第7回 重大発表!天ノ川コスモより皆様へ
【重大発表!天ノ川コスモより皆様へ】
それと同時にSNSの方にも天ノ川コスモから星神かなうにメッセージが届く。
〈今夜七時の配信。絶対に見に来てください。正義の名のもとに貴方を救って見せます〉
◆◇◆◇◆
夜六時。
真月家で晩御飯を御馳走になる陽子。
カレーライスを叶羽の部屋に持っていき、二人一緒に食べながら天ノ川コスモの配信を待つ。
「どういう意味なんだろうね、正義って」
「…………うん」
ベッドに二人で座り、パソコン画面を眺める。
定期の生配信をする曜日ではない謎の発表会に二十万人もの視聴者が集まった。
〈コスモ降臨!コスモ降臨!〉
〈まさか引退会見?〉
〈見れなかったんだけど昨日のアレってなんだったの?〉
《コスモ降臨》¥500
〈知らんVが勝手に炎上しただけ〉
〈この流れの早さなら言える。ロボヲタ氏ね〉
〈偶然配信見たけどあれはあっちが悪い〉
《今日のお布施》¥10000
〈どうせライブやりますってパターン〉
〈そろそろ新曲発表の季節〉
〈な ぜ コ ラ ボ し た〉
前日の星神かなうとのゲリラコラボのせいでチャット欄も大荒れ模様だが、叶羽はチャット欄を消しているので見ていない。
そして、約束の時間となるとカウントダウンが始まる。
「……」
「……ゼロ」
叶羽は固唾を飲んで画面を見つめる。
しかし、映像に映し出されたのはVtuber天ノ川コスモの姿ではなく、実写で屋外であった。
◆◇◆◇◆
今にも雨が降りそうなほど雲がかかり星も見えない夜空。
沢山のビルが立ち並ぶ都心のある一棟。
強い風が吹き荒れる屋上のヘリポートに男が一人立っていた。
学ランのような黒い詰め襟の上着で、髪は短い白髪。
そして顔はモザイクで隠されている。
〈誰だ?〉
〈だれこの〉
〈えっ〉
〈なにこれ?〉
〈誰や〉
天ノ川コスモを見に来た数万人の視聴者も突然、見知らぬリアルの人物が現れて困惑する。
『諸君、本日は天ノ川コスモの配信に来ていただき感謝する。私はIDEAL(イデアル)のリーダー、真道アーク。人類に“正義の鉄槌”を下す者である』
声だけ聞くと若そうなその男、真道アークは淡々と喋りだした。
『突然のことで驚くのも無理はないだろう……だが君達には知って欲しい。この世に蔓延る悪について』
〈ドラマの番宣?〉
〈で誰なの〉
〈見る動画間違えたかな?〉
〈コスモどこいった〉
『悪とは……今、この時代に生きる人類のこと。争い、醜く、愚かで汚い……今のままでは人類に明るい未来など訪れないと私は考えた。だから、我々IDEALは正義の鉄槌を下すと決めたのだ』
〈何となくわかる〉
〈アカ乗っ取られたのか〉
〈とりあえず通報しました〉
〈はよコスモ〉
『…………言葉で言ったところで信じられないのも無理はない。私たちは力を持っている。その証拠を見せよう』
真道が指をパチンッ、と鳴らすと配信の画面が切り替わる。
映し出される四分割にされた都市の映像。
有名な建物や建造物、看板など書かれている文字から4つ画面、全て違う国の映像であった。
『概要欄にリンクを貼ってある。大きく見たい者は移動するがいい。そして、これが……我らの力だ!』
真道の合図で“それ”は唐突に現れて映像の都市は一変した。
◆◇◆◇◆
「えっ…………なに、これ……っ?」
「…………」
映し出されている映像に困惑する陽子と叶羽はパソコンの画面をじっと凝視する。
最初はそれが映画かなにかだと思っていた。
海外の都市に突如として、現れたのは鋼鉄の怪獣。
言うなれば“ロボット”であった。
四体はそれぞれ色も見た目も違い、攻撃もそれぞれ別の方法でで街を破壊していく。
米国の首都では緊急出動した戦闘機の編隊が、現れた二本の赤い巨大ロボットに攻撃を開始する。
打ち込まれた無数のミサイルは全て命中するが、巨大ロボットはびくともせず、全身に攻撃を受けても進軍を止めない。
そして今度は巨人ロボットからの反撃。
目から放たれたレーザーは戦闘機を凪ぎ払い、真っ二つに分断されて地上のビルに激突した。
「……姫、見て。海外のニュース……本当みたいだよ」
陽子はスマホでネット記事を開くと今、天ノ川コスモの配信で流されたものとは違う現地の撮影者が撮った写真と動画が見れた。
MyTube内でも急上昇ランキングに被害を受けた街のムービー映像が次々とアップロードされている。
〈本物っぽい〉
〈フェイク動画〉
〈この冬公開映画!!〉
〈早くコスモ出せよ〉
訳のわからない意味不明な配信にチャット欄は荒れ、動画の低評価数は数千件を越えてもまだ増えていく。
すると、画面が再び切り替わって遂にチャンネルの主であるVtuber天ノ川コスモが姿を現した。
『コスモ降臨……諸君、聞いてもらった通りだ。我々は正義を執行するために今日から行動を開始を宣言する。我、天ノ川コスモが最初に行う正義……それはネットリンチだ。我は先日、あるVtuberのチャンネルにお邪魔させてもらった。しかし、我の言動がきっかけで彼女を悲しませてしまった。ここに御詫びを申し上げたい……』
天ノ川コスモは配信を見ているであろう叶羽に向けて深々と頭を下げた。
『そして、その変わりと言ってはなんだが……彼女の配信に低評価を押した者、彼女のSNSやネット掲示板に中傷を書いた者たちをこれから全て罰しようと思う。つまりは“処刑”を行う、というだ』
叶羽たちも含め、この配信を見ている何十万の視聴者たちが頭にハテナを浮かべる。
コスモの言っていることが突拍子も無さすぎて理解できなかった。
『明朝までにどれだけ出来るわからない。今さら評価をなかったことにしても遅い。必ず全員に罰を与える』
ネットで悪さした者を特定することは出来ない話じゃない。
ただ一人見つけるだけでも専門のプロが時間をかけて行う仕事だ。
なのに、星神かなうに誹謗中傷を書いたどこの誰だかわからないもの全員──低評価だけでも数千以上も付いている──をまとめて見つけるなど不可能だ。
そして、コスモから再び真道アークに変わる。
『これが彼女に出来る我からの誠心誠意できる謝罪だ、君は必ず守るから安心して欲しい。もし、私の共に正義の道を歩む者がいるならば、受け入れよう。我々は何時、如何なる時も歓迎するだろう。それでは今日の配信はここで終了とする。我からは以上……』
深々とお辞儀をするアークと共に暗転。
配信はここで終了した。
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