第44話

「父様、大丈夫。きっと何とかなる!」


 ホープが古い本を開き、話し掛けてくる。俺は少し驚いたが、黙って頷きホープを信じる事にした。


「分かった、じゃあ俺はこいつを始末することに専念するとする!」

「うん!」

「おのれ……また邪魔をしおってッ!! こうなれば進化の魔法で方を付けてやるよ!!!!」


 ファシナンテが謎の言葉で詠唱を始め、魔力が体中に流れていく。何をしようとしているんだ? 進化の魔法なんて名前からして、ヤバいとしか感じない。


 あいつの詠唱が終わる前に、こっちの詠唱を終わらせる。でも生半可の魔法じゃ駄目だ。前みたいに復活されてしまう。


 こいつ以外に敵の気配は感じない。呪いの炎もまだ逃げ道はある。だったら全力でこいつを始末するッ!! 前から試してみたかったことがあるんだ。


 俺はデストルクシオンとの戦いを思い出しながら、体を魔力で強化し、詠唱を始める。


「火の精霊よ……我が魔力を注ぎ、更に風の精霊の力を借りる。その力により更に激しく燃え盛り、全てを飲み込み焼き尽くす巨大な蛇の姿へとなれ……」


 アクア・ウォールの効果が解ける瞬間を待っていると、先にファシナンテの姿が変貌してしまう。ファシナンテの魔力は確かに跳ね上がっていて、チェルト並みになっていた。


 でも様子がおかしい。腕や足の形がいびつで、ブクブクと太ったガーゴイルのような姿をしている。


「グゥ……こんなはずでは……」


 どうやら魔力が足りなくて、中途半端な姿になってしまった様だ。これなら──。


「ファシナンテ! あの時は中途半端に焼いちまって悪かったな! 今度は骨さえ残らず、焼き尽くしてやるよ!! ──ウラエウス!!!!」


 俺はゴーレムと同じぐらいありそうなファシナンテの巨体よりも更に大きい炎の蛇を魔法で生み出し、ファシナンテに向かって解き放つ。


 ファシナンテは翼を広げて逃げようとしたが……ウラエウスの方が先にファシナンテを飲み込んだ。


「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!!」


 ファシナンテの奇声が洞窟内に響き渡り、俺は焼かれていくファシナンテを黙って見守った。


「ふぅー……」


 少しフラッときたが、二属性魔法が成功して良かった──後ろから二人が駆け寄ってくる足音が聞こえ、俺は後ろを振り向く。


「どうやら呪いの炎は使用者が死ぬと消えるみたいだな」

「えぇ、そうみたいですね」

「父様。凄い! 凄い! いまの二属性魔法ですよね!?」

「あぁ、そうだよ」

「凄いなぁ……本当に父様も出来たんだ……」


 飛び跳ねそうなぐらい高いテンションで褒めてくれるホープを見ながら癒されていると、何だか横から視線を感じる。


 俺がチラッとエマの方に視線を向けると、エマはちょっと頬を膨らませて不貞腐れた様な顔をしていた。


「エマ、どうしたの?」

「──御身体の方は大丈夫ですの?」

「あ……あぁ、大丈夫だよ」

「そう……良かったですわ」

「ありがとう。ところでホープ、さっき言っていた呪いを解く方法って?」

「あ、そうだった! さっき俺が手に入れたこの本、古代魔法について書かれていてさ。そこに呪いを解く魔法も書かれていたんだよ!」

「なんだって……!」


 さっきの詠唱の時にいにしえのって言っていたから、何となく古代魔法だとは思ったけど、でも何でホープが読めるんだ?


「ホープ。お前、俺達が知らない所で古代語の勉強をしていたのか?」

「うぅん、全然。なんでこれ、読めるんだろうね? 不思議と今と変わらず読めるんだ」


 ファシナンテがさっき言っていた火種の一族ってのが、関係しているのか?


