Final chapter. ライバーリライヴ

第50回 憑かれし悪意

 次の日の早朝、レフィが叶羽の部屋を訪れた。


「……叶羽~、起きてる?」


 IDEALの真道アーク──表向きはアニメ制作会社の代表──が行方不明となって一ヶ月が過ぎる。

 さらにIDEALのメンバーであり大人気Vチューバーの天ノ川コスモがMyTubeのチャンネルを含めて、関連する自身のSNSのアカウントを全て削除。

 実質的にIDEALの活動が無くなった事を受けて真芯湖の奥底に眠る古代兵器からレフィの友人たちを救出する作戦を本日、決行することになった。


「むぅ……返事がない」


 コンコン、と軽くノックしてみるも中から返事はない。

 微かに人が居るような音は聞こえるので、レフィはドアノブに触れてみると鍵は開いていた。

 中に入ると叶羽の声がした。誰かと話しているようだ。


「それでねぇ、いやーもうダイシャリオンのPがIDEALだったなんてオドロキだよね! うーん…………ほら、だから後半のシナリオのテイストが変わった? それな、それはあるよぉ。何て言うか政治的な思想がチラチラする」


 暗い部屋の中でパソコンの前に座ってヘッドセットのマイクに向かう叶羽。


「せっかく名作スーパーロボットだったのに最後の最後で、作品関係ないところでミソが付いた。残念でならないねぇ……あっ、スパチャありがとー!」


 朝の生配信中で視聴者に和気あいあいと喋っている叶羽。

 ここ最近、真道アークの事でずっとピリピリしていたのが嘘だったかのように陽気だった。


「ん……あっ、ゴメンね。いきなりだけど今日はもうこの辺で終わり。スパチャ読みは次の回にまとめて、それじゃ今日の“おはようカナウちゃん”は終わり! 乙かなぁ~!」

「…………叶羽?」

「どしたのレフィさん?」


 叶羽は部屋のライトをリモコンで付ける。


「……真芯湖、行く準備できて…………っ!?」


 部屋が明るくなり叶羽の姿を見てレフィは言葉を失い、その場で固まった。


「もう万全も万全! バッチリ決めたよっ!」


 普段、黒かグレー系統の暗めな服しか着ない叶羽が自分のアバターであるVtuber“星神かなう”そっくりの派手な装飾のコスプレ衣装に身を包んでいた。


「V辞めるんじゃなかったの?」

「ん? そんなこと“私”言ったっけ?」


 惚ける叶羽。


「それで……行くの?」

「知ってる? ライヴイヴィルって宇宙にいけるんだよ?」

「……レフィのザエモンも行けるよ」

「あれは宇宙にある整備衛星に戻るだけでしょうが」

「むう……」

「それで、行くんでしょ真芯湖?」


 レフィの手を引く叶羽は自分の胸を叩いて自信満々に言った。


「この“私”に任せときなさい!」


 意気揚々と出発する二人。

 あまりに明るすぎる叶羽に、レフィは違和感を覚えていた。

 

 ◇◆◇◆◇


 廃墟となった都市のど真ん中にある巨大湖、真芯湖。

 その深さは約500mあると言われている。

 五年前、一人の少女と月文明の古代兵器によって起きた戦いにより川が町の方へと流れ込み出来た傷跡だ。

 湖の奥深くには古代兵器が今も眠っている。


「ロマンチックだよねぇ……月の古代文明ってさぁ」


 YUSAの社用ヘリコプターで眼下に真芯湖を見つめながら叶羽は呟いた。

 湖の周りには引き上げ作業をするために、とてつもなく巨大なクレーン車などの重機が何台も集まっている。


「“ダイ・バース”って言うんだっけ、古代兵器の名前? 引き上げたあとどうするの?」

「もちろん、中にいるマオ君とミツキを助ける。それがYUSA本来の目的」


 二人を乗せたヘリコプターが地上に降りた。

 今回、叶羽とレフィに与えられた仕事は、古代兵器ダイ・バースが暴れだした際に止めるためにある。


「そうじゃなくて、古代兵器の方よ……中の人を助けたあとは、どうすんの?」


 湖の方を覗きながら叶羽は言った。

 何処までも続く真っ暗な闇が水の中に広がっている。


「もちろん破壊する」

「なんで?」

「ダイバースは危険。この世に存在しちゃいけない」

「でもさ、それだけの力があれば抑止力になるよ。誰も逆らわなくなる」


 無邪気に言う叶羽にレフィの顔がいつになく険しくなる。


「……誰がダイバースに乗るの?」

「そんなの決まってるじゃん。“私”だよ」


 真っ直ぐな目で言ってのける叶羽。

 何か恐ろしいものを感じたレフィは携えた剣を抜き、空にZ字を描くと頭上の雲が避けた。


「……貴方は誰? 本当に叶羽?」


 天より舞い降りた巨大な剣、ザエモン改はレフィの背後で鋼鉄の鎧武者に変化した。

 レフィは刀の切っ先を叶羽に向ける。


「どうしたのレフィ? 殺気が漏れてるけど大丈夫?」

「答えて」

「……もちろん、カナウだよ。私の名前は“星神カナウ”」


 不気味に微笑む叶羽の影が伸びる。

 様子のおかしい叶羽の姿をした影の奥で、怪しい赤い一つ目を輝かせて魔神ライヴイヴィルは咆哮した。


「女王に刃を向けた、その罪は……重いぞッ!!」

 

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