第4回 バズり、バズらせ
翌日、日曜日。
朝、スマホから流れる特大のアラーム音で目覚めた叶羽。
アラームを止めようとスマホ画面に映った“お知らせ”の文字に目を疑い眠気が吹き飛んだ。
「ほ……ほ、星神かなうチャンネル登録者数……じ、十万人を越えましたぁ……?!」
あまりの衝撃的な内容にベッドから派手に転げ落ちてしまった。
急いでMyTubeアプリを起動して自分のアカウントページを確認する。
もうすぐ一万人を越えそうで確かに登録者数は十万を越えているが、その数はなおも増え続けていた。
「何故?」
動画一覧を見ると、先月に生配信したレトロゲームの実況動画の再生数が異様に伸びている。
叶羽の好きな巨大ロボットバトル要素のある忍者が主人公の和風横スクロールアクションだ。
個人的には楽しく出来たが、ロボット戦になってロボオタクらしい解説やうんちくを長々とし過ぎて陽子に怒られ、再生数も高評価もこれまでの実況の中では一番少なかったはずだった。
「な、なんでバズった?」
動画へのコメント欄の新着には、
〈天ノ川コスモから〉
〈コスモのオススメと聞いて〉
〈切り抜き動画見て来ました〉
〈昨日の天ノ川コスモの実況で〉
と、皆が“天ノ川コスモ”と言う名前を出している。
少し残念なのは、再生数とコメントが多い割りに好評価がそこまで増えてなかった。
「いや……何故?」
嬉しさと困惑で叶羽の頭の中は混乱した。
◇◆◇◆◇◆
天ノ川コスモ。
登録者数五十万人を以上を誇る、叶羽の星神かなうとは比べ物にならないほど大人気のVtuberだ。
白い羽とリングを頭に付けた天使のような格好をしている中性的なビジュアルのキャラクター。
独特すぎる喋り口調でどんなゲームも初見でクリア出来る腕前を持ち、配信後プレイしたゲームのレビュー動画が特に人気だ。
オリジナルソングも出せば直ぐに百万再生を突破するほどで、アニメやゲームのタイアップも出し、国外からのファンも多く付いていてその活躍はグローバルである。
そんな雲の上の存在なVtuberが何故、星神かなうと言うコスモと比べれば取るに足らない配信者の名前を出したのか謎であった。
「リンクが貼ってある」
コメントに貼られているリンクを開いてみる。
天ノ川コスモの本チャンネルに飛んだが、動画は再生できなかった。
「メンバー限定かぁ……」
叶羽は視聴用のアカウントに天ノ川コスモのチャンネルを登録しているが、有料のメンバー登録までは行っていなかった。
世間的に大人気のVtuberでも、叶羽が見たいのはあくまでロボットゲームの実況だけなのだ。
「……ま、伸びてるならそれはそれでいい……の、か」
結局、何故こんなに動画が再生され始めたのか分からなかったが、今はとてもラッキーなことが起こったと素直に受け止め深く考えないことにする。
早速、登録者数十万人突破のコメントを星神かなうのSNSとMyTubeのチャンネルに出した。
星神かなう@hoshikanauu777
〈チャンネル登録者数がもうすぐ一万人突破だぁって喜んでたら、いつの間にか十万人を越えててビックリ!? これもみんながかなうの動画を見てくれたおかげだョ! これからも動画投稿、生配信を頑張っていくので応援よろしくおねがいしまーすっ!!〉
テンションの高い感謝の言葉とは裏腹に、真面目な顔で文章を考えながら送信する叶羽。
するとSNSの方に直ぐ反応が返ってきた。
天ノ川コスモ@cosmosliver1
〈突然すいません。星神かなうさん、私とコラボ動画出しませんか?〉
「……はぁ?」
他からは見えないSNSのダイレクトメッセージで届いた突然の依頼。
差出人の名前に叶羽は目を疑う。
「もしかして、成り済まし……ってコト?!」
本当かどうかアカウントを確認する叶羽。
間違いなくあの大人気Vtuber天ノ川コスモご本人の公式アカウントであった。
