第5回 罠の名は「コラボ実況」

 時刻は午後八時五分。

 本来の開始時間から視聴者を少し待たせ、星神かなうのMyTube生配信が始まる。


『こっ……ここ、こんかな、こんかなぁ……!』


〈こんかな〉

〈やっと始まったか〉

〈遅刻?〉

〈五分も遅れたぞ〉

《十万突破おめでとうございます》¥5000

〈姫こんかなです!〉


『し、新人バーチャルマイチューバー、ほ……《星神かなう》だよョ……。今日は……えーと緊急生放送に来てくれてありがとお!!』


 何故か震え声のかなうに集まった約千人ほどの視聴者によるチャット欄がざわついた。


『十万人、そう十万人ね、そうなんですよョ! かなうね、遂に登録者数が突破しましたぁ……ってことで、記念動画また記念動画として別で作る予定ですが、今回は急遽決まったコラボ配信ということで、さっそくこの方に登場して貰いましょう。ど、どぞっ……』


 かなうの隣に用意したイラストの立ち絵を表示させる。


『幾千光年の銀河よりコスモ、降臨。絶対正義のVtuber天使、天ノ川コスモ推参。今日は星神かなう氏の配信に召喚された。どうぞよろしく』


 独特な口調と挨拶と共に現れた人気Vチューバーが現れた瞬間、チャット欄のコメントが爆速で流れ、歓声が沸き上がった。


〈コスモ降臨!〉

〈まじかよ、なんで?〉

《コスモ降臨!これお布施です》¥10000

〈まさかの天ノ川コスモ降臨かよ〉


『ふふ、ゲリラ的に来たわけだが、どうやら隠れ“コスモリアン”が紛れているようだ』


 お決まりの挨拶をする自身の視聴者が多いことにコスモは笑った。


『き、きき……今日は、よっよろしくお願いしまぁ……しゅ……っ』

『そんなに緊張しないでくれ。私から誘ったのだ。それにこの配信の主役は君だ。主がそんなんでどうする?』

『……は、はい。そう、ですよね? はは、はは……』


 自分に向けて語りかけるコスモの声にかなうは渇いた返事をするしかなかった。


 ──うぅ、落ち着け星神かなう! 自分でやるって決めたんだろ? これぐらいで緊張するんじゃない! 初めての相手でもやれるってとこ陽子ちゃんに見せてやるんだよ!


『……さぁて今日、天ノ川コスモ様とプレイするのはこちらっ! 最近人気のオンラインロボットゲーム、バーストアースですョ~! かなう、これ初めてで配信前にちょこっと練習したぐらいなのでお手柔らかにお願いしまぁす!』


 と、言ったがそれは嘘で、かなりやり込んでいるランクA級のプレイヤーだ。

 今回は星神かなう用に最初から作った別のアカウントであった。


 ゲームをスタートさせると、まずそれぞれ操る機体を紹介する。


『かなうのロボットはぁ、これ! 可愛いでしょう? 名付けて“かなうロボ”だョ!』


 大地に立つデフォルメ体型のピンクカラーマシン。

 だが、中身はフル課金で装備や性能を大きく弄っている。


『私の力はこの“ヴァイス”だ。数々の戦いを潜り抜けてきた愛機さ』


 叶羽よりも更に上のクラスであるS級ランカーであるコスモのマシンは、すらりとした体型をした純白の騎士タイプだ。


 初心者──と言うてい──のかなうのために軽くウォーミングアップで戦闘の基本を学ぶ。


『チュートリアルモードは長い。実戦あるのみ』

『……あの、ここ結構レベルが高い……いや、高そうな感じしませんか?』

『フォローはする。その辺を探索してみようか』


 コスモの先導で、かなうは広大なゲームのフィールドに一歩足を踏み入れた。


 ◆◆◆◆◆


〈もはやコスモ様の配信とかしている〉

〈さすコス〉

〈かなう初心者だって言う割りには妙に上手いね〉

〈負けるな姫!〉


 オンラインロボットゲーム“バーストアース”の生配信は順調に進んでいった。

 プレイすること一時間。

 最初は緊張していた星神かなうだったが、徐々に天ノ川コスモとの会話に馴れてきた。


(言葉使いは変だけど結構イイ人なんだな……)


 普段、両親と陽子以外の人と話すことがない引きこもりの叶羽。

 今回の生配信でコスモとこうして一緒に実況をしてみて、人と会話することの楽しさを少しだけ知れたような気がした。


『かなう氏、君は筋が良いぞ。普段はソロプレイが多いんだがタッグマッチも面白いものだな』

『え、えへへ……ありがとうごさいます』


 初心者だと嘘をつき最初は下手を演じていたが途中で面倒臭くなり止める。

 その後のプレイも戦いを通じて次第に二人の息はピッタリとなっていき、上級NPCや視聴者との対人戦にも次々と勝利していくのだった。


 ◇◆◇◆◇


 二人はゲーム内に作られた天ノ川コスモの所有するベース基地にやって来た。

 往年のSFアニメ作品のようなレトロフューチャーさが外観から溢れる基地の中で、二人はしばしの休憩タイムを取った。


『……でも本当にどうして、かなうのコラボしようと思ったの? かなうなんかじゃなくても他にいっぱいVがいるじゃないですか?』

『うむ、それは“ミスティニンジャG2”を面白くプレイしてからさ。あれは思い出のゲームで色んな人を見てる。かなう氏が一番良かった』

『そ、そうなんですか? いや、ははは……照れちゃいますね』


 コスモに誉められて照れるかなう。 


〈あら~〉

〈あら~〉

〈てぇてぇ〉


 百合っぽい雰囲気にコメントチャットも大盛り上がりする。


『特にボスの巨大ロボ戦が楽しい』

『わかりまっ……うーん、かなうはちょっと苦手かなぁ』

『そうなのか? すごく楽しそうに見えたが……』


 思わず地のロボオタクっぷりが出てしまいそうになったかなうだったが、グッとこらえて言いたい言葉を飲み込んだ。

 しかし、コスモのロボットトークは続いてしまう。


『あぁ……それはネットの、そう! 事前にウィキを見て知っててぇ』

『そうなのか? まぁ多少は作品を知っててやるのもいいだろうが……どうせならちゃんと公式のもので知る方が良いぞ』

『あはは、気を付けます……』


 なんとか誤魔化すかなうだが、コスモの放った次の一言が原因で事件が発生する。


『しかしな、最近のロボット物は衰退しているように感じないか?』


 叶羽、絶句する。

 その台詞は叶羽にとって一番の地雷ワードだった。

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