第6話
その日の夜。俺はトイレに行きたくて目を覚ます。夜中だし、近くだから仮面は持つだけで良いかと、グローブとローブだけ纏って部屋から出る。
ちょっと漏れそうになり急いで廊下の角を曲がると──誰かとぶつかってしまった。その拍子に仮面が吹き飛び、慌てて片手で顔を隠しながらキョロキョロと辺りを見渡す。
「──アルウィン様?」
え、この声は……指の隙間から声がした方向を見ると、ペタンと座り込んでいるエマ王女が目に入った。俺は直ぐに背中を向けると、仮面を回収しながら「すみません!」と謝る。
そして仮面を身に着け、エマ王女の方へと体を向けると、手を差し出し、「誰も居ないと思って不注意でした」
エマ王女はキョトンと驚いた顔を崩さず、俺の手を取らない。どうしたんだ? と、思っていると「アルウィン様……その髪の毛、どうされたんですか?」
髪の毛? まさか!? 慌てて頭を触ると、そのまさかだった。ぶつかった時に、フードが脱げてしまっていたのだ。
「えっと……これは……」
「まさか魔物と戦った時に?」
「あ──えぇ、そうです! その時に呪いを受けてしまいまして……」
エマ王女は両手で口を覆うと「まぁ……それは大変……だから今日、祝賀会を抜け出して、部屋に閉じこもって出てこないのですね?」
「はい。あの、治す方法はもう分かっているんですが、なかなか難しい方法でして、呪いが解けるまで皆には内緒にして頂けますか? 心配を掛けたくないので……」
エマ王女は口から手を離すと、ゆっくり立ち上がり、ニコッと微笑みながら「もちろんですわ」
「良かった……では私はこれで失礼します」
「はい。おやすみなさい」
「おやすみなさい」
俺は逃げるように、そそくさとその場を立ち去る。──それにしても驚いた。俺のこんな姿をみても、騒ぎ立てることなく普通に接してくれるなんて……もしかして彼女は人を見掛けで判断するようなタイプじゃないのかもしれない。
※※※
次の日の朝。用意して貰った朝食を個室で食べながら、窓の外を見つめていると、何処からかニャー……ニャー……と猫の声が聞こえてきた。
声がする方に視線を向けると、何とまだ体の小さな黒猫が木から落ちそうになっていた。猫だから木から落ちても大丈夫かもしれないが、可哀想になった俺は直ぐに魔導書を開いて浮遊魔法を探した。
「待ってろよ……よし、あった」
俺は魔法を見つけると、直ぐに立ち上がり、窓を開けて猫に向かって浮遊魔法を唱えた。
「にゃ!?」
猫は一瞬、驚いたような声を出したが、その後は暴れることなく大人しくしていた。その間に俺は、ゆっくりと猫を下ろしていく──猫は地面に下ろされると、ピューッと直ぐに逃げていった。
「良かったな」
そう口にしながら窓を閉めようとすると、エマ王女が見上げながら、こちらを見ているのが目に入った。
いまの全部、見てたのかな? 別に見られたって良いのだけど、何だか照れくさくて俺は直ぐに窓を閉めてしまった。
窓を閉めてから少し経って、不快に思われなかっただろうか? と、少し心配になる。まぁ……思われたとしてもやってしまったものは仕方ないよな。 それより今後の事を考えなければ……。
椅子に座ろうと手を掛けた所で、コンコンとノック音が聞こえてくる。俺は「はい」返事をして、ドアの方へと向かった。
「エマです。入っても良いですか?」
「あ、はい。どうぞ」
「お邪魔します」
ドアを開け、エマ王女が入ってくる。そこには別のお客さんも居た。
「さっきは助けてくれて、どうもありがとうございました」
エマ王女はそう言って、腕に抱えているさっき助けた猫の頭を軽く押しお辞儀をさせる。その仕草が何とも言えないぐらい可愛らしくて、思わず笑みが零れてしまう。
「いえ……どうも……」
俺が返事をすると、猫は急に暴れだし、エマ王女の腕からピョンと下りると、またもやピューっと行ってしまった。
「まったくあの子は……」
「ははははは……」
「アルウィン様は猫がお好きなんですか?」
「はい! うちの周りによく来る猫が居て──」
俺はついついエマ王女に向かって世間話をしてしまう。
「あ、すみません……私の話なんて詰まらなかったですよね?」
「ふふ、私も猫が好きなので大丈夫ですよ。さっきの行動をみてましたけど、アルウィン様はお優しい方なんですね」
「え? いや……そんな……たまたまです」
「この国も救ってくれましたし、謙遜なさらなくても良いのに……」
「そういうエマ王女様だって優しいじゃないですか?」
俺がそう言うと、エマ王女は不思議そうに顔を傾けながら「え? 私が?」
「俺があんな姿なのを知ってるのに、怖がらずに接してくれているじゃないですか」
「そんなの当たり前です!」
エマ王女はそう言いつつも照れくさそうに俯く。エマ王女って、純粋無垢って感じで本当に良い子だな。
「──あ、すみません。療養中なのに私ったら長々と……」
「あ、いえ。大丈夫です。むしろ、また来てもらえると嬉しいです」
「え、本当ですか?」と、エマ王女は笑顔で返事をして両手を合わせると「では、またお邪魔させて頂きますね」
「はい、是非」
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