第48回 作り物と製作者

 叶羽の記憶にないはずの記憶。

 心の底に沈む、何者かかが消し去ろうとした思い出が今、開かれる。



 ◆◇◆◇◆



 とある研究機関。


 集められた十数人の子供たち。

 下は5歳から10歳ぐらいまでの少年少女たちの中に叶羽もいた。


 特殊な器具をつけて走ったり泳いだりする体力テストに、手品でもするかのようなトランプや箱の中身を触れず当てる透視訓練。

 その他様々、毎日のように行われる実験の数々。


 死にかけた事は幾度となくあった。


 そして実験についてこれない子供たちは日を追う毎にさ減っていく。

 だが、しばらくするとまた増え、減りを繰り返す。


 叶羽は競争の中で生き残り続けた。

 高い能力を持つ彼女は次第に、研究者からも子供たちからも“女王”と呼ばれる存在となった。


 しかし、それは長くは続かなかった。

 ある日のこと、研究所は突然の爆破事故を起こす。

 死亡者や行方不明者は多数。だが、その事件は公に晒されることはなかった。


 叶羽はその犯人をよく知っている。


 だが、その日を境に叶羽の記憶は奥底に封印されるのだった。



 ◆◇◆◇◆



 現在に戻る。


「…………父さん?」


 第一声、叶羽は呟いた。


「そう、あの機関は“月の女王”の器を育成するために作られた。その最高傑作が叶羽……君だ」

「なら父さんは」

「君を利用するためだ。女王を独占するためにあらゆる証拠を抹消した」


 真道アークによって記憶がどんどん引き出されていく。

 叶羽の幼少期。

 ごく一般的な思い出などはなかった。

 辛く苦しい、大人たちの実験動物にされて生きる毎日を送っていた過去こそが真実である。


「だが、そんな真月武も死んだ。そして、君は月の女王としての力を取り戻しつつある。君に残った選択肢は一つだ。この真道アークの手により死ぬこと。それしかない」


 その名前を聞いて、過去の記憶に惑わされた叶羽は自分がやるべき大事なことを思い出した。 


「君は危険な存在だ。人の手には余る。だが、もしも君が私に忠誠を誓うなら君を正しく導いてやろう」

「……父を殺したお前に何でそんなことが言えるっ!?」


 死ぬこともあり得ないが、真道アークについていくなどもっとあり得ないことだ、と叶羽は怒りを露にして殴りかかるが真道は軽く避けた。


「卑怯もの。その仮面だって元はボクのだ! 返せっ!」

「ふふ……ならば、これを見ればわかってもらえる」


 不敵な笑みを浮かべ真道は徐に仮面を外した。


「研究所の時よりも、君ぐらいのダイシャリオンファンならば本やネット記事で観たことの方が見覚えがあるだろう」

「…………そ、その顔は?!」


 素顔の真道アーク。

 これと言って特徴のある顔ではないが叶羽にはその正体がわかっていた。


「ダイシャリオンのプロデューサー、新川満明(シンカワ・ミチアキ)……」

「そう、君の好きなダイシャリオンは私が手掛けた作品さ」


 マニアックなオタクとして作品に関係するスタッフの事を調べるの珍しくないことだ。

 株式会社LEAD1の代表取締役でプロデューサー。

 昔、何かの雑誌インタビューで見た顔と全く同じであった。


「実はね、IDEALの表向きな事業は映像制作会社なんだ。君の部屋にあったロボットたち、あれのほとんどがウチで作ったものだよ」


 真道は一番ファンに向けて満面の笑みを浮かべる。


「……だ、だから何だって言うんだ! Pなんて作品に関係……」

「内容の口出しもしているよ。君台詞とか口上なんかも私が考えたものだ」

「嘘……だ」

「嘘じゃない。もし、君が私と一緒に来てくれるというならダイシャリオンに真月叶羽、君を好きな役に出演させてもいい」


 叶羽の耳元で囁かれる甘い誘い。


「私を殺せばダイシャリオンは打ち切る。死んだら作品は永久封印する事になっているんだ、嫌だろうそんなの?」

「それは……」

「さぁ、どうする? 真月叶羽?」


 叶羽は迷っていた。

 所詮、アニメはアニメだ。

 いつかは終わるものであるしロボットアニメなんていくらでもある。

 しかし、叶羽の心は揺れ動いていた。

 何故、そこまでダイシャリオンという作品に執着しているのか自分でもわからなかった。


(それもそのはずだ真月叶羽。お前には私を殺せない。そう脳にプログラムされているのだ。真月武が叶羽を覚醒させ、私を狙うことがあった時のために仕込んだ制御装置がな)


「さぁ、どうする? さぁ、さぁ!!」

「……うぅ…………ボクは……」


 その時、ライヴイヴィルの外から叫び声が聞こえてきた。


「真月叶羽! ライヴイヴィルの“変身”を解除するんだ!」


 聞き覚えのある男の声にハッとする叶羽。

 とっさにライヴイヴィルを自分の影に戻して叶羽と真道は空中に投げ出された。

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