第52回 因縁との再会

「……んぅ…………うっ、かはっ?! げほっ、けほけほ……はぁ……はぁ、はぁ…………あ、れ……?」


 気が付くと叶羽は真芯湖周辺の廃ビルの中にいた。

 何故、いつの間にこんな所に連れてこられてしまったのか。

 そもそも叶羽は、ここ数日間の記憶が曖昧で今自分が置かれている状況が把握できない。


「うぅ、うっ……うぇぇっ気持ち悪い……ぺっ、ぺっ!」


 水塗れの派手な服の上着を脱ぎ、口に入ってしまった砂や水を吐き出す叶羽。


「……もう一人のボクがやったのか?」


 ぼんやりと頭の中を過る記憶。

 ライヴイヴィルに乗り、レフィと戦い、真芯湖の底で見た巨大なロボットに攻撃を受けた。

 そして、現在。

 胸の中のモヤモヤやイライラした感じが何故かスッキリしているような気持ちだった。



「そうか、ダイバースが……うわっ?!」


 突然の揺れに建物が激しく揺れ動き、天井が崩れてきた。

 そして落ちた天井が更に床を崩してしまい、叶羽はバランスを取れず転倒する。


「お、落ち……」


 宙に投げ出される叶羽。

 その先、建物の下階層がぶち抜かれた大きな穴は暗く、先が全く見えなかった。


「う、うそっ!?」

「手に掴まれ!」


 叶羽は声に反応するまま、眼前に差し伸べられた手にしがみつく。

 現れたのはフードを目深に被った謎の男。

 そのまま男に引っ張られて叶羽は足場に着地して間一髪、難を逃れた。


「だ、誰?」

「こっちだ!」


 謎の男に手を引かれ叶羽は建物を脱出する。


 ◇◆◇◆◇


 崩れ行く建物から命辛々、外に出た叶羽たち。

 生きも絶え絶えに叶羽がまず目にしたのはダイバースの姿だった。


「…………レフィさんっ」


 周りの高層廃ビルが小さく見えるほど、湖から浮上したダイバースはとてつもなく巨大すぎた。

 しかし、叶羽がいたビルの倒壊はダイバースが原因ではない。

 その理由は空にあった。

 雲一つない青空を一面を多い尽くすのはIDEALの量産兵器ライヴフェイク。

 先日、スパイラルタワーに現れた時の倍以上の数がレフィのザエモン魁を襲う。

 その内のザエモン魁に倒された一機のライヴフェイクが廃ビルに墜落したのだった。


「あれは私が操っている」


 男はフードを下ろして静かに言った。

 叶羽の手をしっかりと包み込む武骨な大人の手はとても懐かしく思えたが、それ以上に疑問を抱く方が大きかった。


「お………………お父……さんっ?!」

「久しぶりだな、叶羽。髪、伸びたんじゃないか?」


 男、真月武は叶羽の頭を撫でようと手を伸ばす。

 だが叶羽はその手を振り払って後ずさる。

 自分でも何故そんなことをしたのか叶羽自信も戸惑っていた。


「……なんで、ねぇどうして……生きてるの!?」

「…………」

「答えてよ!!」


 叫ぶ叶羽。


「叶羽、残念だが母さんは死んだ。私だけがあの爆発を免れた……それからは、色々と準備をしていた。もう少し、早くするべきだと思ったがな」

「…………ボクは今日までお父さん、お母さんを殺した奴に復讐するため、頑張ってきたんだ。それが……」

「嬉しくないのかい?」

「……嬉しいよ。嬉しい、けどボクは」


 その先を言うのを叶羽は躊躇った。

 言ってしまえば、こごでやって来たことか無駄になってしまう、と思ったからだ。

 叶羽と武は地の繋がった本物の家族ではない、と言うことを。


「君は賢い子だ。私の手を借りなくたって立派に成長してくれた。ありがとう、叶羽……」


 感謝も束の間、武の背後で廃ビルが再び崩れ始める。

 だが、違うのは崩れるビルの瓦礫が武の周囲に集まり人の姿を成形しながら、武を飲み込んだ。


「なっ……なに!?」


 武と融合し約10mほどに積み上がった瓦礫は人型に成型、全身銀色に発光する巨人に変貌した。

 

 

「これが、ライヴエヴォル。月から発掘されたライヴシリーズを研究して作られたライヴシリーズ最後の機体だ」

「お、お父さん……」

「今まで頑張ったな。さぁ、ライヴイヴィルを渡してもらおう」

「……えっ?」


 銀色の巨人、ライヴエヴォルと一体化した武は叶羽に手を差し伸ばす。


「今、何て言った?」


 信じられない言葉に叶羽は思わず聞き返す。


「この世界に女王は不要なんだ。それが彼女の願いであり夢。叶羽の中に眠る“あの方”と私が約束した月で約束したことを」


 迫る武のライヴエヴォルに叶羽は後ずさる。


「意味が、わからない」

「その力は危険だ。これ以上、アレに乗り続ければ……お前を危険にさらしたくない」

「なんでよ!? せっかく父さんが生きてたと思ったらライヴイヴィルを渡せとか!!」


 父の言葉に叶羽はどうしていいのかわからず、ただ困惑するしかなかった。

 その時である。

 遠くの方で響く銃声と共に空が目映く輝いた。


「なるほど。もう協力関係には無いというわけか」


 目を細めながら武が呟く。

 厚い雲を裂き、天より現れたそれは白い翼をはためかせる機械天使。

 忘れもしないあの日、叶羽の運命が大きく動いた因縁のマシンだった。


「あれは……天ノ川コスモっ!!」

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