第21回 悪意の矛先
久住ルルはクォーターらしい。
らしい、というのは本人にも詳しくはわからないからだ。
外国人ハーフの母親一人に育てられ父親がいない。
褐色の肌、金色の髪、青い瞳。
一体、何人の血液が身体の中に混じっているのか。
母親が毎週違う男と仲良さげに歩いている所をクラスメイトに目撃され、そのことを弄られて生徒の輪から外され、近所の人から可愛そうな目で見られることもしばしばだった。
少女は“繋がり”が欲しかった。
家に帰ればずっと一人で母は朝帰り。
虐待を受けるようなことはなかったが、取っ替え引っ替え“父親役”を連れてくる母に嫌気が差していた。
そんな孤独な少女の前に一人の男が現れた。
──君はオンリーワンだ。その血は世界を統べるに相応しい素質を持っている。
その時の少女には男の言っている言葉はわからなかった。
だが不思議と心で理解できた瞬間だった。
◆◆◆◆◆
『ルルの顔……ルルは日本人だ…………あぁ、ああああァァァ!』
ルールーの仮面が砕け、久住ルルの慟哭が響くとき、ライヴラインに隠されたもう一つの力が覚醒する。
防護シャッターが完全に降りて横たわるライヴラインに、真芯湖周辺の瓦礫の中から、車の残骸や折れた標識など鉄屑が吸い付いてるかのように集まっていった。
「むぅ、ザエモン魁も引っ張られる」
「これはやばいな。第二段階というヤツか……来るぞ!」
退避するレフィの侍型SV。
三日月の兜に右肩に大盾を携えたマシン“ザエモン魁魁”と正継の操るイクサウドのいた頭上から、固めた鉄屑の弾丸の雨を降らす。
巨大な鋼のモンスターと化したライヴラインはゆっくりとYUSAの敷地内へ足を踏み入れる。
「……斬る!」
意を決して突撃するザエモン魁が、巨大ライヴラインの腕を切り落とした。
しかし、鉄屑で出来た巨大ライヴラインの手は強力な磁力によって再びくっつく。さらに鉄の残骸を周りから引き寄せて強化された巨大ライヴラインの腕が、ザエモン魁を突き飛ばす。
「くっ……!?」
中のレフィにも衝撃が来て、コクピット内で背中を強打。
レフィはうずくまり、あまりよ痛みで動けなかった。
『ルルを、ルルをそんな目で見るなァ……アァァァァーッ!!』
泣き叫ぶルルと巨大ライヴラインは侵攻を止めない。
そこにいた誰もが諦めかけた。
その時だった。
「おっはカナァ! 今日の配信も張り切っていきましょーうっ!!」
周囲に響くほどの音量で、巨大ライヴラインの前に立ちはだかる漆黒のマシンから、場違いな明るさで挨拶する少女。
本日もMyTube上で予告なしのゲリラ配信がスタートする。
「第二回、IDEAL討伐戦! 楽しみにしてたみんな、お待たせ! 新人Vチューバー星神カナウだよ!!」
〈おはかな〉
〈待ってました。張ってた甲斐があった〉
〈初見です〉
《海外にいる家族が亡くなりました。仇とってください》¥10000
〈い き が い〉
数千人の視聴者が盛り上がる中で、現場にいるYUSA側の人間はあまりの空気の読めなさに言葉を失った。
「今日も今日とて悪のロボット退治! スーパーヒロインカナウさんは遅れて登場するの」
ズン、と台詞を言い終える間もなくライヴイヴィルは頭上から振り下ろされる巨大な手によって潰された。
「んなわけない」
紫の尻尾をご機嫌に振りながら廃ビルの上に立つライヴイヴィル。
『見るなァ……見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るなッッ』
「何、言ってるの。見せプレイが大事なんでしょうが」
巨大ライヴラインが攻撃したのは前回倒したライヴペインの能力であるナノマシン散布“マニューバースモッグ”により作られた幻影だ。
「そして、その手は腐り落ちる」
カナウの宣言通り、ナノマシン幻影に触ってしまった巨大ライヴラインの手はみるみる内に腐食していく。
再生しようとまた残骸の鉄屑を引き寄せて治そうとするがくっついた瞬間に錆びて朽ち果てていった。
「しかしも質量を持った幻影も出せる!」
ライヴイヴィルの尻尾から噴出するナノマシンが四体のコピーを作り、鉄屑の鎧を失ったライヴラインに向かう。
四方を取り囲んだ幻影ライヴイヴィルは既に弱っているライヴラインをよってたかって殴打の連続。
「フィニッシュヒム!」
ぐったりライヴラインを持ち上げ高く飛び上がる幻影ライヴイヴィル。
手足を掴み、空中でライヴラインの身体を思いきり引き裂いた。
『る、ルルは……うっ……アアァ……!!』
「手応えなーい! RTA実況だったっけ? タイマーストップです。ザエンドっていうね。お疲れ様。完走した感想はガバが少なくて良かった。って感じです。それじゃまた次回の戦いで終わりにしましょうー! まったねぇん! 乙かなぁ!」
配信を早々に終わらせ、左右に割られたライヴラインの中から久住ルルが転がり落ちるのを確認するカナウ。
落下中のルルを睨みながらライヴイヴィルは拳に力を込めるとライヴラインは腕の中に吸収された。
「IDEALは許しちゃいけないんだよ。それが小さな女の子であっても……」
更なる力を蓄えたラインイヴィル。
身体に張り巡らされた血管のようなラインが赤く発光。
獣のように変化した手から生み出されるエネルギーを発射しようと体勢を取る。
「IDEALの仲間というだけで十分だッ」
「……ダメ、叶羽!!」
叫ぶレフィ。
両肩部シールドを前に展開して、ザエモン魁はライヴイヴィルに突進。
バランスを崩して、ライヴイヴィルは明後日の方向にビームを放った。
「ナイスアシスト。よし助けるぞ、イクサウド!」
正継はイクサウドの背中に飛び乗って掴まり、機体を急加速させる。
「間に合えぇッ!!」
イクサウドの肩を踏み台に勢いよくジャンプ。
精一杯、手を伸ばす正継は落ちてくるルルを空中でキャッチ。
そのまま身体の中に抱き抱えて芝生の上にゴロゴロと受け身を取りながら転がった。
「うぅ……大丈夫だ」
気絶しているルルを抱いて正継は親指を立てる。
ホッとするレフィと正継だが、一人カナウはまだ臨戦状態だ。
「なにやってるんですか! そいつは生かしちゃあいけない……退いてよレフィさん!!」
カナウのライヴイヴィルの道を塞ぐザエモン魁からレフィが顔を出す。
「ダメ、叶羽。この子はレフィが預かる」
「ソイツはIDEALなんだよ?! ボク達の敵でしょ!?」
「真月君、それ以上いけないっ!」
正継もライヴイヴィルの前に立ちはだかってカナウを止める。
「君もヤツラと同じになってしまうぞ!?」
「え…………なんなの……え? なにこれ、なに……」
二人の冷たい視線に恐ろしくなってカナウは、引きこもりの叶羽に戻った。
「こ……これじゃ、ボクがまるで悪者みたいじゃん……」
目線を反らし、ふと叶羽は足下の水溜まりに映る自分の顔を見る。
醜悪な黒い魔神が微笑んでいるように見えた。
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