第8話

 こうして俺達は無事に結ばれる。王様と王妃様に外に出られなかった事情を話すと、二人はすんなりと受け入れてくれた。そして俺達が結ばれた事も……。


 直ぐに結婚の話が挙がったが、周りにはまだ信じてくれない人がいて、その話は保留となった。俺達はそれでも構わない。こうして堂々と、二人で過ごせるのだから……。


 それから一年が経つ──俺はその間、城の周りの魔物退治をしたり、魔導書を読んだりと修行を欠かさず行っていた。


 前の様にボスレベルの敵が現れないとは限らないし、魔物の動きが活発化している噂を聞くからだ。


 でも悪い噂ばかりではない。最近、世界的に有名な勇者御一行が、この地域周辺で活躍をしているらしい。どんなに凄いのか、一度は会ってみたいものだ。


 いま俺は、いつものように王都を見回りしている。


「アルウィンさん、おはようございます」

「おはようございます」

「王女様とはどうだい?」

「まぁ……順調だと思います」

「そうかい! 今度、珍しいフルーツを持って行ってやるから、二人で食べてくれよ」

「ありがとうございます」


 魔物の襲撃により損壊した建物などがまだ残っているのに、こうやって見回りをしていると、色々な人が笑顔で俺に声を掛けてくれる。その度に辛かった時期が嘘だったかのように心がポカポカと温かくなってきて、この王都を救えて本当に良かったと思えてくる。


 ──しばらく見回りを続けていると、住民の中年女性達から気になる会話が聞こえてきて、俺は足を止める。


「最近、リーマイン周辺に魔物が増えてきているらしいわよ」

「あら、やだ。本当?」

「えぇ、噂では言葉を話す魔物も居たとか、居ないとか……」

「あら……怖いわね……」

「でもあそこはルフレイフ家があるじゃない? それに魔法使いの中で有名な──なんだっけ?」

「モーリエ様?」

「そう、それ! モーリエ様がいるじゃない。きっと大丈夫よ」

「そうよね」


 中年女性たちが移動を始め、俺も見回りを中断して城に向かって歩き出す──。


 リーマインは俺の故郷……その周辺で魔物が増えているだって? ルフレイフ家は確かにあるが、オーウェンの性格を考えると、親も似たような性格で住民を置いて逃げる可能性は十分に考えられる。


 確かにモーリエ師匠も居るが、こういっちゃ悪いが相当の歳だ……大丈夫だろうか? そう考えながら城の廊下を歩いていると、正面からエマ王女が歩いてくる。


 エマ王女は俺に気付いた様で、ゆっくり足を止めると「どうかされましたか?」と声を掛けてくる。俺も足を止め、エマ王女と向き合った。


「え?」

「暗い表情をされていたので……」

「ふ……さすがですね」

「えっへん。私はアルウィン様が仮面をつけていても分かりますよ?」


 そう言ったエマ王女は両手を腰に当て、どこか自慢げだ。こういう表情も見せるんだな。いつもとちょっと違うエマ王女を見られて張り詰めた気持ちが少し安らぐ。


「実は──」


 俺は故郷に魔物が集まりつつあることを、エマ王女に説明する。するとエマ王女は直ぐに「まぁ大変! では直ぐに精鋭部隊を集めますわ! アルウィン様、率いて下さいませ!」


「ちょ……ちょっと待ってください。知性のありそうな魔物が居る噂もありますし、まずは私が様子を見てきます」

「そ、そうですよね……私ったら心配で先走ってしまいましたわ。お恥ずかしい……」


 エマ王女は本当に恥ずかしい様で、頬を赤くして両手でホッペを押さえる。


「心配してくださり、ありがとうございます! では、今から行って参ります」

「魔法石の魔力が残っているとはいえ、無理をなさらずに……」

「はい!」


 魔法石は全ての魔力を使ってしまうと青になる。それはピエールを倒した時に実証済みだ。なのに今回、リバース・リターンを使っても魔法石は青にはならなかった。きっと俺の魔力が上がったことで、魔法石の魔力は使ったものの、使い切るまでに至らなかったのだと推測している。


 だからといって油断は出来ない。ヤバくなったら魔法石を使うより逃げる事を優先に考えよう。

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