第14話

 村に帰るともう夕暮れになっていて、村長は俺達の事を心配してくれていた様で出迎えてくれた。


「おぉ、戻ったか。それで、どうでしたか?」

「まだ魔物はいると思いますが、大半の魔物は退治できたかと思います。この調子でいけば、明日には全て追い払えるでしょう」


 それを聞いた村長は安心したようでニコニコと笑顔を見せながら「そうかい、そうかい。お礼と言っては何だが、わしの家に食事を用意させた。どうか召し上がってください」


「うぉ! 丁度、腹が減っていたんだ。肉はあるか?」

「はい、もちろん。新鮮なものを用意してありますよ」

「いいねぇ、早く行こうぜ!」


 はしゃいだ様子でガイさんが進もうとした時、フィアーナさんがガイさんの後頭部をピシッと平手打ちをする。ガイさんは後頭部を擦りながら「いてぇな、フィアーナ」


「いてぇな、じゃないでしょ! はしたない……まずは御礼を言いなさいよ」

「あ、あぁ……そうだな。ありがとうございます」


 ガイさんがペコリと頭を下げると俺達も続いて頭を下げて御礼を言う。


「いえ、とんでもございません。ささ、料理が冷めてしまいますので早く行きましょう」


 俺達は村長の後について行き、村長の家へと向かった──お邪魔しますと家に入ると、

 大きな横に長い木のテーブルに、ぎっしりと様々な料理が並べられていた。


 まだ作られたばかりの様で美味しそうな匂いが漂ってきて、俺はグゥ……とお腹を鳴らす。


「さぁ、どうぞ。お好きな席にお座りください」

「はい」


 ルーカスさんは返事をして、奥の席へと進む。その隣はフィアーナさん、続いてガイさんと座り、俺は入り口側に座った。


「頂きます」


 各々、目の前に置かれた料理を食べ始める。俺はまずを野菜の入った皿を手に取り、自分の皿に移すと食べ始めた──うん、シャキシャキした食感に甘さがあって美味しい。


「ルーカス、ちゃんと豆も食べなきゃダメよ」

「分かってるよ、フィアーナ」

「フィアーナ。そこの肉を取ってくれよ」

「えぇ……しょーがないわね」


 フィアーナさんはしょうがないと言いつつ、食べやすい様にナイフで肉を切って皿に乗せ、ガイさんに渡す。


「はい、どうぞ!」

「サンキュー!」


 ガイさんは皿を受け取ると、子供の様にガツガツと食べ始める。フィアーナさんはそんな姿をみて、満足そうに微笑んでいた。


 見掛けからすると多分、フィアーナさんはこの中で一番、若いと思う。でも、二人の事をよく見ていて、お母さんの様に二人を支えている様に見える。そう思うと何だか微笑ましくて、クスッと笑ってしまった。


「アルウィンさん、どうかしたの?」

「いや、何でもないです」

「そう。ガイが食べている肉、アルウィンさんも欲しい?」

「はい」

「じゃあ、切り分けるね」

「ありがとうございます」


 ──少しして村長が呼んだのか、赤いロングヘアの凄く綺麗なお姉さんが家の中へと入ってくる。


「おぉ、来たか。わしの方は良いから、そちらの方にじゃんじゃん注いで差し上げて」

「はい」


 赤いロングヘアの女性はテーブルの上にある酒の入ったボトルを手に取ると、ルーカスさんの方から順々に、マグに注いでいく──最後に俺のマグに注ぐと、ニッコリと笑顔をみせ離れていった。


 あぁ……美味しい料理にアットホームな雰囲気……お酒がグイグイ進む。


「──アルウィン様、お注ぎしますか?」

「お願いします」


 赤いロングヘアの女性は御酒を注ぎながら「アルウィン様。アルウィン様はエマーブルを救った、あのアルウィン様ですよね?」


「えぇ……まぁ……」

「まぁ凄い! そんな凄い方に御酌を出来て、光栄ですわ」

「いや……俺はそんなに凄くないよ」


 赤いロングヘアの女性は突然、俺の顔に触れそうなぐらいグイっと顔を近づける。そして「アルウィン様。今晩、私と一緒に過ごしませんか?」と、耳元で囁いてきた。


 俺だって子供じゃない。それが何を意味しているのか何となく分かった。でも勘違いだと恥ずかしいから──。


「えっと……一緒に過ごすって?」

「もう……分かってらっしゃるくせに」


 この反応は……そういう事だよな?


「ごめんなさい。俺、お付き合いしている方が居るんです」

「エマ王女様……ですよね?」

「はい」

「離れているから大丈夫ではないでしょうか?」

「大丈夫とか、そんなの関係ないです」

「──分かりました。すみません……」

「いえ……」


 赤いロングヘアの女性は眉間にシワを寄せ、項垂れる。その悲しそうな表情に申し訳なささを感じていると女性は口を開き「お酒の方、まだいりますか?」


「いえ、ちょっと飲み過ぎたみたいなので、これで止めておきます」

「そうですか……では酔い冷ましに外に出られては?」

「そうですね」

「転ぶと危険なので、外に出るまで付き添います」

「ありがとうございます」


 俺は席を立ち「ガイさん。俺、酔い冷ましに外に行ってきます」


「ん? もう酔っ払ったのか?」

「はい。料理が美味しくて、ついついペースを上げてしまって……」

「ガッハッハッハッハ、分かった。気を付けな」

「はい」


 俺は体を支えて貰いながら、赤いロングヘアの女性と外に出る──。


「ちょっと村の中を歩いてきます」

「はい」


 俺は赤いロングヘアの女性に告げて、ゆっくりと歩き出す──ここで離れると思いきや、赤いロングヘアの女性も何故か、一歩後ろを付いてきていた。


 酔っているとはいえ、大丈夫なのに……俺が大丈夫だと伝えようと足を止めた時、正面から足音が聞こえてくる。


 注意してみていると、歩いてきたのは「──え……エマ王女……どうしてここに……?」

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