第38回 作業雑談配信
IDEAL殲滅作戦開始より一時間前のYUSA。
◇◆◇◆◇
「ねぇカナちゃんの配信してるところ見たいなぁ?」
昼下がりの社員食堂。
ようやく営業も再開され活気づいていた。
エイミィはフルーツパフェを一口食べつつ、ぬいぐるみのストラップが沢山付いたスマホを弄りながら言った。
「Vチューバーなんでしょ? どうやって撮影してるのか気になるんだよねぇ」
この数日間、エイミィの行動を観察したが特に怪しい様子はなく、彼女がもたらしたIDEALの情報も本物であった。
常に叶羽の周りをうろつき、エイミィは普通に明るく振る舞っている様に見える。
多少強引なスキンシップの多いエイミィに対して、少しずつだが心を開いていく叶羽。
「ねぇ少しだけ! 友達のお願いだよ、いいでしょぉ?」
「うーん、そういう気分じゃないんだよな」
対面に座る叶羽はアイスミルクティを啜りながら言った。
前回の戦いのあと、パソコンは新調してもらったがほとんど手を付けていない。
相方のレフィも未だに引きこもっているため撮影途中の動画も半ば“お蔵入り”になっていた
「だからこそだよ! 気分転換っていうは大事だよぉ?」
「今の部屋にゲーム機もないし」
「トークでもいいんじゃない? この機会に色々と吐き出しちゃおうよぅ」
エイミィの言うことも一理あった。
どこかで息抜きをしないと本格的に爆発しそうには感じた。
しかし、
「……ボクがIDEAL(ヤツラ)を倒したいのに」
「大人たちが戦いをやってくれるなら、ウチら十代の少女がすることじゃないよぉ」
「そうだとしても……」
「まぁまぁ、善は急げだよカナちゃん。ウチも手伝うからっ!」
食べ終えた食器をカウンターに戻して二人は叶羽の部屋へ走った。
◇◆◇◆◇
【雑談配信/編集作業しながら色々と語りたい/Vtuber星神かなう】
『こんかなぁ、星神かなうだよぉーお久しぶり!』
〈こんかな〉
〈こんかなー!〉
〈ゲリラ配信〉
〈こんかなこんかなこんかな〉
『えっと……かなり間が空いてしまったんだけどねぇ、まあ色々と。今日ねぇ作業しながら雑談ってことで、よろしくぅ』
「……ふふ、可愛いっ」
カシャ。
〈誰かいる?〉
〈なんか聞こえた〉
〈おっ匂わせか?〉
〈誰〉
パソコンの前に座る叶羽の背後でクスクスと笑うエイミィはスマホのカメラで写真を撮る。
微かに聞こえる謎の音に視聴者が反応のコメントが流れる。
(しー!)
(ごめんごめん!)
『な、何でもないよ!? テレビの音、テレビの音! 今消したからっ』
怪しむ視聴者に誤魔化す叶羽。
コメントは無視してトークを強行する。
『今日はね、編集作業をしていきたいんだけど……実は前回の飛び入りゲストのゆさっぴとの動画を作ってたわけ。本当はやりたかったコラボを前に生配信で御披露目になっちゃったわけだけど、一応撮った動画は使う予定なんで今週中には投稿します』
パソコンでレフィ──ゆさっぴ──と撮影した冷凍食品食べ比べ動画の編集をしながら三十分ほど経過する。
トークは恋愛について発展した。
『かなうはねぇ母星では姫なので他の惑星から色んな王子が求婚に来るけど皆断ってやりましたよ』
〈スケールがでかすぎる〉
〈姫だったっけ?〉
《俺はかなうを養う余裕かなりあるぞ真剣に結婚してくれ》¥10000
〈その設定まだ生きてたんだ〉
『かなうの恋愛はどうでもいいの! スパチャありがっとう。逆に皆はどうなの? いい恋愛してるぅ? 相談しなよ』
〈結構です〉
〈かなうは私生活もてなさそう〉
《私には好きな人がいます。しかし親友が私と同じ人が好きなんです。どうしたらいいですか?》¥100
〈ここの視聴者層はほぼ年齢イコール彼女いない歴ばかりよ〉
『スパチャありがっと。早速来たね友達と同じ人を好きになったかぁ……だったな勝負しちゃえばいいんじゃない? どっちが一番その人を好きなのか戦ってみる』
〈拳で?〉
〈それは野生動物のやり方なんよ〉
〈あっマトモに経験ないな〉
『いやいや結局、勝つのは一人よ? 一夫多妻ではないし。親友だからって遠慮はしちゃダメだよ。かなうはそう思うんだよねぇ。それか諦めるしかない……うわっ?!』
(ねぇねぇカナちゃん……)
急に服を引っ張られ、イスから倒れそうになる叶羽。
(……なぁに、もうっ?!)
(ウチ、本当にカナちゃんが好きなんだよ……だから、言いにくいんだけど)
(…………いきなり……なに?)
(でね、ウチさぁ……IDEALの真道アークも好きなの)
(………………で?)
(……どっちかなんて選べないの、本当に)
(……)
(だからさ……やっぱり、決めよう)
叶羽を押し倒すエイミィ。
配信は突然、無音となり中断された。
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