第42回 コーヒーブレイク

 星神かなうの宣戦布告動画から一週間が経過する。

 しかし、あれから天ノ川コスモ側からの反応は何一つなかった。


「…………スルーされてるね、叶羽」

「うん……」

 

 星神かなうの動画にはアンチコメントが大量に書き込まれ続け、低評価が高評価を上回るほどにもなり運営から収益化が剥奪された。


「ゆさえもんコラボまたやる?」

「やんない!!」

「……むぅ」


 もちろん、叶羽もただ待っているだけではない。

 レフィの協力の元、天ノ川コスモに関連するイベントや企業を訪ね回ったが有益な情報は何一つ得られなかった。


「むぅ……もしかして、本当は天ノ川コスモなんて実在してないんじゃ?」


 歩き疲れ、休憩に入った老舗の喫茶店。

 布製の収納ケースに入れた愛刀を椅子に掛けて、席につくなりレフィはテーブルにへばっていた。


「あつい……アイスコーヒーぷりーず」

「…………いる。絶対にいるんだ」


 注文したアイスコーヒーを一気に飲みながら、リュックから出したノートパソコンで次の天ノ川コスモ情報を調べる叶羽。

 

「バーチャルの存在なんかじゃない。奴は存在する。だったら正継さんや、エイミィは誰に殺されたの?」

「それは……むぅ」


 毎日、ネットでは観れるに見えない敵、天ノ川コスモ。

 最初の頃にSNSでやり取りした時のように、何度かメッセージを送ってみるも返事は返ってこなかった


「今までは向こうから襲いに来たってのに何でこっちからはダメなんだよぉ!」

「奇襲は敵の得意技……正義の味方のやることじゃない」

「…………正義、正義か。ボクが?」


 ふと疑問に思った。

 復讐や仇討ちを行うことは果たして正しいことなのだろうか、と。

 

「ボクはそう言うことのためにやるんじゃない」

「じゃあ何のため?」

「それは、ボクが前に進むためだよ。奴等をこの手で潰さないとボクの気が晴れないから」


 そうするのは全ては亡き友人と両親のため。

 IDEALのことは絶対に許さないと誓ったのだ。

 誰にも止めて欲しくないし止まるつもりもない。

 叶羽は自分に言い聞かせる。


「ねぇ、レフィさん」

「なに?」

「レフィさんの家族、お父さんやお母さんってどんな人?」


 ふと思いついたことを質問する叶羽。

 それに対してレフィは少し考えた。


「……レフィのママは日本が好きでパパと結婚した。レフィもママの影響で日本が好きになったよ」

「お父さんは?」

「パパは、仕事ばっかで思い出は……あった!」

「あるんかいっ」


 ツッコむ叶羽。


「剣のシショーを紹介してくれた。もう死んじゃったけど」

「それパパの思い出って言うかなぁ?」


 つまり父親とは良い思い出はないのだ、と叶羽はそれ以上聞かないことにした。


「じゃあ叶羽はパパとの思い出ってなに?」


 今度はレフィから逆に質問される。


「そりゃあボクはねぇ…………ボクは」


 そう言って叶羽は固まる。

 アイスコーヒーの氷を一口頬張って考え込んだ。


「……」

「どうしたの?」

「ん、いやぁ。ちょっと思い出してただけだよ。あるある! お父さんとの思い出ね」


 引きこもりだったのは中学一年生からだ。

 問題はそれ以前、小学生や幼稚園の頃である。


「…………待ってよ、そうだ小学校……どこ小で、えーとあれぇ?」


 叶羽は目の前のノートパソコンに市内の小学校一覧を検索する。

 だが、どの学校名も叶羽の記憶にはなかった。


「どのガッコ?」

「……」


 絶句する叶羽。

 カランカラン、とベルの付いた木製のドアが重そうに開いた。


「やあやあ叶羽ちゃん。それにレフィさんも、噂を聞いて迎えに来たよ」

「ぎ……銀河さん、遅いですよ! って、迎えに来たって?」


 現れたのは天領銀河だ。

 天ノ川コスモの手掛かりを探るべく、ここに呼んでいたのを叶羽はすっかり忘れていた。


「むぅ……」


 銀河の登場にレフィは怪訝な顔で睨むが銀河本人は気にせす笑っている。


「車を用意してある。このあと新真芯駅のビルでイベントがある。そこで天ノ川コスモがシークレットゲストで来るって情報が入ったんだ」


 他の客に聞こえないよう叶羽の耳元で話す銀河。


「そのイベントって?」

「劇場版ダイシャリオン製作発表会さ……」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る