chapter.3 出会いと別れ
第22回 白バイの王子様
叶羽は逃げ出した。
ライヴイヴィルは二体の目のライヴシリーズを取り込んだことで姿は再び変化。
竜の尻尾の次は、肩に獅子の頭と腕は大きく爪が生えた姿に変わる。
しかし、今の叶羽に戦う意思は無かった。
◆◆◆◆◆
公園の茂みに降り立つライヴイヴィル。
尻尾から放つマイクロナノマシンによって空間を歪め、人間の視覚には見えないようになっているため、町中でもライヴイヴィルの姿は誰にも気付かれていない。
「よいっしょ」
叶羽はライヴイヴィルから飛び降りる。
すると、ライヴイヴィルの身体は叶羽の影の中へ吸い込まれるように消えた。
「……そういえば、最初もそうやって出てきたな」
どういう原理なのか、と頭をよぎった叶羽にとって今はそんなことどうでも良かった。
特に目的もなく叶羽は歩き出す。
「町の方はこんなに賑やかなんだ」
太陽が沈みかけ月が顔を出している時刻は夕方五時。
人通りの多い繁華街は帰宅途中のサラリーマンや学生でごった返す。
叶羽の住んでいた田舎も駅の方は人が多くいたが、ここはその倍以上いると感じていた。
普段、田舎を出たいと思っていた叶羽だが、いざ目の前の光景を見てみると何もない田んぼ道を歩いていた方がましだった。
「いや、でも小学生の時はこっちに住んでたし……」
行き交う人の間を縫って進むのは先のわからない迷路のようで、自分が今どこにいるのかわからなくなる。
そんな叶羽も自分を見失っていた。
「なにやってんだろ、ボク」
雑多な音が頭の中に響いて気分が悪くなり、叶羽はガードレールに腰掛ける。
「ボク、住んでたんだよね……?」
ふと思い出す過去の記憶。
中学一年生で真芯市外の田舎町に引っ越してきた。
と言う事は確実に覚えている。
問題はその前だ。
「……どこに住んでたんだっけ」
見る景色すべてが見覚えが無かった。
ふと立ち止まったショーウインドーの大型モニターに映るキャラクターに叶羽は戦慄する。
「あ、天の川……コスモ……っ!」
忘れたくても忘れられない。
全ては彼女が叶羽の前に現れてから全てがおかしくなった。
もしかすると最初から仕組まれていたのではないか、と叶羽は思い始める。
新作映画もプロモーションで製作された映像の中のコスモは、激しい曲調の歌とダンスを披露していた。
それを一目見ようといつの間にかカナウの周りに人だかりが出来ていた。
「……アイツは、陽子ちゃんを殺したんだ……!」
人だかりを掻き分けて叶羽は走り出した。
世界を混乱させ、多くの命を奪い活動するIDEALの一員コスモを、ここに集まった人達は何故、憧れや尊敬の眼差しを向けるのか叶羽には理解できなかった。
「みんな、おかしい! こんなの……健全じゃない!」
狂っているのは世界の方が、それとも自分の感覚が間違っているのか。
叶羽はとにかくこの場から一刻も早く立ち去りたかった。
◇◆◇◆◇
気が付くと、叶羽は真芯湖付近に戻っていた。
どれだけの距離を歩いたのかもう一歩も動きたくなかった。
時刻は夜七時を過ぎ、一つの明かりもないビルが亡霊のように立ち並び不気味である。
「……誰か、いる?」
姿はよく見えないが何者かの視線。
真芯湖には不法滞在者が根城にしている区画がある、とYUSAの椿副司令から聞いたことがあった。
「どうしよう……ボク、どこに行けばいいの」
宛もなく飛び出してみたはいいが自分の帰る場所など何処にもなかった。
引きこもりで家族友人以外の交遊関係のない叶羽に頼れる人などいないのだ。
「なに…………怖い、なんなの……っ!」
顔を布や帽子、サングラスなどで隠した異臭を放つ浮浪者たち八人が叶羽を取り囲んだ。
皆、一様に無言で手には木の棒や鉄パイプを持っている。
町の喧騒から一転し、今の叶羽は餓えた狼の群れの中に放り込まれる子羊のようだった。
「や」
声を発したと同時に浮浪者たちが飛び掛かる。
終わった。
身体に力が入らず全てを諦める叶羽の前に、それはエンジンと共に現れた。
「そこを退けっ!!」
目映い光を放つ白い大型バイクが浮浪者集団をはねる。
「しっかり掴まってて!」
「え、うわっ!?」
勢いそのまま白バイクから伸びた手が叶羽を拐い、そのまま走り去った。
「女の子一人があんな場所に行くなんて危ないよ」
フルフェイスメットのライダーは心配そうに叶羽に言った。
「あ、あの……」
「飛ばすよ。舌を噛まないように」
目映いライトとエンジン音の唸りがゴーストタウンの亡霊たちを威嚇する。
物陰から沸き出る浮浪者たちを振り切って、叶羽を乗せた白バイクは町の明かりに向けて加速した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます