第29回 水対闇と侍

 ライヴロードの見せた過去の記憶を見せる幻惑の水“ディパーテッドオーシャン”により邂逅する叶羽とレフィ。

 叶羽は更にレフィの過去を進める。


 ◆◇◆◇◆


 真芯湖事件を起こす切っ掛けを引き起こした者が所属の海外企業YUSAはレフィの父が経営する会社であった。

 その日本支部は逃げるように事業を撤退し、YUSAは世界的に信用を失った。

 大切な友人を失い、家族に裏切られたレフィは自宅に引きこもっていた。


 そんな彼女を救ったのが日暮正継だった。


『やぁ、こんにちわ。お腹は空いていないかい?』


 食品会社ヨシワラフーズに勤める営業マン正継は、会社の方針で真芯湖の周辺に住む被災者に自社製品を無料での配達を行っていた。

 切っ掛けはレフィ宅に仕掛けられたトラップに正継が引っ掛かってしまったことから始まる。

 今にも死にそうなレフィを見かねて正継はほぼ毎日、レフィの元に訪れては元気になってくれるように様々な事をした。

 回数を重ね次第に心を開くようになると、レフィは真芯湖の最新部に眠る“魔王”の回収計画を発案し、自らの財力で日本に新たなるYUSAを組織する。


 ◆◇◆◇◆


「ずっと引きこもってた……」

「レフィさんも同じだったんだね」


 叶羽は親友・日暮陽子の顔を思い出す。

 兄妹揃って世話焼きな性格である。


「正継が、レフィを助けてくれた」

「……レフィさんは正継さんが好きなんだね」


 少し照れながら頷くレフィ。

 そんなレフィを見ながら叶羽は少し残念に思った。

 YUSAに来て唯一、自分と趣味の合う人間と出会ったと思えた。

 これが“恋をしている”と言う感覚なのだろうか、と叶羽は戸惑う。


「好き。ゆさえもんも正継が企画した」

「それは…………うーん」

「それよりこんなところから脱出しよう」


 ふよふよ、と水中にいるように体が浮かぶ感覚があるが不思議と息をすることが出来た。


「でも、どうしよう。なにも見えない」

「それは大丈夫だよレフィさん。何故だかわからないけど……今ならきっと答えてくれる。ライヴイヴィル!」


 闇の中で叶羽は手を伸ばす。

 漆黒の魔神ライヴイヴィルは叶羽の影の中から這いよった。



 ◇◆◇◆◇



 ライヴロードが作る水の立方体(フィールド)は数百メートルもの大きさに広がっていった。

 そんな水に沈むYUSA社屋の中から奇妙な物体が飛び出す。

 全長2mは越える巨大な赤いウシの“ぬいぐるみ”ような見た目の機体だった。


「エイミィか、余計な真似を」


 ぬいぐるみはYUSAに捕らえられた人物の一人、ディーティを救い出すと何処かへ走り去っていった。


「もう一人は……まぁいい。一先ず障害となる奴等を潰すとしよう」


 味方機を見送った神父シルバは眼下の水塊に念を込める。

 すると中で小さな渦のようなものが発生し、水中に浮かんでいるものをかき混ぜ始める。


「ミキサーに入れられた素材のように撹拌(かくはん)されるがいい!」


 シルバの掛け声で更に回転数を上げる渦巻き。

 だがそれは水に潜む影によって一瞬で掻き消された。


「……やはり来たか、待っていたぞ」


 波飛沫を撒き散らせて飛び上がる黒いマシン。

 ライヴイヴィルは何かを腕に抱えながら、水面に浮かぶYUSAの搬入トラックの上に片足で立った。


『午後の突発生! こんかな、こんかなぁ! 戦うVチューバー星神カナウだョっ! て、ことで始まりました! みんないるかなぁ?』


〈こんかな〉

〈配信きちゃー!〉

〈こんかなこんかな〉

〈こんかな!またロボットの姿変わってる〉

〈肩ライオンいいね〉

《こんかなです》¥500

〈こんかな!〉


 叶羽は星神カナウに変身し、MyTube上で配信を開始すると予告なしにも関わらず今回も直ぐに視聴者が十人、百人、千人と増えていった。


『vsIDEAL第三回戦目ぇ……ということで今回はチャンネル初のタッグマッチ! ゲストカマーン!!』 

「The AMON.SHOW TIME!!」


 ライヴイヴィルの手の中に隠れながら叫ぶレフィの掛け声で、空の彼方より巨大な剣が降下する。

 宙で人型に変形した侍マシン、ザエモン魁は仁王立ちでライヴイヴィルの両肩に着地した。


『…………こんにちぴょん。ゆさえもんだぴょん』

『と言うわけで今日はゆさえもんと一緒に戦っていくよ! よろしくね、ゆさえもん』


 配信の画面上、カナウの隣に表示されるウサギのマスコット。


〈誰?〉

〈なにこれ〉

〈可愛くない〉

〈ぶっさ〉

《俺は好き》¥100

〈このロボットにして中身が〉

〈だれだよ〉



 突然、現れた謎のキャラクターに視聴者たちは困惑する。


(叶羽……いいの、これで?)

(バッチリ! 掴みはOK!)


『さぁ、なんかよくわからない豚牛ロボットめ! 今日もカナウが成敗してあげるから覚悟しろ!!』


 場違いなテンションで勝負を挑まれたライヴロードのシルバであったが、その表情は酷く冷めていた。


「新月叶羽、心を支配されているようだな……聞いていた事と違うぞ真道アークよ」


 シルバは不敵に笑うと、ライヴロードは水の立方体の中に飛び込んだ。


「いいだろう。ならば、私が目を覚まさせてやるぞ!」


 水面が激しく波打つ。

 ライヴロードを中心に巨体を回転させると、先程よりも巨大な渦が出来上がった。


「もう一度、底に沈め。月の女王よッ!!」


 迫り来るライヴイヴィルを仁王立ちで待ち構え、ライヴロードのシルバは叫んだ。

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