第25回 父の言葉

 一夜明け、叶羽たちは会議室に集められた。

 ライヴイヴィルとは、真道アークとIDEALとは。

 そして自分自身、真月叶羽とは何なのかを問う。


 そのはずだった。


 ◇◆◇◆◇


「……なにこれ」


 長机は全部壁際に寄せ、蓙(ゴザ)が敷かれた床の上にお菓子とジュースが用意され、まるでレクリエーションでも始めるかのような雰囲気。

 お菓子を食べつつ五分が経過。

 小走りでドアから入ってきた二人は席に座ってか始まった。


『今日は説明会にお集まりいただきありがとうっピョン』

「ストップ、ストップ!」


 教卓の上に置かれている年季の入った大型モニター。

 そこに映し出されるYUSA日本支部のマスコットウサギ“ゆさえもん”が軽快に踊っていた。


「むぅ……叶羽、止めるのなし」


 モニターの後ろでレフィがパソコンで映像を操作しながら、ゆさえもんの声をアテレコしている。

 その隣には白衣と手足にパソコンに繋がる謎のコードをぶら下げた女性が、ゆさえもんの動きに合わせて動いている。


「逆だぞ、少女! ゆさえもんが私の動作とリンクして動いているのだァ!」

「うわっ?! な、なにも言ってないんですけど……!?」


 白衣の女はアシンメトリーな前髪を振りながら、叶羽の眼前に迫り叫んだ。


「……誰なんです?」


 叶羽は怖くなって横に座る椿に尋ねる。


「彼女は」

「私はユサ食品デザイン課、そして狂気のマッドメカニック、山田嵐子(ヤマダ・ランコ)様だァ!」


 椿が言うよりも前に、嵐子は食い気味に割り込む。


「……本当はYUSA本社の人間だった人なのよ」

「本社って海外にある……?」

「そうなんだォ! なんで、この天才が日本の小さな名前だけ似たパチもん食品会社になんて出向しなけりゃいけないのさァ!?」 

「き、聞かれても……」


 困惑する叶羽。

 

「まぁ、レフィお嬢様のお陰で現在はSS(スレイヴサーヴァント)イクサウドのテスト運用にも携わってるわけだからヨシとしてるのさァ!」

「ヤマダ、うるさい……」

 と、レフィ。


「お願いだから普通にお願いできない?」


 叶羽が言う。


「むぅ……ことの始まりは十五年前、真芯湖が出来るずーっと前に始まった……ぴょん!」

「それなし!!」

「いいわ、私が説明する。と言うか、始めからそうすればよかったわ」


 ふざけるレフィに代わり、手作り台本を奪って椿が語り始めた。


 ◆◇◆◇◆


 米国の一企業であったYUSAの宇宙開発事業。


 地上から観測した月面の異変に調査団を発足して現地に派遣する驚くべきものを発見する。

 それは明らかに何者の手によって作られたような神殿であった。

 月面探査はこれまで何年、何ヵ国もの調査が入ったにも関わらず、その神殿は突然、姿を現したのだ。

 当時の調査員であった真道アーク、真月武は神殿内部を隈無く探索し、最奥に“あるもの”を発見した。

 しかし、神殿で見つかったそれが公に発表されることはなく、YUSAで極秘に研究を進められ数年が経過する。


 ある日、真道アークは研究データを奪取。

 以後、消息不明となる。

 そして、現在。

 真道アークはIDEALを名乗り、謎の巨大ロボットを率いて世界各地に攻撃を開始した。


  ◆◇◆◇◆


「……と、大筋はこんな感じかな」

「前に詳しいことは知らないって言ってましたよね?」


 叶羽は椿を睨む。


「どこまで話していいかわからなかったのよ。実は私も貴方のお父さん、真月博士と同じ研究チームにいたの。宇宙には行かなかったんだけどね」

「お父さん、宇宙飛行士だった……ってこと?」


 これも今、初めて知った。

 ここまで来るとまだ何か隠していることがあるのではないか、と叶羽は疑い始める。


「それで、月で何を発見にしたの?」

「それは……」


 叶羽が質問すると椿は口ごもる。

 やはり言えないことがまだあるらしい。


「神だよ」


 黙る椿の代わりに答えたのは嵐子だった。


「神?」

「古代月文明人が崇拝した神。それが君の中に眠るライヴイヴィル。現代の文明よりも数世紀先まで発達した技術の情報が月の中に隠されてたってわけさァ」

「……YUSAは技術を利用して世界的な大企業に成長した」


 嵐子に続いてレフィも加わる。


「そこから五年前に起きた真芯湖事変でYUSAの信頼は地におちるんだけど、それと少女とは何にも関係ないので割愛だァ」

「むぅ」

「……それで、なんで私の中にそんなものが」

「何で……なんだろうなァ?」

「全部、説明してくれるんじゃないんですか!」

「落ち着け叶羽君……!」


 熱くなる叶羽をなだめる正継。


「ちなみにマサツグなんだがァ、彼はユサ食品の前身であるヨシワラフーズの社員で今回の件とは全く関係ない」

「えっ、そうなんですか……?」

「あぁ!」


 馬鹿正直にハッキリと言って見せる正継。

 昨日“大人として全てを話す”と言ってこの態度である。


「……ここからは推測でしかないんだけど」


 黙っていた椿が口を開く。


「博士は真道アークが動き出すことを予見してたんじゃないのかしら?」

「予見?」

「世界を混乱させる真道を止めるため、貴方に力を与えたとしたら」

「ボクに力を……」


(本当そうなんだろうか……?)


 まるでアニメや漫画の主人公みたいなことになってきたが、大きな疑問が残る。

 本当に父は叶羽に真道アークを止めて欲しかったのだろうか。


 ──いきなさい。


 父が発した最後の言葉。

 それは敵から逃がすための“行け”なのか。

 それとも“生きてほしい”という意味だったのか。


(ボクは……ボクのはずだ)


 戦いの最中に心を別の自分に支配される恐ろしい感覚。

 これが父の望んだ娘の姿だとでも言うのだろうか。

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