第26回 口上を言えてこそ
レフィ率いる日本YUSAの目的。
それは真芯湖の地下に封印されている物を管理、監視する為に組織された。
「けど、もしそれを狙うモノが現れたのなら私たちは戦わなければならない」
「その敵がIDEAL、真道アーク……」
叶羽は真道の姿を思い出す。
「私たちの戦力じゃ正直、IDEALのマシンには勝てない」
「オイオイオイ、この天才の開発したイクサウドを舐めるんじゃなァい! 予算をくれればもっと強くなるさァ!」
横から口を挟む嵐子だったが椿は無視する。
「最悪の場合、私たちは地下の“魔王”を使う事になるかもしれない。封印しているモノを使うなんて本末転倒だけど。敵に奪われるわけにはいかないから」
「しかし、IDEALに対抗する力は今ここにある。それが叶羽君だ」
大体の事情はわかった。
どんな理由があれ、今の叶羽にはこの力でやらなければいけないことがある。
「お父さん、お母さん、陽子ちゃん……ボクは皆の仇を打たなくちゃいけない」
そのために、叶羽はこの力は利用してIDEALを打倒する。
しなければならない運命にあるのだ。
「ボクは奴等を……!」
やるべきことに変更はない。
ただ突き進むしか叶羽には選択が
◆◇◆◇◆
『こんかな、こんかなぁ! 星神かなうだョ! 今回は遂にチャンネル初の案件動画となります! そしてぇ、ゲストは……こちらっ!』
『こんにちぴょん、ゆさえもんだっぴょん!』
『ゆさえもんは、あの世界的に有名なYUSAのマスコットキャラなんだよね?』
『厳密にいうと日本支部だけ、今はユサ食品の看板キャラで元デザインは二代目だっぴょん!』
『そこまでぶっちゃけちゃうんだ?』
『最近はネットで検索すれば大体わかってしまうものっぴょん』
『……さ、気を取り直して本日の企画はユサ食品の冷凍食品一番美味しいのはどれだランキングぅ!』
『どれもうまいぴょん。全部一位だぴょん』
『それを独断と偏見で決たSちゃうの。それじゃあ早速、レッツレイショク!
『レイショクっ』
◇◆◇◆◇
YUSA社内の一室。
使っていない会議室を動画撮影部屋に改良したのだ。
動画冒頭の撮影を終えて、二人が冷凍食品の実食を開始してから三十分が過ぎた。
「……うっぷ。ギブ、もう食べられない……」
テーブルの前に並べられた炒飯、餃子、唐揚げ、お好み焼きなど数十種類の冷凍料理を食べた叶羽は、腹の苦しさに呻き声を上げた。
「叶羽、情けない」
涼しい顔でレフィで電子レンジから取り出したホカホカの餡まんを二つに割った。
「あげる」
「いらんっ! どーゆー胃袋してんの?!」
「レフィの胃袋はギャラクシー」
餡まんの半分を叶羽の紙皿に置くと、レフィはたこ焼きの袋を開けようとする。
「もういい! わかった、食べた分でレビューするからっ!!」
これ以上は胃袋がパンクしてしまう、とレフィを必死に止める叶羽。
そこへ突然、部屋の扉が開くとシャッターのフラッシュが瞬いた。
「やぁ真月ちゃん、楽しそうなことしてるんだね?」
「ふぇっ……す、銀河さん? どうして、ここに?!」
突然現れた青年、フリーカメラマンの天領銀河は爽やかな叶羽たちに笑顔を向ける。
叶羽はとっさに掴んでいたたこ焼きの袋を離すとレフィが椅子ごとひっくり返った。
「実は知り合いのツテで集学社には雑誌記者として入ったんだ」
「シュウガクシャ?! 集学社ってあの少年ステップとかの!?」
銀河は撮影機材が入ったショルダーバックから真新しい名刺を見せる。
海賊帽子の少年少女が向き合っているロゴがトレードマークの、誰もが知っている一流の出版社だ。
「彼は今日このユサ食品の取材で来た。最近は巣籠もり需要が高まっているだろう? だからウチの製品を特集してくれるというんだ。今回の動画企画もそれを見越してなのだ」
いつの間にかそこにいた熱血営業マン日暮正継は銀河の肩を叩く。
「ささ、次は工場の方に案内します」
「待ってください……」
次の場所へ向かおうと思いきや、立ち止まる銀河はバックから一冊の本を取り出す。
「プレゼントだよ」
「ダイシャリオンの公式パーフェクトガイドブックじゃんっ! でも、これ確か来週発売なんじゃ……」
「……ないしょだよ?」
嬉しさに叫びたくなるのを我慢して叶羽は口を押さえて何度も頷く。
ふと、叶羽が顔を上げると正継が本を羨ましそうに見ているのに気付いた。
「ひ……日暮さん? どうかしたんですか?」
「あとで、俺にもそれを読ませてくれると助かる」
目をキラキラさせる正継に叶羽は“あるワード”を発する。
「…………唸る汽笛は?」
「勝利の雄叫び! 黄金(こがね)の拳に勝利を掲げ」
「走れ正義のっ」
「大・車・輪!!」
「「特急王者(キング・オブ・エクスプレス)ダイッシャリオンッ!!」」
口上を言い終えた二人はガッチリと握手を交わす。
初めて波長が会う人と出会った気がして、叶羽はとても嬉しくて思わず涙が出てしまった。
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