった。良いよ」

「え! 良いの!?」

「うん。ただし、ちゃんと勉強して、俺と修行をして戦いで参ったと言わせたらな」

「分かった、頑張る! それじゃ、おやすみなさい……父様」

「うん、おやすみ」


 そんなの無理! とは言わないんだな、良いぞ……さぁて、これから忙しくなりそうだ──それから目が覚めてしまい、黙って天井を眺めていると「アルウィン様」と、今度は隣のベッドからエマが話しかけてくる。


「どうしたんだい?」

「あんな約束、しちゃって良かったんですか?」

「大丈夫だよ、きっと何年も先の話さ」

「ふふふ……子供の成長って、親が思っているよりずっと早いんですよ?」

「おいおい、脅かすなよ……」

「ふふふ、いずれにしてもホープ君の成長、楽しみですね」

「あぁ、そうだな」


 俺はホープを見つめ、そう返事をした。布が擦れる音がしたから、きっとエマもホープを見つめているのかもしれない。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る