第35回 少女と少女の取り調べ
「ねぇねぇ、ウチもしかして信用ない感じぃ?」
部屋の中から聞こえてくるエイミィの声。
ドアには外から鍵が掛かっており内側から出られないようになっている。
倉庫を改修した言わば牢屋だ。
「IDEAL辞めるってホントだよ? 嘘じゃあないんだってばぁ。いい加減にだしてもらえない?」
「……ボクに殺されないだけありがたく思え」
叶羽は部屋の前に座り込みドアをじっと見つめている。
降伏したとは言え、本当に心を入れかえたのか信じられない叶羽。
椿楓の提案で、しばらくはYUSAの地下部屋に勾留、監視することになった。
その監視役を叶羽自ら買って出る。
「警察じゃあないんだよねYUSAって? これは拉致監禁だよぉ?」
エイミィがYUSAに来てから三日が経過していた。
食事は朝昼晩の三食におやつ付き。
監禁部屋の中には狭いながらもベッドとシャワールームが完備。
テレビに本や雑誌も置かれ、外に出られない以外は不自由のない生活をエイミィは送っていた。
「……テロリストが言えたことか」
「そんな、怒んないでよぉ。キミ中学生だよね? そういう年頃だぁ。ウチもそんなのあったなぁ~、この不良娘がーって親に」
ガンガンガンッ、とドアを壊すような勢いで思いきり蹴りを入れる叶羽。
しかし、エイミィは怯む様子もなく、そのまま会話を続ける。
「……ウチさぁ、早く家を出たかったんだ。親に一人でも生きていけるって自慢できるような人になろうと思ってね……そんな時に真道アークって人に出会ったのよ」
「奴は父さん母さんの仇だ。ボクが殺す。どこにいるのか言えろ」
「だったら、ここから出してよぉ……ねぇ?」
コンコン、と軽くドアをノックするエイミィ。
だが叶羽は開けなかった。
「静かにしてよ……本当に殺すよ」
中々、口を割らないエイミィに対してイライラしている。
引きこもりオタクの叶羽にとって、如何にも陽キャラなタイプは苦手だ。
「……ウチさ、叶羽ちゃんの動画見たよ。スゴいよね、動画投稿ってさ自分をプロデュース出来る人じゃないと勤まらないよ。もう大好き」
「ども……」
何かの作戦か、と警戒する叶羽だったがエイミィは続ける。
「戦いの動画も見た……あれは、でも叶羽ちゃんの素が出てないね。何て言うかこう、別人みたいな? 感じするよぉ」
「……っ」
「一番好きなのは耳かきASMR。毎晩寝るときに必須になった、控えめに言ってマジサイコー」
「……うぅ」
エイミィの誉め殺しに嬉しくなるも、どう反応してわからない叶羽。
「ぼ、ボクのことはどうだっていい! それよりも聞きたいのIDEALの居場所だよ!」
ペースを乱されてはいけないと、叶羽は話題を変えようとする。
「IDEALの場所ねぇ……仕方ない、ウチもそろそろ限界だしねぇ。言うよ、その代わりにだね……ウチと」
「うちと……?」
「友達になってほしい、かなぁって」
カラカラ、と天井の空調が回る音が聞こえるぐらい静寂に包まれる。
しばらく考えて叶羽は答えた。
「…………いいよ」
「ふふ、威勢湾のあるポイントにね、潜水艦が潜んでいるの。それが本拠地」
遂にエイミィがIDEALの居場所を話すと、固く閉ざされていた部屋の扉が開いた。
「嘘じゃないだろうね」
「ホントだよ? ホントのホント」
「…………なら、信じる」
鍵をポケットに仕舞い、叶羽が言う。
「……開けちゃってもよかったの?」
「三日は様子を見ろって言われてる。それが今日まで……そんなことよりも、本当なの?」
「マジだよ、マジマジのマジ!」
部屋を出るなりエイミィは叶羽を抱き締めた。
急なことで動揺する叶羽。
「信じてくれたんだね叶羽ちゃん!?」
「そ、そこに奴らがいるなら信じてあげる……嘘を言うようだったらボクはアンタを」
「フフフ、大丈夫だって! 信用してよっ」
笑顔のエイミィは叶羽を見つめながら両手をしっかり握る。
「あっ」
「仲直りの握手。ウチらもう友達だねぇ!」
友達。
そう言われて頭の中で亡き親友の顔が一瞬、過った。
叶羽の手を引いてエイミィは走り出すは三日ぶりに太陽の光を浴びた。
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