第37話
俺達が結婚してから、七年の月日が流れる。その間、俺達に男の子が産まれ、ホープと名付けていた。
俺はいま、エマとホープが中庭にいると兵士から聞き、向かっていた──。
中庭に着くとホープは元気よく「じゃあ、
俺が何を追いかけてくるんだ? と、思いながら立ち止まっていると、エマは俺に気付いた様で、ゆっくりとこちらに歩いてくる。
「エマ。ホープは何を追いかけていったんだ?」
「さぁ? 分かりませんわ」
「分からない?」
「アルウィン様にも見えないんですか?」
「あぁ……何の事だかさっぱり」
「あら……てっきり魔法を使える方には見える何かがあるのだと思っていましたが、違うのですね。ホープ君が言うには綺麗な光が空に浮かんでるって……」
「空に?」
俺は空を見上げてみた──が、雲しか見えない。
「何も見えないなぁ……」
「うーん……だったらホープ君が見たのは何だったのでしょう?」
俺が視線をエマに戻すと、エマは考え事をしている様で、人差し指で頬っぺたを軽く叩いていた。
「まぁ……あの子は5歳なのに普通の大人並みの魔力があるし、ホープにしか見えない何かが見えているのかもしれないよ」
エマは人差し指を止めると、心配の様で眉を顰めながら、ゆっくりと腕を下ろす。
「それでしたら、アルウィン様。ホープ君に魔法を教えてあげて頂けませんか?」
「魔法を?」
「はい、特別の才能がある事は良い事だと思いますが……何か大変なことに巻き込まれないか心配ですので……」
俺はエマに近づくとソッと肩に手を乗せる。
「分かった。少しずつ教えていくよ」
「はい、よろしくお願いします」
※※※
それから更に五年の月日が流れる。
「それじゃ
「あぁ、気を付けて」
中庭で魔法の練習を終えたホープは元気よく城内の方へと駆けていく──入れ違いにルーカスさんが中庭に来て、ベンチで休んでいる俺の隣に座った。
「いまの、ホープ君だろ?」
「はい」
「随分と大きくなったんだな……」
「お陰様で」
「ホープ君から申し分ない魔力を感じたが、魔法の方はどうなんだい?」
「魔力の流れを見る限りでは、上手に魔力をコントロールして、動く速さを変えたりは出来ていると思います。けど──」
「けど?」
「属性魔法や状態異常魔法などは覚えるのが苦手なのか、相性が悪いのか、覚えられていないんです」
それを聞いたルーカスさんは、ポンポンと俺の肩を叩く。
「大丈夫、心配するな。それでも強い奴を君は知っているだろ?」
「はい。魔力の使い方は人それぞれ……もしかしたら息子はガイさんみたいなタイプなのかもしれません」
「そうだな──そうだ!」
ルーカスさんは腰に掛けてあった魔法の鞄を開け、ガサゴソと漁りだす──そして1本の魔力が込められたダガーを取り出すと俺の方に差し出した。
「そんなホープ君のために良い物をあげよう!」
「これは?」
「今から説明するから、とりあえず受け取ってくれ」
「あ、はい。ありがとうございます」
俺がダガーを受け取ると、ルーカスさんは「そいつはマジック・ダガーといって──」と、使い方を説明してくれる。
「──と、まぁそんな感じだ」
「分かりました。貴重な物をありがとうございます。お礼に今日、夕飯を一緒に食べませんか? 旅の話も聞きたいですし」
「──ごめん、妻と子供を待たせているんだ」
ルーカスさんはそう言って恥ずかしそうに頬を掻く。
「え……!? いつの間に……」
「ごめん。もっと早く伝えようと思っていたんだが、バタバタしている間に、報告が今日になってしまった」
「それは良いですけど……お子さんは男の子ですか?」
「いや、女の子だよ」
「へぇー、名前は?」
「アリス」
「アリスちゃんか……可愛い名前ですね! 何歳になるんです?」
「今年で七歳になるよ」
「ホープとは3歳差か。ルーカスさんの娘さんだから可愛いんだろうなぁ……」
俺がそう言うとルーカスさんは照れ臭くなったのか、頬を掻く。
「可愛いは可愛いけど……ちょっと活発的というか、お転婆で参ってしまうよ」
「あははは、良いじゃないですか。うちのホープと気が合いそうだ。ところでお祝いに何か──」
俺が言い掛けると、ルーカスさんは首を横に振り、立ち上がりながら「いらないよ。マジック・ダガーだって甥っ子に御土産をあげる気持ちで持って来たんだ」と言って、歩き出した。
「ありがとうございました!」と、もう一度お礼を言うと、ルーカスさんは背を向けながら手を振ってくれた。
──にしても、ルーカスさんに子供がいたなんて、驚いた……奥さんもどんな人だろ? いつか会ってみたいな。
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