第55回 被験体ナンバー101
五年前。
真月叶羽こと、被験体ナンバー101が初めてライヴイヴィルと出会ったのは9歳の時だった。
「ライヴイヴィルは適合試験、順調のようだな」
研究者の一人、真道アークが言った。
「真道さん、お疲れさまです」
「被験体と機体の適合率は89%。あと少しで目標に到達します」
数々の試験を乗り越えたエリートの被験体たちでもライヴイヴィルに搭乗すると精神に異常を来たし廃人になる中で唯一、101だけがライヴイヴィルとのマッチングが成功していた。
「機体の召還実験も1キロ地点まで可能になった。次元間跳躍システムも問題なく作動している」
「あんな巨大なものが身体の中に入るとは……古代月文明の遺産、こんなものが何千年も昔にあったなんて未だに信じられませんね」
真道ら研究員たちが話しているのを背中で聞きながら101は漆黒のマシン、ライヴイヴィルと話をしていた。
「彼女、口は動いているのに声は発しないんですね?」
「心で会話をしているらしいんだ……ここ、脳波が動いている」
端から見れば上の空でぼーっとしているように見えるが、ライヴイヴィルを動かせる被験体は101だけ。
彼女だけにしか分からないものがあるのだろう
「そういえば真道さんもライヴイヴィルに乗ったんですよね? どうでした?」
「…………いや、特に何ともなかったよ」
「そうなんですか?」
「あぁ」
「いずれは誰でも動かせるように量産したいものですよね」
月の古代遺跡より解析して製造された6体の機体が並ぶ格納庫。
その内、4体は建造中で装甲がなく骨組みのみ。
まともに試運転が出来るほどに完成しているのはライヴイヴィルだけだった。
101はライヴイヴィルの足元に寄り添い、その様子を別の研究員が遠目で観察している。
そんな少女のもとに一人の少年が近づく。
見た目で言えば中学生ぐらい、被験体の子供たちの中では古株の少年は101の周りをうろちょろしている。
「……被験体028」
028と呼ばれた少年が真正面に立ち止まると、101はうっと惜しそうに呟いた。
「数字で呼ばないでもらいたいな、女王様?」
「…………何かよう?」
「101にだけこっそり教えてあげる……このロボット、パイロットは君で確定だよ?」
「そう」
耳打ちする被験体028だが101はそっけなく返事をした。
「君は真道のお気に入りだもんな。あとからやって来て、俺からここのリーダーの座も奪っていった」
「…………」
「このロボットのせいで多くの犠牲が生まれた。皆、心を食われたんだよ」
すると隣の機体から蒸気のような煙が勢いよく上がる。
ハッチが開き、コクピットから研究員によって子供が引きずり出された。
子供は白目を剥き、ぐったりとして意識がないようだった。
「あんなだから今度、俺たち以外のライヴシリーズは適合せずとも乗れるようにするらしい。今までの俺たちの頑張りはなんだったんだか……」
愚痴を溢す028。
「ロボットじゃない。この子は、ボクの友達」
「友達ぃ? この悪魔の機械が?」
「中に居る。かわいそう……なんで、皆には聞こえないの」
101はライヴイヴィルにそっと耳を当てる。
ライヴイヴィルから発せられる“彼女の声”は機体と適合している101にしか聞こえなかった。
声は言う。
──ココカラダシテ。
と、暗い鋼鉄の奥底からずっと語りかけていた。
「あっ、ねぇ聞いてよ101。実はね、俺も適合者になれそうなんだ」
「そう」
「俺は他の奴らみたいな出来損ないとは違う。君にだって追い付いて見せるし、完璧に操ってみせる。ラボのナンバー1の座も奪ってみせるさ」
「……そう」
「もう、そっけないなぁ。ほら、あっちの白いロボット。ライヴレイヴっていうらしい……あれが俺の機体。でも、あれから声なんて聞こえなかったよ」
028が指を差す、格納庫の一番奥で佇む純白の機体ライヴレイヴ。
それに向けてわざとらしく耳を傾けて見せる028を101はやはり無視する。
「俺さ。絶対にロボットなんかに取り込まれたりしない」
「もういい、聞きたくない。あっち行って」
しつこい028を睨む。
「……もし、俺が取り込まれなかったら、その時は二人でここを逃げよう」
「なんで?」
「それは俺が君の事を……す、す」
吃りながら顔を赤くする028。
「おい、何をやってるナンバー028。時間だ、機体に乗れ!」
高圧的な研究員が028を呼び出す。
「ちっ……とにかく覚えておいてくれよ。君は俺が助ける」
ヒラヒラ、と手を振りながら028は去り、ライヴレイヴに乗り込んでいった。
「…………はぁ」
101は他人と接するのは苦手だった。
やっと煩いのがいなくなり、気持ちが落ち着いた101は再びライヴイヴィルに寄り添い、そのまま眠りについた。
◇◆◇◆◇
この日、被験体ナンバー028が搭乗した試作型ライヴレイヴが暴走を引き起こし、それに乗して建造中のライヴシリーズ全機が何者かによって奪われた。
この事件を仕組んだ犯人は真道アーク。
当日、勤めていた研究員及び被験体の多くは死亡、または行方不明。
研究員の真道アークは028こと天ノ川銀河を連れ、真月夫妻は101こと真月叶羽を連れて姿を消す。
しかし、この事が世間で公(おおやけ)にされることはなかった。
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