第23回 逃避行
真芯湖のダークサイドを抜けて、約十分後。
叶羽を乗せた白バイクは郊外のコンビニに立ち寄った。
「何か飲む?」
「い、いらない……」
「そっか。まあ、ちょっと休憩しよう」
駐車場にバイクを止めて一休みする二人。
後部座席から降りて叶羽はフルフェイスメットの人物を見詰める。
「ねぇ、君の名前を教えてよ」
叶羽を助けたフルフェイスメットの人物が尋ねてきた。
未だ顔はわからない、体格から察するに男性だ。
声の雰囲気からすると若い男性のように聞こえるが少しキーが高い。
「ぅ……ひ、人にもの尋ねるときは自分から名乗るもの……ですよ?」
「ん、あぁ。そうだね、それはそうか」
ははは、と笑い白バイ男はヘルメットを外す。
「僕の名前は銀河。天領銀河だ。フリーのカメラマンをしている」
素顔を露にした白バイ男こと銀河は叶羽の手を取り握った。
アイドルかモデルかと思えるぐらい整った顔立ちで、背の高い体格に似合わず少し幼い感じというか中性的だ。
父親以外の男性で、こんなに間近で接することのなかった叶羽は顔を真っ赤にして銀河の手を振り払った。
「た、助けてくれてぁありがとっ。ボクは叶羽……もう行かなきゃ」
「どこに?」
「それは…………その、うぅ……」
口ごもる叶羽。
すると、ぐぅ~と腹の虫が鳴いてしまった。
「取り合えず、何か食べようか?」
◇◆◇◆◇
「本当にそれだけでいいの?」
商品を購入し終え、コンビニ内にあるイートインコーナーの席に座る二人。
テーブルに買ったものを広げ、叶羽が選んだものに困惑する銀河。
叶羽が手にしたのはバーベキュー味のポテトチップ──ユサ食品から発売──だ。
しかも、オマケカードの付いていて容量が少ないタイプを二袋と缶のエナジードリンクである。
「う、うん」
「カード目当て? そのアニメ、朝にやってる電車ロボットのヤツだよね? ダイシャリオン好きなの?」
「……うんっ」
「ふふ、いいよいいよ。君の選んだものに僕が口出しする権利はない」
チーズバーガーが二つとペットボトルの緑茶を選んだ銀河。
そんな遅めの夕食が始まる。
「もしかして家出?」
「ち……違う、ます……」
「迷子、のわけはないよね? あの場所は地元の人間なら絶対に近付かないし、この辺の人じゃあないのか」
「……」
モグモグ。
パリパリ。
店内BGM、と銀河が一方的に質問するだけで会話が弾まない。
「……どうして、助けてくれたの?」
ポテチを食べ終えて今度は逆に叶羽が銀河に質問をする。
「ふっ、人を助けるのに理由なんていらないさ」
「…………」
少しキザな言い方をして場を明るくさせようとする銀河。
「ボクたち前に何処かで会ったこと、ありませんでしたっけ?」
叶羽の口から思わず出た言葉。
「……うーん、どうかな?」
笑ってはぐらかす銀河。
初対面のはずなのに何故だが聞き覚えの“声”に叶羽の心はモヤモヤした。
「それよりこれを見てよ」
銀河はバイクの座席からカメラを取り出して叶羽に画像を見せる。
「どうだい。よく撮れてるだろう」
「これは……」
先日、戦ったライヴペインの姿が写し出されていた。
「最近はこの写真を売って生活をしている。今、世界中で話題だからね」
「そ……そうなんだぁ」
震え声の叶羽は視線を逸らす。
「海外の軍事基地が次々と襲われている。世界征服とか、この現代に昔のアニメみたいな……ってそんなアニメ知らないんだけど」
「イジンガー」
「……ん? なに?」
「イジンガーA。カラーテレビ放送最初のロボットアニメで、悪の科学者が世界征服を企む…………はっ!?」
赤面する叶羽。
「な、なんでもないっ……!」
「はははっ、好きなんだねぇ」
笑う銀河。更に耳まで真っ赤にする叶羽だった。
「そして今日、撮ったばかりのヤツ。ぶれちゃってあんまり綺麗には撮れてないんだけど……IDEALはどうして真芯湖なんかに現れたのか? 五年前に起きた不発弾の起爆事故と関係があるのか。どう思な?」
「ボクには、関係ないです……」
「へぇ、本当かい?」
真っ直ぐすぎる目で見詰める銀河に思わず目を逸らす叶羽。
二人の間に流れる長い沈黙。
「嘘は……言ってない。というよりか何も知らないようだね」
「…………ボクは、ただ毎日楽しく配信してるだけで良かったんだ。それなのに奴等は、IDEALはボクから日常を奪った。許せない……」
月を睨む叶羽。その視線に飛び込んで来たのはレフィだった。
いつものロングTシャツ一枚にロングブーツ、背中には刀という不思議な出で立ちで窓ガラスにへばりつき、叶羽に何か言っている。
「わっ、なんだぁ?!」
「……どうして」
ドアを発見し、入店するレフィ。
「な、なんでわかったの?」
「服に発信器が付いてる。声もモロバレ」
首を指差すレフィ。
叶羽は服の襟元を探ってみると、ボタンの様な丸く小さい何かが生地の埋まっているようだった
どうにか取ろうとする叶羽の手をレフィは掴んだ。
「帰ろ、一緒に」
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