第44回 罠
「……え?」
重い扉を開けた先。
広がるその光景に叶羽は一瞬、思考が停止する。
「むぅ、何がどうなってんの?」
「…………嘘、ここって……さっきの……あれ?」
目的の65階に向かって非常階段を駆け上っていたはずの叶羽たち。
何者かが上階から降りてくるのに気付き、途中のフロアーに逃げ込んで入ったはずであった。
しかし、通路を抜けて叶羽たちがやって来たのは何故か、非常階段を上ることになった商業エリアの最上フロアー15階だった。
「ボクたち、ここから来たんだよね? ここから上は企業のオフィスとかが入ってるところだったはず」
「むぅ……」
壁に貼られた地図を確認しても記されているここのフロアーは15階。
見覚えのあるお好み焼き屋は今も大量にお好み焼きを焼いている。
そして、新たなる問題も発生した。
「……あれ? 銀河さんがいない?!」
「やっぱり…………」
叶羽たちの先を走っていたはずの天領銀河が、いつの間にかいなくなっているのだ。
「いったい何が、どうなってんの?!」
何かの幻覚でも見ているのか、それとも天ノ川コスモに叶羽たちが迫っていることがバレて、既に何かしらの攻撃が始まっているのだろうか。
「……叶羽」
「どうしたのレフィさん?」
「後ろへ行って……」
何かを感じ取ったレフィは叶羽を自分の後ろへ隠すように下がらせる。
人で込み合うフードコート。
一人の男が真っ直ぐ叶羽達に向かってきた。
ゆっくりとした足取りから次第に駆け出しズボンのポケットから勢いよく何かを取り出す。
「……」
「叶羽!!」
ギィンッ、と激しく鉄がぶつかり合う音が響く。
男がポケットから出したのは小型のナイフだ。
無表情で叶羽の顔面へと真っ直ぐ突き出すも、レフィは収納ケースから刀を抜いてナイフを寸前で止めた。
その様子を見た周りの人たちは悲鳴を上げて逃げだす。
「IDEAL?!」
「……」
レフィの問いに男は答えない。
つばぜり合うナイフと刀。
五センチほどの小さなナイフだが、レフィの特殊合金製の刀に刃溢れ一つせず、更には押し勝とうとしている。
「くっ……やっ!」
レフィの長い足が男を蹴り飛ばす。
転倒してベンチの角に頭をぶつけると男は気を失った。
「レフィさん?!」
「敵意……まだ、来る!」
一般客の中からまた一人、二人、三人、と叶羽達を逃がさないようにと四方から取り囲むように現れる。
「な、何人いるんだぁ?!」
「むぅ……この数では……」
四人、五人、六人、そして男女、年齢様々な人達が一ヶ所に集まっていく。
皆、手には先程の男と同じようにナイフや包丁などの刃物、バットやバールにハンマーなど凶器になりそうな武器を持っていた。
「まだ増える……?」
「ねぇ、レフィさん。この人たちボクを狙ってるっぽいよね?」
叶羽はその場で体を揺れ動かしながら謎の敵集団を観察する。
「ほらほら! やっぱり」
動きに合わせて相手の視線がキョロキョロと動くことに叶羽は気付いた。
「さっき、レフィさんが剣で受け止めてた時も目だけはこっち向いてた」
「もしかして何者か操られてる?」
「向こうの狙いがボクだけってことなら……!」
何かを思い付いた叶羽は突然、正面の敵集団に向かって走り出した。
「無茶だよ叶羽っ!?」
「押し出せ、ライヴイヴィル!!」
武器を構える集団の直前で叶羽は思いきりジャンプ。
更に影の中からライヴイヴィルの手が叶羽の足を押し上げて、跳躍の勢いを増した。
身体を丸めて空中で一回転しながら複数人の頭を飛び越えて背後に回った。
「捕まえるものなら、捕まえてみろ!!」
挑発する叶羽は一目散に逃げ出す。
その後を敵集団も一斉に追い掛けるとフロアー内は大混乱。
痛みや感情と言うものが全くないのか、敵集団は人を突き飛ばしたり壁や柱に思いきりぶつかっても表情一つ変えずに叶羽を追いかけ続ける。
「このままじゃ不味い……だったら一か八か」
チラリ、とフロアーの地図を確認すると叶羽はある場所へと向かって走る。
「そこっ退いてぇーっ!!」
前方の一般客に叫びながら進路を確保。
そして叶羽が辿り着いたのはガラス張りの壁のある行き止まりであった。
「やれる、やろう、やってやる、やるんだぁぁぁぁ!!」
加速する叶羽がガラス壁に衝突する寸前、現れるライヴイヴィルは分厚い強化ガラス壁をぶち破り、地上約300mの空へ飛ぶ。
落下しながらビルに写る自分の影に向かって叶羽は立ち叫んだ。
「ライヴイヴィル!」
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