第5話
魔力を温存しながら、敵の攻撃を切り抜け、城に向かって走っていると、目の前にピエロの格好をした男が上空から、ゆっくり下りてくる。俺は様子を見るため、立ち止まった。ゲームではこういう変な奴がボスだったりするから油断できない。
ピエロは宙に浮いたまま俺の前に立ち「我が名はピエール……この襲撃の指揮を執る者」と、甲高い声で自己紹介を始める。
基本、魔物は人間の言葉を話さない。話す魔物が居るとすると少なくとも知性が高く厄介な敵であることは確かだ。
うわぁ……マジで当たっちまった。でも好都合だ。こいつを倒せば魔物は散っていくかもしれない。チマチマやっていたって仕方ない!!
「そんなお偉いさんが、俺に何の用だよ?」
「お前から危険な匂いがした」
ゲッ……それって魔法石の事だよな!?
「だから私が直々に手を下そうと下りてきたのだ」
「そりゃどうも!」
俺がそう口にすると同時にフレイムを放つと、ピエールは空へと飛びクルッと一回転をして、俺の背後へと回る。その動きが速すぎて対応できていない間に鋭利な何かで背中を斬られ、蹴り飛ばされてしまった。
俺は堪らず膝をつく。直ぐに立ち上がると、ピエールの方を向きながらヒールを唱えた。
「クソっ!」
「オ~ホッホッホッホ。あなた、危険な匂いがした割には、すごく弱いですね。どうやら私の勘違いだったようです……もう死んでもらいましょう!!」
ピエールは俺に向かって右手を突き出す。すると掌から禍々しい黒い塊が現れ、大きく膨らんでいく──。
「漆黒の深淵に
ピエールの詠唱が終わり黒い物体が放たれる。弱い……冴えない……そんな風に思われていたって良いことが1つある! それは──。
「マジック・シールド!!」
そう思われている間、敵は油断をするって事だッ! 俺は魔法石を左手で握り締め、魔導書に書かれていた魔法の一つで自分の周りに魔力で出来た壁を張って、ピエールの魔法を防ぐ。
防がれた事が予想外だったようでピエールは驚き固まっている。その間に俺は、すかさず自分の動きを何倍も速くするクイックの魔法を唱え、ピエールの後ろへと回りこんだ。
「冴えない奴だってな。ちょっとしたキッカケで化けることだってあんだよッ!」
ピエールは状況が掴めていない様子で振り向きもしない。その間に俺は「太陽の様に燃え盛る熱き炎よ。槍のように邪悪なものを貫き、暗闇を照らせ!!」と上級魔法の詠唱を済ませ、炎で出来た槍を作り上げた。
「ソール・ランスッ!!!」とピエールの背中に突き刺すと、炎の槍はピエールの臓器を焼きながら、風穴を開ける。
ピエールは耳を塞ぎたくなるような高音で奇声を上げ──地面に倒れこんだ。その奇声を聞きつけたのか悪魔のような翼を生やした魔物が空から現れる。その魔物は下りる事なくピエールを見つけると直ぐに去っていった。
「ふぅ……助かったぁ……俺はもう魔力が残っていない。それに──」
俺は手に握っていた魔法石を確認する。予想通り魔法石は魔力を使い果たし、青色へと変わっていた。
「参ったな……」
ちょっと調子に乗り過ぎたか? でもこれで、この国は救われたんだ。良しとするしかないよな……俺は魔法石をローブのポケットにしまうと、城門へ向かって歩き出した。
※※※
王都を襲っていた魔物は、すっかり居なくなり平和が戻る。俺は王都の住人が指揮官を倒したことを証言してくれたおかげで、この国の英雄となった。
その日の祝賀会で王様は娘と結婚しないか? と提案してくれたが、傷が癒えるまで待ってくれないかと返答を先延ばしにした。
別に王女に不満がある訳ではない。王女はサラサラと綺麗な銀髪にアメジストのような綺麗な瞳をしていて、絶世の美女と呼ばれているのに相違ない、美しい女性だ。だけど俺は醜い姿、受け入れてもらえるはずがない……。
俺は今、傷が癒えるまで使っていいと用意してもらった部屋で、外を眺めながらこれからどうするかを考えていた。するとコンコンと優しくドアをノックする音が聞こえ「はい」と返事をする。
「あの……エマです。アルウィン様、そのままで構いませんので、話を聞いて貰えませんか?」と、透き通った美しい声でエマ王女は話しかけてきた。
「あ、はい」
「結婚の話……お気になさらずに、自分の気持ちを大切に決めてくださいね」
「あ、はい!」
「あと、今日は御疲れでしょうから、ゆっくり休んでくださいね」
「はい。ありがとうございます!」
「いえ、こちらこそ王都を救っていただき、ありがとうございました。では、失礼します」
美人だけじゃなく、なんて優しい王女様なんだ……クソっ! 出来れば一日でも早く、お近づきになりたい!! そのためには、魔法石に力を溜めないと……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます