第20回 見えない敵と鋼鉄の侍
雨が降ってきた。
空に真っ黒い雲が空を覆いう土砂降りの天気で、遠くには雷も鳴っていた。
小学生マイチューバー久住ルルことIDEALのルールーは、この戦闘を記録した映像を確認する。
『さすがはライヴラインの目は、そこらのカメラよりも画質がいい』
生配信よりも編集した動画を投稿するのが彼女のモットーだ。
良いところ厳選して映像を作る。将来は映画監督になるのも夢の一つであった。
『……そっか、別に壁が降りるのなんて待たずに上からいけばいいんじゃん』
1メートルずつ、ゆっくりと降りる焦げ付いた防護シャッターを眺めながら、ルルはようやく簡単な気が付いた。
『ライヴライン、アニマルモードにチェーンジ!』
ビルの影から飛び出したライヴラインが身体を捻る。
装甲の位置をスライドさせると人型から獅子のような姿に可変した。
『さっきのところカットして、ここから本番だよぉー! さっさと出てきて黒いヤツ!』
一見すると巨大ロボットのような姿に見えるライヴシリーズであるが搭乗者は操縦桿を握って操作している訳じゃない。
内部にあるシートに座ると精神と肉体が機体と融合し、搭乗者の思想そのままに操る事が出来る。
『がおがおー!!』
鋼鉄の獣と化したライヴラインが、廃墟のビルからビルへ次々と飛び移りながら高層へ移動する。
『じゃーん、丸見……っ!?』
防壁を覗き込むライヴラインは危機を察知して横っ飛び。
高速の弾丸が頭部を掠めた。
『不っ味ーい、見付かっちゃった?!』
◆◆◆◆◆
「惜しいな……天候に見放されたか」
狙撃ライフルを構えるイクサウドはターゲットを見失う。
「大口を叩いたはいいが、これでは大人のメンツが丸潰れだな」
機体をコントロールしている正継は雨を凌ぐため建物の中だった。
ディスプレイゴーグルの中に見えるAR空間に浮かんだレーダーが、先程まで関知していたライヴラインの姿を完全に消していることに疑問を覚えた。
「…………いないよな」
ゴーグルを外した正継は黙視で壁に囲まれた空を確認。
強風が囲いの中で吹き荒れて、葉っぱや細かい木々が舞っている。
恐ろしいほど不気味な雰囲気だった。
「………………イクサウド!」
両手のコントローラーを握りしめ、前に突き出すポーズをする正継。
その動きに反応してイクサウドが手を前に出すと狙撃ライフルが突然、切断された。
「正体、現したか!?」
何もない空間が歪み、姿を現すライヴラインの爪をイクサウドは必死に受け止めている。
「逃がすか!!」
ライヴラインが再び逃走とする。
ボディが周りの色と同化して今にも消えそうなライヴラインの背中に、イクサウドは右腕部から対人捕縛用のトリモチ弾を発射した。
「よし、狙い通り!」
正継はガッツポーズで空を見上げる。
下がっていく防護シャッターの外周を動くピンクのトリモチで、ライヴラインの位置が丸分かりだった。
しかし、
『なぁーんだ、そんな大した攻撃しかしてこないなら隠れる必要ないじゃーん。噂の黒いヤツも来ないし』
ライヴラインは透明化を解除した。
『でも、私は近付かない。鉄砲玉よりも良いものが、このルールーちゃんにはあるの』
土砂降りの雨音よりも大きく吼えるライヴライン。
『ライヴラインは電気を操る事が出来るの。今日の午後からは降水確率は百パーセント。雷雨も来る、それはライヴラインにとっては絶好の戦いびより!』
ルールーに味方するかのようにゴロゴロと暗雲が唸ると、口を大きく開けたライヴラインに雷が落ちた。
偶然ではなく二度三度、何度も何度も雷が避雷針となったライヴラインに集まっていた。
『来る、来るっ、来るッ!!』
バチバチと青い電気を身体に纏わせてYUSAの建物に狙いを定める。
『ライヴラインを通して、何十倍にも強くなったスーパーサンダーを食らえぇ!!』
発射寸前でハイテンションのルールー。
高性能となった彼女の目に映っていたのは刀の切っ先。
いつの間にかそこに立っていた金髪のサムライレディ、レフィの姿だった。
「The AMON.SHOW TIME!!」
雷鳴すら掻き消すレフィの叫びが、暗雲を切り裂いて青空を作った。
神話の神が降臨するように天から舞い降りた“巨大な剣”がライヴラインの頭を真っ二つに裂いた。
「wake up The AMON」
真っ直ぐ降下する大剣が地面スレスレで人型に変形する。
その姿は搭乗者のレフィと同じく、サムライの魂が形となった鎧武者であった。
『……あ……あぁ…………っ?!』
引き裂かれるコクピットから除く武者の眼光。
その時、ルールー──久住ルル──の中で何かが弾けた。
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