第46回 復活の男と囁く女王
スパイラルタワー内のレフィはIDEALの私服工作員を相手に悪戦苦闘していた。
相手は数で攻めてきている。
叶羽には自分一人ならばなんとかなると豪語していたものの、狭い空間で多人数相手はそこまで経験がなかった。
「むぅ…………もう、二十人ぐらいは相手した……はぁ、はぁ……」
足元に転がるIDEAL工作員の山を退かしながらレフィは刀についた血を払う。
一応、殺してはいない。
やむを得ず斬ってしまった致命傷の者もいるが、ほとんどは峰打ちで気絶させている。
「まだ、来る……」
一般客は既に退去している。
今、レフィを包囲する一般客らしき者たちは全てIDEAL工作員だ。
店内BGMの壮大なクラシック音楽が流れている中で、レフィは迫り来る工作員達をひたすらの切り伏せる。
「……おかしい、絶対におかしい」
倒せど倒せど終わりが見えない。
いくらなんでも潜入工作員の数が多すぎるように感じた。
「はぁ……はぁ…………え、あぁっ!?」
何かに足を引っ張られレフィは顔面から床に倒れる。
倒したと思った工作員が力を振り絞って足首にしがみついたのだ。
大きな隙が生まれたレフィに向かい、隠れていた大勢の工作員が一斉に群がった。
「むむぅっ、や、だめ……」
大勢に身体を拘束されるレフィ。
絶体絶命の状態に死を覚悟し目を閉じた、その時だった。
「…………、……っ?」
突然、全身を押さえ付けられていた力が消えた。
レフィはゆっくりと目を開ける。
IDEALの私服工作員は全て床に倒れており、代わりに一人の男がレフィの目の前に立っていた。
黒いタイトなスーツに胸や関節を包みこんだ金色のボディアーマー。
真紅のサンバイザーから覗く鋭い瞳が普通の人間には見えない周囲の場景を分析しながら伺っている。
「立てるか、レフィ?」
「あっ……あぁ、そんな…………うそっ」
男の声と顔を見てレフィは嗚咽を洩らしながら泣き出す。
「……心配かけたな」
泣きじゃくるレフィの頭をそっと撫でるその男は、謎の侵入者によって殺されたはずの日暮正継だった。
「レフィ、これを見てくれ。コイツがお前を襲っていたものの正体だ」
正継は右掌に握っていたものを見せる。
直径1センチほど小さいシールのようなものが大量にあった。
「つまり洗脳されていたってわけだ。これを付け回っていた奴がそこに伸びているIDEALの立花だ」
壁際に項垂れている男を指差す。
その男はライブペインを操り叶羽のライヴイヴィルと戦った“ディーティ”こと立花大介であった。
「こいつの身柄は後でYUSAが引き取る」
「そんなことより、なんで……だって、マサツグはあの時……!」
「説明すれば長くなる。端的に言えば俺の身体は機械になって甦った」
胸アーマーを外し、上着のジッパーを下げる正継。
その胸には機械が埋め込まれており心臓部分は赤く光が点滅していた。
「山田さんとの約束でね。IDEALの戦い、もしもの時が起こった場合にこうなる契約だった」
鋼鉄の肉体に生まれ変わったサイボーグ正継に困惑するレフィ。
「約束って……レフィ知らない」
「敵を欺くため、極秘事項だったからね。君の報告は正しかった」
「報告…………あっ!」
「それより外の様子が気になる。一先ず、ここ出よう」
正継の姿に戸惑いながらも、レフィは彼の後に付いていきスパイラルタワーを脱出した。
◆◇◆◇◆
〈ちゃんと戦えよ〉
〈どうした?〉
〈やる気ないなら止めろ〉
〈今の攻撃は確実に避けれたぞ〉
〈ヘタクソ!〉
《がんばえー!》¥1000
〈ついに負けるのか〉
〈しょっぱい試合過ぎる〉
不甲斐ない戦いを見せられてチャット欄は荒れていた。
IDEALから送り込まれた七体のライヴフェイクからの一斉攻撃を、叶羽はただ受けるしかなかった。
──叶羽。IDEALは滅ぼさなければいけないよ。それはわかっているよね?
心の中で星神カナウが語りかける。
現在の状況をカナウによって全世界にオンライン配信されている。
音声は切られているが映像が撮影中な以上、真道アークの言葉を無視して手を出すなんてことも出来ない。
──父さんたちの仇はすぐそこにいる。次を逃したら二度と奴等は姿を現さないかもしれないよ?
正直に言えばタワーの人間がどうなろうとどうでもよかった。
口に出して言えることではないが、カナウには叶羽の心はお見通しである。
「うるさい、うるさいっ、うるさいーっ!!」
耳を塞いで叫ぶ叶羽。
自分の中にある一番好きなロボット物であるダイシャリオンと、今の自分がしたい真道アークを殺すという感情が矛盾しあって思考がグチャグチャになっていた。
ライヴイヴィルの能力による物なのか、先程の映像が流れてから真道アークの居場所が頭の中でぼんやりと感知していた。
「くっ、うぅぅ……っ!」
家族と友人の仇がすぐ側にいる。
一方的にライヴフェイクからなぶられる度に真道アークへの思いは強くなる。
尊敬できる大好きな作品を作った人物が、両親殺しの仇という信じたくない事実に胸が苦しくなる。
「うっ…………!!」
いい加減、怒りが爆発しそうでイライラが募る叶羽の元に何処からか通信が入る。
『チャオ! 頑張ってるかなァ?』
モニターに映し出された人物、それはYUSAの山田嵐子だった。
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