第13回 真芯湖の刺客と戦人

「状況は?」

「真芯湖上空に未確認飛行体を確認。中国に現れたIDEALのライヴシリーズの一体だと思われます」

「狙いは……叶羽さんか」


 椿はYUSA作戦司令室の大型モニターに映し出された映像を睨む。

 それは草木が生い茂る、廃墟と化したビル郡に囲まれてた巨大な湖だ。


 約10平方キロメートル、一般人の立ち入り禁止区域に指定されている場所だが、今から三分前の監視映像に窓から顔を覗かせる何者かが確認された。

 それと同時に現れたのは、蛇のような長い頭と尻尾を持ち、鋭く大きな爪を伸ばした腕の巨大人型マシンである。


『俺のSS(スレイブサーヴァント)はもう出ているぞ、ハルカゼ!』


 モニター画面の一部が切り替わり、正継の姿がワイプで映る。

 顔には両目を覆うゴーグル型の機械、ヘッドマウントディスプレイを装着している。


「やれるの?」

『舐めないでくれよ! それに、今日という日のために作られた“イクサウド”だ』


 自信満々、と言うよりか新型を実戦で使いたくてウズウズしている正継を見て椿は少し呆れた。


『真月叶羽はどうしてる?』

「彼女なら新居を選ばしているわ」

『我々が頑張って彼女を安心して暮らせてあげられるようにしなくてはな。この日暮正継、全力で任務を遂行する』

「そうね……それなら正継くん、“ウサギ”も出すわ」

『いや、いい。待機しているお嬢に伝えておいてくれ。ニンジンは全て頂くとなっ!』


 謎のメッセージを残して正継からの通信が切れた。


『正継くん、頑張ってね』


 心配そうに祈る椿は、正継のイクサウドが真芯湖に現れるのをモニターを見ながら待った。


 ◆◇◆◇◆


 真芯湖に現れた異形の巨大ロボット。

 世界各地に現れた甚大な被害を及ぼした恐るべきIDEALの機動兵器ライヴシリーズ。

 その一体、蛇人型マシン“ライヴペイン”のパイロットは赤面していた。

 不健康そうな顔つきでやせ形。服装は新品のやや大きめなスーツを着た男性、二十一歳。

 男の名は、ディーティ。

 もちろん本名ではなくIDEALでのコードネームである。


「盗撮されてる。盗撮されているっ!?」


 十数機の監視ドローンの目が気になりすぎて、恥ずかしさのあまり顔を覆う。


「やっぱり、導師アークの言っていた黒きゼロ番が……」


 地面に降り立つライヴペイン。

 臆病なディーティの動きに会わせて、ライヴペインも指の隙間から下方の湖を覗く。

 濁った水の底に写るのはかつてあった建物の瓦礫ばかりだった。


「可哀想に……いろんな人達が巻き込まれて死んでいったんだ。痛かったろう、苦しかったろう」


 多くの死者を哀れみ手を合わせるディティの前に、高速で接近する機影をレーダーで確認する。


『やい、IDEAL! ここを政府管理の進入禁止区域と知っているのか!?』


 周囲に聞こえるようオープンチャンネルで湖全体に向けて叫びを放つ銀色のロボット。

 崩れた道路の穴から現れた正継の操る約10mの機械巨人。

 未知の力を持つIDEALのライヴシリーズとは違う、人類科学の粋を結集させて作られた対特殊災害用人型随伴機、SS(スレイヴサーヴァント)。

 

『大人しくここから出ていくがいい!』


 銀色のSSイクサウドの外部スピーカーから正継の声が聞こえるが、彼は機体には搭乗していない。

 ビルの影から、両手に持った二つの専用無線コントローラーを通して遠隔により機体を操縦しているだ。 


「なっ、なんで……今、巨大ロボットを使えるのは僕らだけじゃなかったのか?! いや、災害用重機マシンがあると聞いたことがあるが……」


 見知らぬ巨大ロボットの突然の登場に驚くディーティ。


「でも、どう見ても戦闘用にしか?!」

『抵抗するなら容赦はしない。痛い目を見たくなければ立ち去れ!』


 イクサウドが取り出した対戦車リボルバーマグナムの銃口がライヴペインを狙う。


「お、お前たちこそ、ここがどういう場所か知っているのかっ!?」

『知っているさ。真芯市の地下に戦時の不発弾が見つかって、それが爆破してこうなった。この機体、イクサウドもそのために』

「……ち、違う! ここで起こったのは“降臨祭”だ! 今もこの下には“神の亡骸”が埋まっているっ!」


 ライヴペインが湖に一歩、近付くと銃声が轟く。

 イクサウドのマグナム銃から放たれた弾丸が、ライヴペインの顔を掠めたのだ。


『警告したぞ。それ以上は立ち入りを禁ずる。今度は外さない』

「…………う、うぅ……撃ったな……僕を、撃った?」


 声を震わせるディーティ。

 ライヴペインは更に歩みを湖へと進める。


『入るなと言ったッ!!』


 ガンッガンッ、と警告無視をするライヴペインに向かった二発の弾丸が後頭部を激しく揺らす。

 それでも湖に行くのを止めないので、正継はイクサウドの武器をライフルに切り替えてライヴペインに狙いを定めてトリガーを引く。


「人を後ろから撃つのは卑怯じゃないのかァァァァーッ!?」


 ディーティ怒りの咆哮。

 突然、ぐるりと長い首だけ振り向いたライヴペインから手から発せられる謎のガスがが、イクサウドが撃ったライフル弾を包み込む。


「人として隠し事はいけない! いや、これは国をあげての隠蔽かっ!? いけない、いけないぞっ?! 何故、隠す? どうして公表しない!?」


 急に性格が変わったように怒鳴り散らすディーティ。

 ライヴペインは更に全身から紫色のガスを一斉に噴射する。


『ちっ! 余計な抵抗をっ!』

「お前らなんかに負けてたまるか!?」


 再びライフルを連射するイクサウドだったが、漂うガスはライフルの弾丸を一瞬にして腐食させる猛毒だった。


「ボロッボロに砕け散れ!」


 大量のガスが迫ってきてイクサウドは距離を取るため後退。

 脚部の高速移動用ローラーブレードで巧みに市街地を滑走するイクサウドだが、ガスはまるで意思があるかのよう行く手を塞ぐ。

 逃げながら正継が気になったのは、そこらに生えている草木や野鳥がガスに触れても全く害はなく腐食しないことだった。


「僕が取り戻す。このライヴペインなら“痛み”がわかるんだ。ここで死んだものたちの無念を晴らす!!」

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