第40回 災愛
エイミィこと、城島笑魅子(ジョウシマ・エミコ)が初めて人を殺めたのは小学6年生の時だった。
初恋の男子に告白してフラれてしまったのに逆上して階段から突き飛ばしてしまったのだ。
エイミィがその男子を落とした所を目撃した者は誰もおらず、男子の死は事故として処理されてしまった。
最初の内は罪悪感に押し潰されそうになっていたエイミィだったが、彼女の中で考えが変わる。
これが人を好きになる、と言うことの究極の形なんだ。
殺人による罪悪感を相手を愛する為の“快楽”へと昇華したエイミィの恋愛は止まることを知らなかった。
男女問わず、好きになった相手をとことん愛して殺す。
エイミィの犯行は誰にも見つからず、決定的な証拠も警察には何一つバレなかった。
そんな完全犯罪を見抜いた人物こそが真道アークだった。
──君のその愛、世界に向けてみないか?
裏の顔を知られて焦るエイミィだったが、彼女の強い殺人衝動はアークへの好意に変わっていく。
世界で唯一、エイミィの秘密を知る男アークを殺すため彼に協力するのだった。
◆◇◆◇◆
人間等身大のライヴフレアが叶羽に襲い掛かる。
叶羽は身体を低くして後ろへ下がると、パソコンの光で伸びる影から再びライヴイヴィルの腕が伸びた。
「はぁ……はぁ……」
「ふーん、でもウチのと違ってそれだけしか出せないんだぁ」
苦笑するエイミィ。
ライヴフレアを止めるライヴイヴィルだったが、その姿は叶羽の影を伝って上半身しか出ていなかった。
「これだけ、あれば……十分だよ」
「まぁそっちはそっちでやらせとくとして、ウチはカナちゃんとやろうかな」
にじり合う二体の横を通ってエイミィが叶羽に近づく。
「ウチら、友達だよね?」
「アンタはボクの……敵だ」
薄暗い部屋の中で、いつものロボットに乗る戦いではない本人同士の直接対決。
先に仕掛けたのは叶羽の方だった。
壁を蹴った勢いでエイミィにタックルすると、そのまま馬乗りになる。
「……どうしてくれるのカナちゃん?」
「はぁ……はぁ……このまま、降参してくれると嬉しい」
「違うでしょ。ウチを殺してくれるんじゃないの?」
「ボクが一番殺したいのは、君じゃない……真道アークだ」
「つまんないね、じゃあ、こうしよう」
エイミィは何処からか取り出した牛のぬいぐるみを叶羽に押し付けた。
すると、ぬいぐるみは突然、大きくなって人の形に変わっていく。
その姿は叶羽がよく知る人物だった。
「よ……陽子、ちゃんっ!?」
「陽子ちゃんって言うんだ……ライヴフレア、やって」
エイミィの命令でライヴフレアは陽子になったぬいぐるみを攻撃しだした。
『あぁっ?! うっ、叶羽ちゃ……がぁっ!』
ライヴフレアに殴られ蹴られ、まるで本物そっくりに痛みで喘ぐ陽子のぬいぐるみ。
「やっ、やめろぉぉー!!」
「あれウチの作ったドールだよ? 何でなのさ?」
「いいから、やめろっていってんだろぉっ!」
「なら、やることは一つだよねぇ?」
煽るエイミィの首に叶羽は両手をかける。
想いきり手の力を込めているがエイミィは笑って叶羽の腕を撫でる。
「くっ……ほ、ほそいねぇ。カナちゃんの手ぇ……そんなんじゃ殺せないよ……うっく」
「バカにして……!」
まだまだ余裕なエイミィ。
叶羽はエイミィの腕を振り払い、再び首を絞めようとする。
だが、その手は途中で止まってしまった。
「はぁ……はぁ…………っ!」
「……どうしたの?」
「…………はぁ……はぁ……ぅぅっ!」
荒い息づかいの叶羽は突然、頭を押さえ仰け反った。
「あぁっ……いっつ…………くっ、痛ぁ……っ!?」
激しい頭痛に悶絶する叶羽。
その背後でライヴイヴィルは叶羽を静かに見下ろしている。
ライヴイヴィルの赤い瞳と目が合った瞬間、叶羽の中に見知らぬイメージが大量に流れ込んできた。
「うぅぅぅっ……あっ……ボク、は……ボク…………私は……!」
自分によく似た貴族の少女と配下の信者たち。
月面に作られた黄金色の都。
それらを破壊しつくす黒き巨人の軍団。
「……こ、れは……違う……ボクのこと、だ……昔の?」
そして真っ白な研究施設、白衣の職員と小さな子供たち。
幼さない叶羽と父の姿があった。
それらが何の関連性があるのか、何を意味するのか脳がチカチカして叶羽にはわからなかった。
「……ふふ、そうなんだカナちゃん。これが真道アークが言ってた月の……」
その時だった。
部屋のドアが突然、開かれて何者かが入ってくる。
叶羽は混濁する意識の中と暗い部屋に馴れてしまったせいで部屋の外から入る目映い光に目が眩む。
逆光にシルエットだけは何となく確認できたが、叶羽にはその人物の顔を見ることが出来なかった。
「何者であろうと星神カナウの邪魔をするものは許さない」
男性とも女性とも違うその声が一言、呟くと同時に何かが弾ける大きな音が部屋に響き渡る。
聞き覚えのある声だと思いながらも、そのまま叶羽は気を失ってしまうのだった。
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