「えっ……ど、どうしよう……!」
急な人気Vtuberからの誘いに、叶羽は陽子に連絡を取ってから返事をしようかと迷った。
当然ながら他のVtuberとのコラボなどやったことがなかった。
配信のコメント相手に会話をするのもやっと慣れてきたばかりだというに、赤の他人と一緒に喋るなど無理だった。
今朝のこともそうだが、そもそも今をときめく大人気Vtuberの天ノ川コスモがどうして弱小Vの星神かなうのことを気にかけているのか疑問だった。
〈コラボって何をするんですか??〉
しかし、叶羽はこれを更なる飛躍のチャンスだ、と考えた。
これを利用して更なるVtuberの高みを目指すなら誘いに乗るのもアリだ、と叶羽は思いきって返信した。
◆◇◆◇◆
星神かなう@hoshikanauu777
〈告知! 十万人突破緊急生放送!! 初めてのコラボ実況も行います! ゲストはなんと超人気のVtuber! 今夜八時をお楽しみに!〉
◆◇◆◇◆
叶羽が発信したコラボ告知を見て、陽子が自宅から走って直ぐに真月家にやって来た。
「なんでOKしたの! しかも今日って!」
部屋のドアを開けるなり陽子は怒鳴り込むと叶羽はゲームをしていた。
「ひっ……!?」
「そこに座って」
相談もなく勝手にコラボ配信を決めたことに怒る洋子は、叶羽を正座させる説教を始めた。
「いや…………だ、だってさ……こんなの滅多にないんだよ? しかも向こうからコラボしようって来たから!」
「そんなこと言って緊張しないでちゃん話せるの!? 近所の人との挨拶とか、コンビニの店員さん相手でも、アワアワどもっちゃうんだよ姫は?」
「大丈夫だって! Vtuber星神かなうとして喋れば行けるよ! 相手も声だけだもん。目を見て話す訳じゃないもんね!」
自信満々に言うがが、陽子の目は怖いまま。
実は動画をアップロードしていないボツ動画の中で、陽子の知り合いのVtuberと試しにボードゲームを遊ぶ企画を撮影したことがあった。
「あの時ダメだったよね?」
「あれは……ちょっとビックリしただけだよ。あんな見た目フツーな人がいきなりキャラ変わるんだもん」
相手はV歴3年で自分のキャラになりきりながら軽快なトークとボードゲームをプレイしていたが、叶羽はリアルの人間を目の前にして星神かなうになりきれず、まともに喋る事すらも出来なかったのだ。
「でも今回と相手は姫の何十倍もファンがいる格上のVだよ? いきなり生放送とかいけないでしょ?」
「逆にそれぐらいじゃなきゃボクの引きこもり体質は治らないと思う」
「……配信であのゲームやりたいだけでしょ」
TVモニターに映し出されている巨大ロボット。
天ノ川コスモとプレイする予定のオープルワールド型のオンラインアクションRPG。
その名も“バーストアース”である。
「…………それで、あわよくばボクのチャンネルも更に人気になれたりなんてしちゃったりして」
「動機が不純」
「今生のお願い! これに成功したらボク、変われる気がするんだ!」
「変われる……ねぇ?」
カーペットの床に額を擦りながら土下座する叶羽。
しかし、そんな無様な姿を晒す叶羽に陽子は疑いの目を向けて信じない。
「お願い! 配信が終わったら何でも聞く。学校にだって行ってやる……だから!」
「姫、女に二言はないね?」
「ないない三言も四言もないから!」
叶羽の超至近距離の真剣な眼差しを浴びせられる陽子は暫し考える。
「…………絶対に学校連れていくからね。それが条件、一緒に卒業しよう」
「陽子ちゃん……うん! 絶対に卒業しようね。よーし今夜の配信、頑張るぞーおーっ!!」
「本当に大丈夫かなぁ……」
小躍りする叶羽を尻目に、陽子の心に一抹の不安が残る。
そんな嫌な予感は的中してしまうであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます