第45回 ライヴの力、届かぬ咆哮
ライヴペイン。
ライヴライン。
ライヴロード。
ライヴフレア。
四体のライヴシリーズを取り込んだライヴイヴィルは禍々しい姿に変貌していた。
ヒレのついた長い尾。
鋭い大きな爪。
太く曲がった二本角。
強く逞しい健脚。
元のスラッとした人型から悪魔のような見た目のライヴイヴィルはスクランブル交差点に降り立つ。
突然現れた謎のロボットに、眼下の人々は車から降りて蜘蛛の子を散らすように逃げ出す。
「……七体、敵が来る」
予知めいた事を呟くと、厚い雲の中から機械巨人が次々と落ちてくる。
その姿に叶羽は驚いた。
「白い、ライヴイヴィル?」
空中をグルグルと旋回しながら続々と現れるその機体はライヴイヴィルそっくりであった。
違うところと言えばボディ全体が真っ白なのと、目が二つあるところだ。
「偽物が現れたところで……うっ!」
一歩、足を踏み出した瞬間、叶羽の意識が遠のく。
配信開始の合図だ。
(くそ……また、乗っ取られ……)
『こんかな、こんかな、こんかなぁ! 戦うバーチャルVチューバー星神カナウだよぉ! 午後の突撃生配信! 今日はいつもの真芯湖を離れて新真芯駅でのバトルだよっ!! いやぁ、オーディエンスが多すぎて緊張しちゃうよねぇ…………っ?!』
(ボクの中から出ていけよ)
『えぇ、スタッフさん。いきなり止めて、もう配信始まってますよぉ?』
〈こんかな〉
〈またトラブル?〉
〈この間の最後どうなったんだよ。非公開になってるし〉
〈こんかなこんかな!〉
〈今日は何と戦うんですか〉
《ご自愛ください》¥500
〈スパイラルタワー俺んちから見えるぞー〉
いつものようにゲリラ配信を楽しみにしている視聴者たちも、前回の雑談配信が急に打ち切ったのを心配する声が上がる。
実はIDEALからの刺客を倒していた、などと言う事が起きていたのを知らない。
(お前はボクじゃない。いい加減にしろ)
『はははっ、ちょっと待ってねぇ。一旦マイクオフにするね』
ネット配信上では星神かなうのイラストに“ちょっと待ってね”の文字テロップが画面下部に流れていた。
「…………ボクだ。ボクの体だ……でも」
操縦席に座り直し、再びライヴイヴィルを操縦するイメージを思い浮かべると、魂が機体に吸い込まれる感覚に陥った。
「ボクは、ボクとして天ノ川コスモを討ちたいんだ……!」
『ならなんでチャンネルに告知動画なんて出したのさ』
「……それはボクなりのケジメだ。 もうVチューバーは止める」
『それは困るよ叶羽にはもっと有名になってもらわないと。それこそ世界を、この星を統べる王になれるぐらいには』
自分の中のもう一人の“カナウ”と肉体の奪い合いをしている間に、白いライヴイヴィルの一機が、棒立ちな叶羽のライヴイヴィルに突撃する。
頭部を思いきり殴られてライヴイヴィルはビルに倒れ込んだ。
「くっ……いい加減にしろ」
それは誰に向けての言葉か、ライヴイヴィルは立ち上がろうと機体を起こすと目の前の街頭ビジョンが目映く点滅した。
「な、何っ?!」
『……こちらはIDEALの真道アーク。聞こえるか、ライヴイヴィルの星神かなう』
街頭ビジョンから映った仮面の男。
忘れもしない叶羽にとって因縁の相手、真道アークだ。
「……っ!?」
『こちらには人質がいる。スパイラルタワーの中には我々IDEALの工作員が多数、潜伏している。君の行動次第ではタワー内の客がどうなるか……わかるな?』
その映像と音声は街中のモニターやスピーカーの回線をジャックして流れていた。
人々の不安な目が一斉にライヴイヴィルに向けられる。
『その“ライヴフェイク”が君の相手をする。我々の開発したライヴイヴィルと同型機さ。それが君を討つ』
「何処にいる? 姿を現せっ卑怯ものっ!!」
グルグルと周囲に向けて叫ぶ叶羽。
『これは正義の為だ。君と言う悪をこれ以上、野放しにしないための行動なのだよ星神かなう』
残り六体のライヴフェイクも、ライヴイヴィルの周りを囲むように街へと降り立つ。
「ふざけるな! こんなのどこが正義だよ!?」
『大人しく投降するのは君の方だよ……それでは、賢明な判断に期待する。以上だ』
仮面の奥で笑う真道。
叶羽からの会話には一切答えず、真道アークからの声明映像は終了した。
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