第16話

 俺は単身で東の洞窟へと潜り、ルーカスさんが嫌な魔力がすると言っていた場所へと向かう。


 奴はメタルフォーゼを使ってイリュージョン・ミストまで使えた魔物……ボスクラスの魔力を秘めた魔物に違いないから、嫌な魔力を発していたのは多分、奴だ。


 昼間に魔物退治をしたお蔭で、ほとんど魔物と出くわすことがないけど──。


「フレイム!」


 まだ状態異常系の攻撃をしてくる厄介な魔物は残っていて、俺はホーネットタイプの魔物を数匹、焼き払う。こういう魔物は倒しながら進まないと、後で雑魚にさえ苦戦することになる。


 ──魔力の消費を抑えつつ、先に進むと何やら奥の方から話し声が聞こえてきた。


「ち……何を言っているのか分からない」


 俺はフィアーナさんから貰った小袋を手に取ると、魔訳の木の実を取り出し、食べてみる。


「賢者の石の出来損ないとはいえ、とんでもない魔力を秘めているねぇ……それに何とも美しい」

「ファシナンテ様。それ、使ってみましょうよ!」


 おぉ……ちゃんと分かる。俺は岩陰に隠れながら声のする方を覗いた。俺から魔法石を取った奴と、メデゥーサ系の魔物が1匹、ひらけた場所で会話をしている。


「ダメだね。こいつはデストルクシオン様に未使用でお渡しするんだ」

「えぇ……」


 良かった……まだ使われてはいない様で安心した。だったらサッサッと取り戻す! まずは手下の方からだ。奴の目を見たら石化してしまう事を考えると魔法は──。


 俺はひらけた場所に進み、敵がこちらを振り向く間も与えず右手をメデゥーサ系の魔物の方に突き出し「アイシクル!」と、魔法を繰り出した。


 アイシクルはフレイムの様に広範囲ではないが、遠くの敵を複数の氷柱で射貫く事が出来る氷魔法……急所に刺されば即死させることだって出来るはず!


 俺が放った氷柱は魔物の肩……胴……そして顔面へと突き刺さり──魔物は奇声をあげることなく倒れた。


 ファシナンテの方にも氷柱は数本、飛んでいったが……マジック・シールドで防がれていた。


「おバカさんねぇ、私が気付いていないとでも思ったのかしら?」

「思ってねぇよ」

「ふふふ……あなた、これを取り返しに来たの?」


 ファシナンテは手に持っていた魔法石を上に放り投げてはキャッチしを繰り返す。まるで取れるものなら、取って御覧なさいと挑発している様だ。


「あぁ……」


 ファシナンテは魔法石をキャッチすると、胸の開いた赤いレオタードの胸元にしまい込む。そして顔を隠すかのように左手を顔の前に持って来た。ビキキキキ……と、ファシナンテの顔から異様な音が聞こえてくる。


「どうやって?」と、ファシナンテはエマ王女の声を出してくるが、まだ間に合う!


「隙だらけのお前を殺してだよッ!!」


 俺は直ぐに上級魔法を詠唱し始めた──が、ファシナンテはメタルフォーゼの詠唱に慣れている様で、俺より早く詠唱を終え、左手を外して顔を曝け出す。


「愛しのこのエマ王女の姿に、攻撃を躊躇った人が?」

「クッ……」

「あぁ……良い顔♪ さぁて、どうやってあなたを殺そうかしら? 毒でジワジワ……? それも良いけど、幻覚をみせて何度もエマ王女を殺すあなたの涙と鼻水でグチャグチャになった顔を見ながら、サクッと殺すのも良いわねぇ……」


 こいつ……相当、イカレてやがる!! 惑わされるなッ……姿はエマ王女でも中身は全然、違うだろッ!!! そう言い聞かせているのに、体が何故か拒否をする。


「あぁ……ゾクゾクするわぁ。こいつを殺してデストルクシオン様に魔法石をプレゼントしたら、デストルクシオン様、どんな風に褒めて下さるかしらぁ。じゅるり……」


 ファシナンテは中指でヨダレを拭う。その隙に俺は何とか体を動かし、ファシナンテに向かって突進していった──ファシナンテはそれを難なくかわし、俺を蹴り飛ばす。


「グゥ……」


 見掛けによらず、なんて重い蹴りだ。俺はグラつき膝をつきそうになる。


 蹴る前にビキキキキ……と気持ち悪い音をさせているから、きっとこいつは威力が増す様に自分の身体をコントロールしているんだ。


「非力な魔法使い如きが、力で私に敵うと思って? はぁ……ピエールを倒すぐらいだからもっと楽しめると思っていたけど……違ったみたいね。もう良いわ、後は私の手下たちがあなたの相手をしてくれるみたいだし、私はあなたがもがき苦しむ所を見物してるわね」


 なんだと……後ろから魔物が近づいているのか!? 振り返って確認したいが万が一、メデゥーサ系の魔物が居たらアウトだ……クソッ、万事休すなのか!?

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