第37回 IDEAL殲滅作戦 その②
隊長の号令と共にセトがうずめの甲板から次々と発進する。
その場でフワリと浮き上がり、羽を広げると一気に加速して飛び立った。
「IDEAL、まだ動きはありません」
「情報によれば敵の戦力となるロボットは残り一体だ。必ずIDEALを落とすぞ!」
隊長が隊員達を鼓舞しながら、セトの編隊はパライソに向かって飛行する。
接近するにつれてパライソは浮上し、艦の全体が次第に見えてきた。
「隊長、あれを見てください! 敵艦の横側が動いてます!?」
機体の手で指を差しながら隊員の一人が叫ぶ。
パライソの船体の左右の側面が徐々に開く。
「何かしてくるのか?」
「先手必勝だ。向こうが動くその前に叩くぞ!」
「「「了解!」」」
セトの胴体から放たれる対艦潜水ミサイル。
合わせて十発の弾頭が海に着水するとパライソに向かって突き進み、命中。
派手に水飛沫を天高く上げながら爆発する。
「全弾命中しました!」
「やった……のか?!」
パライソから立ち込める白煙をセトの編隊は眺めていると突然、煙の中から飛んできた一筋の光条がセトを貫いた。
「な、なにぃっ!?」
レーザー光線はコクピットを一撃で破壊し、パイロットを失ったセトは海に落下する。
「そんな、全弾ミサイルぶちこんだはずなのに……!?」
「奴等はまだ健在なのか?!」
白煙が消えたパライソの中から現れたのは、丸っこい牛のようなヘッドの赤い人型マシン。
その数、四機。
「なんだ、あの小さな機体は?! あんなもの、こちらの情報には一切……いや、確かあれは」
言葉の続きを言わせぬまま、先頭の行くセト隊長機は赤牛のレーザーの集中砲火を浴びる。
一瞬で粉微塵にされた隊長のセトは空中で派手に爆発した。
「た、隊長……隊長っ!?!」
「なんてことだ……」
部隊のリーダーを失い、隊列を乱すセトの編隊に追い討ちをかけるように牛型マシンは深紅のレーザーを放ち続ける。
応戦するもミサイルや機関銃は、パライソに届く前にレーザーで掻き消されてしまい無力だ。
僅か五分も経たず、IDEALの赤牛ロボによって九機のセト部隊は全滅。
残るはトウコの操るセト一機のみだ。
「私だけ、ですか……くっ」
迫りくるレーザーが雨のように前方から降り注ぐ。
だが他の機体とは違い、トウコのセトは卓越した操縦テクニックにより紙一重で回避する。
しかし、それは空母から引き離すための罠であった。
「しまった?!」
部隊をやられ後退しようとする空母うずめを逃がすまいと赤牛のレーザーが狙う。
抵抗も出来ないまま無数のレーザーを浴びて轟沈するうずめを眼下に眺め、茫然とするトウコ。
「こんなところで負けるわけには……」
いくらパイロットとしての腕がよくても圧倒的な戦力さには勝てない。
死を覚悟し身構えるトウコであったが、IDEALの攻撃は突然止んでしまった。
四機の赤牛は煙を上げて膝をつき、動かなくなってしまったのだ。
「どうしたの……今になって攻撃が効いた?」
一体、何が起こったのかわからず困惑するトウコ。
ハッチを閉じ、機体を収納するパライソは炎上。
再び海へ潜るが、海中で爆発すると天高く水柱を上げた。
「……やったの?」
最初の時のように不意打ちの可能性も考えた。
トウコは警戒しながら水面に近付き、しばらく様子を見てみるがパライソが再び浮上することはなかった。
「全滅……生き残ったのは私だけ、ですか」
周りを見渡すトウコ。
そこには何事もなかったかのように静まり返る海上があるだけだった。
戦いに勝利したものの生存者は自分だけ。
「黒須十子、帰還します……」
せっかくプロモーションで生産した新型機が思い通りの戦果を得られず終わる残念な結果となってしまった。
モヤモヤした気持ちを抱えたまま、トウコは残りの燃料を気にしつつ陸地を目指した。
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