「そうか……それで魔法の方は出来そうか?」

「それが魔法を唱える事は出来ると思う。だけど俺の魔力で足りるかどうか……」

「なんだそんな事か」

「そんなこと?」


 俺はホープの肩にポンっと手を乗せ、ローブから魔法石を取り出しホープに見せる。


「俺達にはこれがあるだろ?」

「俺が魔法石を使って良いってこと?」

「うん。だけど良く分かってない魔法だ。皆でやろう」

「皆で?」

「うん、エマが魔法石を持って、俺がその手を握る。そして俺が魔法石を使ってホープへとその魔力を渡すんだ」

「何それ? そんなこと出来るの?」

「やったことは無いけど、魔力透視の力で流れは見えている。多分、出来ると思うよ。まずは魔力譲渡を試してみよう」

「分かった」


 俺は魔力の流れが分かりやすいように目を瞑り、ホープの肩に手を乗せると、魔力を流すイメージを始める。


「──凄い……凄いよ、父様。優しいけど力強い父様の魔力が俺の中に入ってくるよ」

「成功したようだな」

「うん! じゃあ早速、父様が言ってたのを試してみよう!」

 

 俺は頷き、エマに魔法石を渡す。エマは俺から魔法石を受け取ると、掌に乗せた。俺は包み込むようにエマの手を握る。


「よし、行くぞ」

「うん!」


 魔法石が赤く輝き、大量の魔力が俺に流れ込んでくる。俺はホープの負担にならない様に、少しずつ流していった。


「──父様、ありがとう。これなら大丈夫だよ……」と、ホープは静かに言って、目を閉じながら詠唱を始める。


「封印されし古の知識を借り、悲劇の始まりとなる闇極まりし悪しき縛りを解き放ち、終焉へと導く光の力を我に与えよ……」


 ホープはスッと目を開けると、両手をエマに向け「アビエント・ルミナスッ!!!!」と、魔法を放った。


 いくつもの光の小さな玉がエマに集まっていき……体中を包み込む。光の玉はエマの体中にある悪しき力を吸い上げる様に黒く染まり、上へと抜けて消えていった……すべての玉が消えると、ホープは手を下ろす。


「私……どうなったですの?」

「ふふふ……仮面を外してごらん」

「あ……そうですね、恥ずかしい……」

 

 エマは照れ臭そうにしながら仮面をゆっくり外す。呪いの方は完全に抜けた様で、そこには白くて美しい肌しかなかった。


「──どうですの?」

「元通りになってるよ」


 エマはパァァァァァ……っと明るい笑顔を見せ、言葉より先に両手を目一杯に広げて、俺とホープを抱き締めた。


「二人とも……ありがとうございます!」

「当然の事をしたまでだよ」

「うん!」


 俺達が返事をすると、エマはエーン……と子供の様に泣き出す。俺は子供をなだめる様にトン……トン……とエマの背中を優しく叩いた。


「──グスッ……ところでアルウィン様は元に戻らないですの?」

「あ……忘れてた」

「忘れちゃダメですよ」

「あははは……エマ、魔法石を見せて」

「はい」

 

 エマは俺達から離れると、魔法石を俺に差し出す。魔法石は紫色に変わっていた。いつもと違う魔法はやっぱり魔力の消費が激しいんだな。俺の魔力で補助して正解だった。


 さて、俺の魔力はカラッカラ……魔法石の力で補っても足りるかな? 失敗すると面倒だから魔力が回復してからにするか。


「えっと……俺が戻るのは明日にする」

「アルウィン様、もしかして……」

「そんな悲しい顔するなよ、エマ。大丈夫だって、明日には必ず治るから」

「──分かりました。じゃあ私も仮面を外すのは明日にします!」

「俺も!」

「お前ら……ありがとう。さて、今日は疲れたし、カントリーファームに戻って、美味しいもの沢山、食べようぜ!」

「はい!」

「さんせーい!」

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