第28回 古代月文明と真芯湖の悲劇
叶羽は夢を見ていた。
◆◇◆◇◆
青い星。
文化的とは程遠い、地上の生物が野生のままで生きる地球を、宇宙から眺め観測する黄金の都。
今から幾万、幾億年前の月には高度な文明と人型の生命体が存在していた。
現代に人類が到達することのできないロストテクノロジー。
それを有する月の都には、民を統治する女王がいた。
唯一、この世を創造した神の声を聞きくことができ、人々の導く女王は神に等しい存在として敬われていた。
だが、あることがきっかけで永遠に続くと思われていた月文明は滅んでしまったのだ。
それは女王への反乱。
きっかけは何なのか、何者かの陰謀か、どうして起きてしまったのかはわからない。
不信感が募り、民の心はいつしか女王への敵意へと変わってしまった。
月の民は女王を信じる者たちと反女王側の二つに分かれ戦争が起きた。
平和に利用されていたテクノロジーは相手を滅ぼすために使われる。
休むことなく繰り返された激しい戦いはただ一方的に消耗するだけの不毛な争いに発展。
そして、どちらも勝利することはなく、栄えた月文明は全てが無に消え現在に至る。
◆◇◆◇◆
(……あれは、もう一人のボク? 意味がわからないよ! どういうこと?!)
突然、頭の中に流れ込んできた見知らぬ映像(ビジョン)。
そこに現れた高貴な衣装に身を包んでいる自分によく似た人物に困惑する叶羽。
それはライヴイヴィルに宿る星神カナウなのか。
叶羽は自分の心に語りかけるも何も答えは返ってこない。
(女王に戻りたい? それとも争いを起こした犯人に復讐したいの?)
何度も訊ねてみるが結果は同じ。
虚しく叶羽の声だけが闇の中で反響する。
(本当にあれが、ボクだっていうの)
疑問は尽きない。
ただ、映像の中の女王は常に悲しそうな表情をしていたのが、叶羽には印象的に感じた。
孤独。
多くの人間に囲まれていながらも、満たされない心の憂いが顔に出ているように思えた。
(ボクは、ボクには今やるべきことがある。まずこの状況から脱出しないと)
とは思うものの何をどうすればいいのかわからず、とりあえずジタバタしてみるが何も変わらない。
そんなとき、一筋の光が遠くで瞬くのを叶羽は発見する。
叶羽はその光に向かって必死に手を伸ばした。
次なる映像(ビジョン)は遊左レフィーティアの過去であった。
◆◇◆◇◆
燃え盛る街にそびえる山のような機械巨人。
歪な二本の角を生やしたそれは神話に出てくる“竜”のような禍々しい雰囲気を醸し出し、何故か右手がなかった。
その機械巨人に向かって飛ぶ一体の白き人型マシンがあった。
凄まじい加速と共に竜の機械巨人に向かっていく白きマシン。
そして、二体が一つに重なり“合体”する。
合体による閃光と衝撃は周囲のありとあらゆる物を吹き飛ばす。
その光景をボロボロになった愛機の中から見ていた一人の少女、レフィ。
何物かにやられ全身血だらけでコクピットに倒れるレフィは、泣きながら街の惨状を眺めていた。
「マオっ! ミツキっ!」
レフィが名を叫ぶが竜の機械巨人は何も答えない。
もっと早く自分が駆け付けていれば防げたかもしれない。
悔やむレフィは何度もコクピットの床を叩く。
街中にぽっかりと空いた巨大クレーターに、分断されてしまった川の水が大量に流れる。
白き人型マシンを取り込んだ機械巨人が水の中に浸かり、だんだんと沈んでいく。
これが後に“真芯湖事変”として語られる戦いである。
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