第3話

 ぜってぇ、お前の悔しがる姿を見てやると決意したのは良いが、俺は本当に冴えない。唯一、人より優れているのは魔法が使えるというぐらいか……他の魔法使いと比べれば大したことは無いが、これを伸ばせば何かの役に立つかもしれない。どのみち、この姿のままじゃいられないんだ。食料調達ついでに魔物と戦って、魔力を高めていくしかないよな。


 ──雪が舞う中、外に出て数分歩いていると、ウルフのような魔物が目に入る。こいつは割と見かける奴だ。相手は一匹、戦ってみるか。


 俺が掌から炎の丸い塊を出すと、魔物は俺に気づいたようで、「グルルルル」と唸りながら臨戦態勢に入る。


 こちらの世界に来てから、魔物と戦うのは初めてではない。何回もあるけど、その時はいつも師匠が見ていてくれて、危険な時はいつもサポートしてくれていた。


 それがあると無いとじゃ、気持ちに雲泥の差があって、足はガクガクと震え、寒いというのに緊張で汗が滲み出てくる……でも、一人でどうにかしていくしかないんだ。逃げてなんていられないッ!!


「くらえ、ファイアボール」と俺が魔物に投げつけると、魔物は難なく魔法をかわし、一気に距離と詰めてくる。

 

 勢いよく飛びかかってきたので、俺はかわした──が、かわし切れなかった様で右の肩を噛まれてしまった。


「痛てぇぇぇ!!!」


 クソッ! 変化の魔法だから見掛けはアンデッドでも、人間と変わらないのか!!


 左手で肩を抑え「ヒール」と回復魔法を掛ける。傷はまだ癒えていないのに、魔物は容赦なく、駆け寄ってきた。俺は左手を離し右手から広範囲の炎を出す。


「フレイム!」


 魔物は急に立ち止まったが、魔法がかすった様で「キャイン」と悲鳴を上げると、俺から距離を取った。魔力の消費は激しいが、速い敵にはフレイムの方が使えそうだな。


 魔物はさっきの一撃で警戒しているのか、なかなか攻撃を仕掛けて来なくなる。くそ、長期戦になりそうだな──攻防が繰り返され、お互いが致命傷を与えられないまま、数分が過ぎる。


「はぁ……はぁ……」


 さすがに息が上がり、魔法もあと一発で終わりの状況へと追い込まれてしまった。こうなったら──俺は自ら魔物に向かって駆け寄っていく。魔物も駆け寄ってきて、太もも目掛けて飛び掛かってきた。俺は避けずに、わざと喰いつかれる。


「グゥゥゥゥ……」


 激痛に耐えつつ俺は、魔物の胴体目掛けてゼロ距離で「ファイアボール」と放った。魔物は一気に燃え上がり、太ももから口を離す。


 俺は這いながらその場を離れ、自分に点いた火を雪で消す。


「まったく……たった一匹に何て様だ」


 俺はローブを破いて止血をしながら、今の戦いを振り返る──このままではマズイ……筋力トレーニングをして体力を高めないと……あと問題なのは魔力。


 魔力とは魔法を生み出すのに必要なエネルギー、そのエネルギーを生み出すには大気中に漂う魔法の原料となる魔素マナを体内に取り込む必要がある。


 でも空気中に漂っている魔素は非常に薄く、体内に吸収されるまで時間が掛かる。それに人によって魔素を取り込める量は決まっていて、精神力を高めないと、その量を変える事は出来ない。


 もし過剰に魔素を摂取してしまうと、拒絶反応を示し、精神的な異常が出てしまうのだ。そこが難しいところ……。


 魔力は魔法使いに限らず、誰にでも存在する。でも魔法を使えない人がいるのは、取り込める魔素が少ない、あるいは魔力のコントロールの仕方が分からない等、様々な理由があるからだ。だから当然、どんな魔物にも魔力は存在する。


 魔物を倒すと、魔物の体内に蓄えられていた魔素が外に流れ出て、一瞬、その場は魔素が濃くなる。精神力に余裕があるのなら、それを吸収して魔力を高めるチャンスとなる訳だが……。


 いずれにしても、この世界にはゲームみたいなレベルアップは存在しない。より多くの魔力を扱えるようになるには、精神力を鍛えて大量の魔物を倒し、その魔素を蓄える必要があるから、直ぐにどうこうは出来ない。


 今日のところは大人しく帰って、魔導書を読み直すとするか……。


 ※※※


 それから1年の月日が流れる──食料調達のため、俺がいつものように山を歩いていると、一人の兵士が血を流して倒れているのを見かける。俺は慌てて駆け寄って、背中を支えながら「ヒール」と回復魔法を掛けた。


 少しして傷が塞がった兵士はスクッと立ち上がり「ありがとうございます……助かりました……」


「どう致しまして。ところで、こんな山奥でどうされたんですか?」

「あ、実は王都が魔物の襲撃にあっていまして、助けを求めてこちらに来たところ、恥ずかしながら魔物に襲われてしまって……」

「え……王都って、エマーブルの事ですか?」

「はい」


 エマーブルと言ったら、この大陸で一番に栄えている王都。それなのに辺鄙へんぴな場所まで助けを求めなければならない状況になっていただなんて……ずっとここに住んでいたから、知らなかった。


「あの……あなた魔法使いですよね? お力を貸して頂けないでしょうか?」


 どうする……? これはのし上るのに、ものすごくチャンスだぞ。でも俺にそんな大きな仕事が出来るのか? それに万が一、仮面が割れたり外れたら……。


「難しいでしょうか?」

「あ、いや……」


 大きな仕事だが、いざとなったら俺には魔法石がある。仮面だって気を付けて戦えば良いだけだ。オーウェンより上に行くのに、このチャンスを逃すのは勿体ない気がする。それに……アニメの世界とはいえ、見過ごすのは後味が悪い。


「そんな状況なら助けたいと思います。ぜひ案内してください」

「ありがとうございます!」


 アーメットヘルムで顔の表情は分からないが、兵士は嬉しそうにそう言って「では、こちらへ」と案内を始めた。

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