第57回 星神カナウ、最後の配信

 叶羽の心の中。


 ──か……な、う……かな、う……叶羽。


(君か……ボクの名前を呼ぶのは)


 ──まだ、生きていますね叶羽?


(これが、生きてるって言えるならね……君は女王様なんでしょ? いいよね、ボクは所詮、君に似せて作られたマガイモノだから)


 ──貴方は貴方です。私ではない。


(でも、君のお陰なんだよ。ボクがVチューバーやれるのも。本当のボクはもっと根暗で明るく喋ることなんて出来ないから)


 ──いいえ、私の心はライヴイヴィルの悪しき力によって操られていました。あと少しで完全に取り込まれるところでした。


(それで、どうするの? ボクの身体を奪う?)


 ──今の私と叶羽は一心同体。そんなことはいたしません……ですが、もう少しだけ貴方の中に居させて欲しいのです。


(わかったよ。その代わり、ボクに力を貸して。まだ、やらなきゃいけないことがボクにはある)


 ──いいでしょう。叶羽、貴方のためなら何処までも一緒です。



 ◆◇◆◇◆



 夕方の真芯湖の上空。

 黄金色に煌々と輝く魔神が一機、上り始める月に向かって指を差し叫んだ。


『皆ぁ、こんかなぁ!!』


〈こんかな〉

〈こんかな!〉

〈初見です〉

《こんかな待ってた》¥500

〈ちょい久々のこんかな〉


 MyTUBE上で星神かなうのライブ配信が始まると直ぐに数千人の視聴者が集まった。


『星神かなうの配信も今回がラストになります! 皆様、今日まで応援していただいてありがとうございました!』


〈ありがとう!〉

〈最後まで見るぞ〉

《楽しい配信を今までありがとう》¥5000

〈アリガットウ! アリガットウ!〉

〈姫は戻ってくるって信じてる〉

《V辞めないでください》¥100

〈ありがとー〉

〈見届けるゾ〉


『そして、最後のバトルの相手……私の、私がこのライヴイヴィルに乗るきっかけとなったIDEALの天ノ川コスモ!! 私は彼女に勝ちます! コンテニューはありません、この一機に全てを賭けますので、どうか……私に、力を貸してください!』


 叶羽の言葉に視聴者から多くの応援でコメント欄が加速する。


『……ありがとう、じゃあ行くよ!』


 応援の力がライヴリライヴのパワーを増し、機体を虹色に輝かせると光は翼のような形となって背部の装甲から余剰エネルギーが溢れ出した。


『天ノ川コスモ!!』


 虹で軌道を描きながら突撃するライヴリライヴ。


「……ツマラナイ、クダラナイ、馬鹿馬鹿しい!!」


 激昂する銀河。

 二つの光が空で何度も激突する。

 

「何が配信だっ。ネットの見世物小屋に集まるだけの虫どもの声が一体何になる!?」

『それが貴方の本性ですか?』

「所詮は数だけ見て本質を理解しない有象無象どもだッ!」


 ライヴレイヴが両手に持つ銃剣から連続的に放たれる光弾がライヴリライヴを直撃する。

 だが、虹の輝きを持った装甲は傷一つ付かない。


「奴等は簡単に掌を返す。コスモは白と言えば黒になるし、黒と言えば白になった。それが気に入らなかったんだよ!」

『それだけの影響力があって、どうしてIDEALに協力した!!』


 叶羽のライヴリライヴは距離を取る。


「それは叶羽……君のためだよ」

『私の?!』

「君は目指すべき目標であり、ずっと恋い焦がれていた存在だ。君は誰にも渡さないずっと手元に置いておきたい、永遠に……」


 ライヴレイヴは接近してライヴリライヴの両腕を掴む。

 しかし、ライヴリライヴの胸部から放たれた虹色の衝撃波がライヴレイヴを吹き飛ばす。


「……だから、君の側に近付こうとする者、君を咎める者はすべて排除した!」

『私は誰の者でもないっ』

「だから物にしたいんだ! 人は手に入らないモノほど手にしたくなる、当然の欲だ! お前を、お前の力も手に入れて天ノ川コスモという虚構の存在は完成する! 誰もが敬う、名誉も、力も、世界の頂点として君臨する。ヴァーチャルでない現実なものとなるんだ!」


 白く純粋な悪意の銀河。

 再び向かってくるライヴレイヴの猛攻。

 高速で振り下ろされる銃剣の刃に対して、ライヴリライヴは手刀で往なしていく。


「IDEALは俺にとってステップでしかない。真道アークには感謝している。だが同時に恨んでいるよ。研究所(ラボ)では認められなかった、誉められるのはいつも君、101ばかり」

『そんなのボクの知ったことかっ!』

「……しかし、真道アークも既にこの世から消えた。後は君だけだ!!」


 突然、ライヴレイヴが叶羽の目の前から姿を消す。

 叶羽の視覚と機体のレーダー両方から銀河とライヴレイヴの位置が特定できなかった。


『……どこに消えた?』


 叶は周囲を警戒する。

 意識を集中して反撃のチャンスを伺う。


「……手に入れらないならば……」


 細かな粒子が空中に集まり、ライヴリライヴ後方の見えない位置から人型を形成するそれはライヴレイヴだった。


「俺の思い出になれ、101ッ!!」


 背後を取るライヴレイヴの銃剣から繰り出された光の弾丸がライヴリライヴを貫いた、かに思えた。


『……私は悲しいよ。私も、貴方の事が好きだった。Vチューバーとしても……でも今は違う』


 ライヴリライヴの姿が水面に移る波紋のように歪んで消えていく。


『後ろだ!』


 背後を取ったライヴリライヴ。

 ライヴレイヴの背中を思いきり蹴り飛ばす。

 吹き飛ばされた先で、ライヴリライヴからさらに追撃のパンチをお見舞いする。

 ひしゃげた顔面のライヴレイヴは勢いよく地面に落下した。


「あぁ……アァァァァー!! ナウカッ! 101ッ!」


 錯乱する銀河とライヴレイヴ。

 飛び上がって無差別に周辺を撃って攻撃する。

 攻撃の着弾先で建物が崩れ、退避していたYUSAの人達が危機にさらされた。


『させない!!』


 これ以上、被害を大きくさせないためライヴリライヴは複数に分裂するとYUSAの人々を守るために攻撃の盾となった。

 

「ウゥゥゥ……ナウカァァ! 101ンンッ!!」

『私は女王ナウカでも被験体ナンバー101でもない、私は“星神かなう”! 貴方を止めるものだ!!』

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