第56回 覚醒するLIVER

 現在、真芯湖のほとり。

 ライヴレイヴの掌で銀河に抱き締められながら叶羽は記憶を取り戻した。


「……思い出した。何もかも……」


 腹部の激痛を堪えながら叶羽は銀河を突き飛ばした。

 真っ赤な鮮血が、ボタボタと手の隙間から下に零れ落ちる。


「おっと、何を思い出したのかな」

「全部……そう貴方の事も、大昔の月のことも」

「へぇ、それはとっても聞きたいな……と思ったけど時間がないんだな」


 銀河はライヴレイヴに搭乗すると、ライヴレイヴは叶羽を逃がさないように握った。

 突然、強く握ったせいか腕が肩から外れたような音が鳴った。


「グ、グウゥゥゥァーッ!?」


 激痛に歯を食い縛る叶羽。


「痛いだろう? でも大丈夫だ。ライヴレイヴの光の力は傷も癒せる……だが、今はその時ではない。ハネムーンは何処がいいかな?」

「誰がお前なんか……ギィッ?!」


 更に締まるライヴレイヴの右手。

 叶羽の意識が飛び、ぐったりと項垂れると身体から五色の光が漏れた。

 ライヴレイヴはフワフワと浮かぶ五色の光を体内に取り込む。


「…………」

「それにしても面白いシステムだよね。精神的、肉体的の限界が訪れたときライヴシリーズの生体認証が外れる。そして今、五体のライヴシリーズは俺のモノとなったわけだ。はははっ!」


 高笑いの銀河。

 そこへ、高速飛行でやって来る銀色の機体。


「叶羽ゥーッ!」


 真月武のライヴエヴォルとライヴフェイクの軍勢だ。


「死に損ないがっ! まだ向かってくる!」


 ライヴレイヴの光弾の雨を、ライヴエヴォルの武は傘下のライヴフェイクを盾にしながら向かってくる。


「無駄なこと。所詮は人類がライヴシリーズを模造した機体だ。それがオリジナルに勝てるわけないだろ!!」

「レフィもいる!」


 廃ビルの上に武者の影。

 更にやって来たのは、レフィのザエモン魁だ。

 銀河がライヴエヴォルに気を取られている隙に、数十メートル近くまで接近していた。


「何人来ようとも無駄だァーッ!!!」


 突然、目の前が真っ白になるほど目映い閃光がライヴレイヴから放たれる。

 直視出来ないほどの目映く光は障壁となってがレフィたちを襲い、一同は周辺の廃墟に吹き飛ばされる。

 装甲の薄いライヴフェイクの軍団はその場で機体が握り潰されたかのようにひしゃげ、爆発していった。


「ふふふ、ははは……いいぞ! これがライヴシリーズの真の力か?!」


 ライヴレイヴの姿が変化する。

 自身も合わせて6体全てのライヴシリーズの力が一つになる。


「見せてやろう。これが古代月文明の生み出した力である“ライバーリライブ”だッ!!」


 銀河の高笑いが響く。

 空間そのものを揺らしながら、真芯湖を包み込む膨大なエネルギーを発するライヴレイヴ。

 その禍々しい光景に誰もが己の生存を諦めかけた。



 ◆◇◆◇◆



「………………何故だッ? 何も起こらない、どうしたライヴレイヴ!?」


 しかし、突如ライヴレイヴの力はみるみる内に充足していき、激しく揺れる真芯湖は一瞬にして静寂に包まれた。


「出力が低下している?! ライヴレイヴ、その力を我に示せ!!」


 動揺する銀河。

 ライヴレイヴを覆っていた光が徐々に収縮する。

 一瞬だけ姿に変化か見られたが元のライヴレイヴの姿に戻っていくと、取り込んだ五つの光球が飛び出す。


「「無駄です。その力は悪しき心を持った貴方では操ることは出来ない」」


 不思議な声と共に突如、ライヴレイヴの右手が弾け飛ぶ。

 光に包まれた叶羽は宙に浮いていた。


「「この力は他者を傷つけるためにあるのではありません」」

「か、叶羽……いや、貴方は“ナウカ”様だというのか?!」


 銀河は今の叶羽を見てそう呼んだ。

 その表情や立ち振舞い、姿は同じでも普段の叶羽とは違う雰囲気を醸し出すその少女は、叶羽の中に眠っているもう一人の存在。


「何故、今になって出てきた?! いや、出てきてはいたな……しかし、あれは貴方であって貴方ではない」

「「貴方たちがダイバースと呼ぶあの“竜王”のお陰です。あれは星の再生装置。全ての生命を浄化させる力を持つ。私に取り付き、怨念と化した月の民もようやく浄化されました。竜王の中にいる“お二人”に感謝です」」


 ライヴレイヴから解き放たれた四色の光球が叶羽──ナウカ──の中へと入る。


「……遂に、俺はこの日を千年近く待ち焦がれたのだ。女王、俺は……!」

「「私は誰ものでもありません。でも、貴方の力は返してもらいます」」


 叶羽の中から黒き魔神が這い出る。

 四色のライヴシリーズの力を手足に宿し黒き魔神ライヴイヴィルは騎士の様な姿へと変貌。


「ブッダ……」


 レフィが思わず手を合わせて拝んだ。

 神々しい黄金色の装甲は見るものを圧倒する。


「「これが、真なる生気騎士の姿。“ライヴリライヴ”と名付けました」」

「ふざけるなッ! そんなのは認めない……君は“いつだって”俺から奪う! また俺から何もかも奪うのかッ!?」


 激昂する銀河に呼応して、ライヴレイヴは超高温の赤白い光を放つ。

 その心はマシンに取り込まれているようだった。


「ユルサナイ、ユルサナイゾ……ナウカァァァァァァーッッ!!」

「「行きましょう叶羽。これが最後のLIVEです!」」

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