第4話

「ここが王都エマーブル……」


 想像していたよりも、遥かに建物が所狭しと並ぶ、大きな都だ。だが魔物の襲撃により、建物は酷く崩れ、あちこちで火が上がっている。酷い有様だ。


「こちらです」


 呆然と立ち尽くしている俺に向かって、兵士が声を掛けてくる。俺が「はい、すみません」と、言って歩き出すと、奥の方から別の兵士が駆けてきた。


「トム! 戻ったのか」

「はい、遅くなりました」

「戻ったばかりで悪いが、急いで城門の方へと向かってくれ」


「え、でも……」とトムさんは言って、俺の方へと体を向ける。


「あ、俺なら大丈夫です。一人でどうにかしますので」

「ありがとうございます! 人命救助だけで構いませんので、よろしくお願い致します!」

「分かりました」


「ご武運を」と、トムさんはペコリと頭を下げると、兵士と一緒に奥へと駆けて行った──。


 俺はトムさんを見送った後、後ろを振り返り「人命救助ねぇ……」と、呟いた。後ろには魔物の軍団が押し寄せていた。


 ※※※


 オークにゴブリンが、わんさかいるな……俺一人でどうにかなるレベルか? いや──周りには誰も居ないんだ。俺がなんとかするしかない! 


 俺は両手に炎を出し、魔物の軍団に駆け寄ると、火炎放射器の様に炎を放出しながら「フレイム・ダンス!!!」と舞い踊るように放っていく。

 

 フレイム・ダンスは広範囲だけあって威力は少ない。だけど敵を寄せ付けず、大勢の敵を相手にするのに向いている──5匹……10匹……と、バッダバッダと魔物達が倒れていき、爽快感が半端ない! 


 一年、山に籠ってウルフの様な速い魔物を複数相手に修行してきた成果で、魔物達の動きを簡単に追えるし、魔力も体力もそう簡単には落ちない。まさか冴えない俺がここまで成長できるとは思っていなかった。


 正直、師匠と修行をしていた時は、師匠が居る事に甘えていた部分があった。だからなかなか成長しなかったのかもしれない。人間、必死に頑張ればここまで成長できるんだ──。


「残すはオーク一匹ッ!!!」と叫び、ファイアボールを放とうしたが「──クソッ! 魔力切れか!!」

 

 俺はオークの槍攻撃をかわすことが出来ず、肩にくらってしまう。俺は剣を持っていないし、魔法の邪魔になるので盾も装備していない。魔力が空になった状態になってしまえば脆くて、魔物の攻撃を防ぐ術が避けるか、魔法石を使う以外に無くなってしまう。


 それすらさせないとオークが俺にトドメを刺そうと、すかさず槍を振り上げる。ここまでか! と、諦めて目を瞑った瞬間──。


「ファイアボール」と、聞き覚えのある渋い声が聞こえ、オークの悲鳴が上がった。慌てて目を開けると、そこには師匠が立っていた。


「師匠!! どうしてここに!?」


 師匠は周りを見ながらゆっくりこちらへ近づき「わしも応援に来てくれと呼ばれたのだよ」


「そうでしたか……」


 師匠は俺の前で立ち止まると、肩に手を当て「ヒール」と回復魔法を掛けてくれる。


「ありがとうございます」

「さっきの態度は何だ。最後まで諦めるでないぞ」

「あ……はい、すみません」

「うむ。これ、お前が一人でやったのか?」

「はい」

「そうか。魔法石を使ってか?」

「いえ、使わずです」


 師匠はそれを聞いて、ニコッと微笑み、肩をポンポンと叩く。


「そうか、そうか。よくやったなアルウィン。見事に成長したんだな」

「師匠……」


 滅多に褒めてくれなかった師匠が、褒めてくれた……たったそれだけなのに、涙が込み上げてくるほど嬉しい。やっと認めてくれたんだ。


「馬鹿弟子め。泣いている場合ではないぞ」

「はい!」

「ほれ」と、師匠は言って、魔力を回復させる水色の液体の入ったボトルを差し出してくれる。俺は受け取ると「ありがとうございます」と返事をして、マジックウォーターを飲み干した。


「さて──」と師匠は後ろを振り返る。よく見ると、魔物の軍団が、また近づいていた。


「師匠、やっちゃいましょう!」

「──いや、お前は先に行け」

「え……でも……」

「わしはお前の師匠だぞ? これしきの事、何ともないわ!」

「──そうでしたね。では先に城門の方へ向かわせて頂きます!」

「うむ、十分に気をつけてな」

「はい! ご武運を!」

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