第39回 愛≠憎
〈無音〉
〈マイク切れた?〉
〈おーい〉
《帰ってきて姫》¥500
〈親フラか〉
〈やっぱり誰かいるんだな〉
◆◇◆◇◆
叶羽はとっさに右手でマイクのスイッチを切っていた。
そして、左手は目の前に突如現れた赤い牛の怪人を引き剥がそうと腕を掴む。
「くっ……ぐぅ」
赤牛怪人は叶羽のか細い首を絞める。
そんな様子をエイミィはスマホで撮影していた。
「いい表情だよ、カナちゃん。生きてるって感じする」
「な、なんで……どこからっ?」
顔を歪めながら叶羽はエイミィのスマホに注目する。
配信開始の時には確かにあったはずの、異様なまでに付けられたスマホのストラップの人形が、いつの間にか消えていたのだ。
「やっぱり……だっ騙して、いた……んだなっ?!」
「騙すだなんて、ウチはなぁんも変わっていないよぉ。カナちゃんのことは今でも親友だと思っている」
「くぅっ、だったら……コレはっ……ぁがっ…………!?」
叶羽の身体が浮き上がるほど首を絞める赤牛怪人の力は更に強くなり、呼吸困難になっていく。
「それがウチの力“ライヴフレア”だよぉ。こうやって分身することが出来る……出せば出すほど小さくはなっちゃいるんだけどね。コレでも最小化してるんだ。こうなってくるとパワーは普通の人並みでほとんど役に立たないよ」
自嘲するエイミィ。
人並みとはいえ、中学生の叶羽と比べて成人男性ぐらいの体格をした赤牛怪人ことライヴフレアに生身で勝てるわけがなかった。
(なら……こうしてやる!!)
真っ赤な顔でライヴフレアを睨む叶羽の影から拳が伸びる。
勢いよく飛び出した右ストレートパンチは、ライヴフレアの顔面にクリーンヒットして壁に吹き飛び、叶羽は床に転がった。
「うぇ……げっほげほ…………くっ!」
「カナちゃん、今さっきウチの質問に答えたよね? 好きな一人を二人が取り合うことになったら戦うって」
「いつ…………うっ、誰が、誰を好きだって?」
「真道アークだよ」
叶羽は起き上がり、机のペンケースから抜いたカッターナイフを構える。
「……ボクはっ、友達と家族を殺したアイツが憎いだけだっ!」
「つまり、それって好きってことだよね?」
「な、何でそうなる!?」
「殺したくて堪らないほど相手が気になるって感情が好き以外にあるのかなぁ?」
異常な持論を展開するエイミィだが、叶羽は全く共感できなかった。
それ所かヘラヘラとした表情の奥に潜んだ底知れぬものに背筋が凍りさえしていた。
「それは……嫌いってことだよね?」
「違うね。好きの反対は無関心だよ。相手に対して関心があるんだ。強い思いがあるなら、それは好きなんだよ。ウチもそうだよ」
「一緒にするな」
叶羽がチラリとドアの方を見るとエイミィは直ぐ様、ドアに移動して背を持たれると部屋の電気を消した。
パソコン画面の光だけが煌々と照らす叶羽の部屋には外へと通じる窓もないため、エイミィとライヴフレアをどうにかしなければここから出られない。
「ウチは真道アークを殺そうとするカナちゃんが好き。だからウチもカナちゃんを殺したい」
エイミィは机の上に置かれた、叶羽製作のダイシャリオンのプラモデルを手に取り、床に叩き付ける。
更には足で思いきり踏みつけ、プラモデルはパーツが粉砕され修復不可能なほどに壊されてしまった。。
「……イカれてる、ふざけんな……っ!」
「うーん、それならカナちゃんはウチのこと好き?」
「…………好きになりかけてた、さっきまでは」
その言葉は嘘ではない。
ここ数日間、エイミィと過ごして叶羽はとても楽しかったのだ。
亡くなった陽子以外で年の近い友達が出来たと叶羽は一人で嬉しがっていたのに、この裏切り行為は許せなかった。
「実はね、カナちゃんと過ごした何日かの間、ウチは真芯湖の調査をしろって頼まれていたんだ。カナちゃんは知ってる? あの湖の下にあるもの」
「……何となく、だから?!」
「じゃあ、話が早い。カナちゃん……YUSAはね、あれで世界征服を企んでいるんだよ?」
エイミィは神妙な顔で言った。
「元々、この真芯湖が出来たのだってYUSAが絡んでいる。それが失敗して“魔王”は今も湖の底に眠っている。けどねYUSAは“魔王”の力をまだ狙っているんだ。だから」
ライヴフレアを退かし、叶羽へ手を差し伸ばすエイミィ。
「首を絞めたことは謝るね。仲直りしよっ?」
「……はぁ?」
「だから、やっぱり仲間になってよ」
満面の笑顔のエイミィだったが、そんな軽い謝罪では簡単に許すことはできない。
何より、お気に入りのプラモデルを壊されたのだ。
「断る。信用できるわけないだろ」
言うことがコロコロと変わる彼女に対して、叶羽の答えはもちろんノーだった。
「カナちゃん、ロボットアニメ好きなんだよね? だったらどっちが世界にとって敵なのかわかると思うんだけどなぁ」
「ボクにとってIDEALは敵だ。それは絶対に変わらない。そして、もしYUSAが真芯湖の……レフィさんの大事な人たちを利用するならソイツらとも戦ってやる! ボクは絶対に悪い考えのヤツらになんかに利用されないからな!」
啖呵を切る叶羽。
その言葉を受けたエイミィの表情は無だ。
「わかったよ。じゃあ、死のうか?」
エイミィはライヴフレアに命令を下した。
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