第53回 王子様の告白
現れた機械天使、ライヴレイヴは掌から光で出来た剣のような銃を生成すると、眼下の叶羽たちに銃口を向ける。
『残念だけど、ライヴイヴィルの力は自分が貰う』
天ノ川コスモは呟く。
瞬く間に放たれた光の弾丸の雨がライヴエヴォルに降り注いだ。
崩壊する一帯の廃墟。
しかし、ライヴエヴォルは叶羽はその場から退散、高速で駆け抜けながら廃ビルを踏み台に高くジャンプする。
「こうなることは予想できたよ天ノ川コスモ」
勢いをつけたライヴエヴォルの飛び蹴りがライヴレイヴに炸裂する。
ライヴレイヴは地面に叩き落とされた。
その隙を見て武のライヴエヴォルは瓦礫の少ない交差点に着地すると、手の中の叶羽をそっと地面に下ろす。
「……確かに、その機体は真道アークが操れなかっただけはある。しかし、ライヴレイブの光は簡単には消せない」
ライヴレイヴが墜落した場所から黒煙が立ち込める。
再度、上昇するライヴレイヴの装甲は傷一つ付いていなかった。
「星神カナウ、奴は悪い男だ。真道アークを利用してIDEALを作らせ、君をダイバースの“依り代”にしようしたのさ」
「ヨリシロ……?」
「そう。君の事なんて見ちゃいない。君は古代月文明の女王を甦らせる為に作られた存在なのさ」
叶羽に真実を囁くコスモ。
しかし、真月武は動揺していない。
「君を利用した。つまり倒すべき“敵”だよ」
「……敵……敵だって?」
叶羽は振り向いた。
「ボクの敵は決まってる……お前だ」
険しい表情でライヴレイヴを睨む叶羽。
「陽子ちゃんを殺したお前は絶対に許さないと決めてる。ボクの敵はお前だ!」
「そうか……ならば」
ライヴレイヴの手が叶羽に降り下ろされようとした時だった。
ザエモン魁との戦闘によりライヴフェイクが叶羽の前に墜落すると、その衝撃で宙に吹き飛んだ。
「叶羽ーッ!!」
爆音を響かせ颯爽と現れる白きバイクが廃墟の街を駆け抜ける。
瓦礫の高台から大きくジャンプして、宙を舞う叶羽を華麗に拐ってみせた。
「助けに来た!」
「えっ、ぎ……銀河さん?!」
天領銀河は叶羽を安心させるように笑う。
白馬の王子様が助けに来てくれた。
叶羽は一瞬そう思った。
だが、銀河のその手には拳銃が握られ、その銃口は叶羽に向けられていた。
◇◆◇◆◇
真芯湖の底から一気に浮上したダイバースは空中で突如、静止。
ライヴフェイクの軍団はレフィのザエモン魁と加勢した正継のイクサウドと
交戦中。
そして、叶羽を襲う次なる窮地。
「な、何で……冗談だよね」
二人を乗せたバイクをライヴレイヴが両手でキャッチする。
叶羽は直ぐ様、銀河から離れた。
「そうだね、冗談だよ……」
「……は、はは」
「冗談ついでに聞いてくれる?」
銀河は喉を抑えて、発声練習をすると声色を変えて叶羽に言った。
『幾千光年の銀河よりコスモ、降臨』
「……えっ?!」
銀河から発せられた聞き馴染みのあるフレーズに叶羽は耳を疑った。
『絶対正義のVtuber天使、天ノ川コスモ推参!』
その声、その台詞は一年ほど前には好きで何度も聞いた決め台詞であり、現在は聞けば全身の毛が逆立つほど怒りを感じる台詞であった。
それが今、ヘッドホンやスピーカー越しではなく生の人間から天ノ川コスモの声がしている。
「…………は?」
「……天ノ川コスモの正体、実は……俺なんだ、よね」
銀河は微笑みながら得意気に言った。
一方、叶羽。
彼が何を言っているのか自分の理解の範疇を越えた出来事に表情が凍る。
「えっ…………は? 誰が、なにをだって?」
自分の耳を疑い、銀河に聞き返す叶羽。
「驚いたかい? 女の子かと思った?」
「だって今……も、モノマネですよね?」
「本人さ。歌でも歌ってみせようか?」
そう言って銀河は一節、天ノ川コスモの声で歌ってみせた。
透き通るようなハイトーンボイス。
総再生数一億回を越えたミリオンセラーなヒットソング。
アカペラでも廃墟の街全体に響き渡る声量でコスモの歌が戦場を包む。
「……な? これでわかってもらえたかな?」
「…………みんな、騙してたんだ。銀河さんも、父さんも……」
信じていた物に裏切られた叶羽の心に悲しみが満ちると同時に込み上げる怒りの感情。
もう何が本当で何が嘘なのか。
疑心暗鬼に駆られて何もかも消してしまいたい、そういう思いに溢れ返っていた。
だが、
「叶羽ぅっ!!」
父の叫び声。
ライヴエヴォルが倒れた廃ビルの上を駆けながら迫ってきていた。
「やぁ、お義父さん。娘は貰っていくよ。俺が一生、大事にする」
「お前のような奴に叶羽を渡すわけないだろ! 叶羽は私の大事な……」
「じゃあ死んでください」
ライヴレイヴの構える銃の周りに浮かぶ光の輪が回転する。
それがガトリングガンのように無数の弾丸を吐き出した。
「お父さん!? 来いっ、ライヴイ……ッッ!!」
父を助けようと叶羽が叫び駆け出したその瞬間、今度は銀河の持つ銃が閃光する。
光の弾丸は叶羽を背後から貫いた。
「アァッ……!?」
「大丈夫だ。安心していい、いつだって俺は君を見てる。君は俺が守る」
倒れる叶羽は脇腹の辺りを抑え、痛みに涙を流しながら喘ぐ。
逃げようと地面を這うが行き先を銀河に回り込まれてしまった。
銀河は叶羽を起こすと、血塗れの身体を強く抱き締める。
「あがッ……うぅ……っ!!」
「叶羽、結婚しよう」
銀河はプロポーズをした。
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