第16回 緋色のレフィーティア

 昨日の戦闘から一夜明ける。


 YUSA日本支部、司令執務室。

 表向きの役職は商品営業課の日暮正継と、企画開発部の椿楓はイクサウドが撮影したライヴイヴィルの映像を見ていた。

 ノートPCの画面にはライヴイヴィルが既に粉々になっているライヴペインだったものを執拗に殴り続けている。


「これで生きているわけだ。この青年は」


 現場にいた正継も直接見て確認したが、ライヴイヴィルの拳によって原型も留めない姿になっているにも関わらず、パイロットであるIDEALのディーティこと立花大介の身体は繰り返し再生していた。


「そろそろ目は覚めたのか?」

「いいえ、パイロットは依然として意識不明よ。再生能力も機体を降りても健在みたい。今さっき研究期間へと送られたわ」

「そうか。それにしても……」


 正継は映像を止めて次の動画を再生する。

 格納庫の様子が映し出されていた。


「博士もトンでもないものを娘にプレゼントしたものだ」

「IDEALのマシンもそうだけど、とても現代技術で作れるものじゃないわ。もはや魔法の類いよ」

「機械のロボットなのか、それとも生物兵器なのか、わけがわからんな」


 朝になり、ようやく止まったライヴイヴィルは粉々になったライヴペインを取り込むとパイロットである叶羽をコクピットから排出した。

 回収し、YUSAの格納庫に運ぶとその身体に変化が訪れる。


「おそらく敵の能力を使えるようになったのかも」

「ボスを倒して必殺技を入手、まるでゲームみたいだな」


 紫色の尻尾、ライヴペインに付いていたものと同じようなパーツがライヴイヴィルの背部に生えてくる瞬間の映像であった。


「それで……彼女はどうする、ハルカゼ?」

「博士の遺言は彼女を守ることよ」

「自分としてはVチューバーは続けてもらいたいな」


 正継はプロデューサー気取りに腕を組んで言う。


「彼女の動画を見て思ったのが、本人のおどおどして大人しいイメージとは違い動画内ではとてもよく喋る明るい子のようだ。今みたいに塞ぎ込んでいるよりか好きにやらせてみてはどうだろう? なんだっらYUSA(ウチ)の“ゆさえもん”とコラボを……」


 熱く語る正継だったが、椿の冷ややかな目を向けられて口をつぐんだ。


「第二の真芯湖を、いえ……日本を滅ぼすわけにはいかないもの」

「愛ゆえの悲劇だって、そうと聞くぞ?」

「個人の愛憎で町が消えてたら世界中穴だらけよ」

「そうならないために、イクサウドの装備も敵に効くようなものをお願いしたいな」

「予算内で努力するわ」

「未来ある健全的な少女の将来を守るのが男の大人の責任だ」


 そう言ってキザに格好つけながら正継は執務室を出ていった。


 ◇◆◇◆◇


 叶羽は部屋に閉じ籠められていた。

 昨晩の戦いを終えて叶羽に待っていた感謝の言葉ではなく強制的な拘束で、まるで犯罪者扱いのように、またYUSAの部屋に送られてしまったのだ。


「お腹すいた……」


 空腹すぎて、まともな思考ができない。

 一、二時間毎に寝て起きてを繰り返しても状況は変わらない。


「……頭いたい…………」


 戦いの影響からか先程から体が熱く、頭痛が酷い。

 閉ざされた扉をいくら叩いて助けを呼んでも誰の反応もなかった。


(私は正しいことをやった、はず)


 父の仇であるIDEALと名乗る組織の一員、ディーティの搭乗機ライヴペインの力を奪った。

 叶羽の意思がそうさせたのか、ライヴイヴィルに備わった能力かはわからない。


(この力があれば生き返られるなんてことが……?)


 それを確かめるために今すぐここを出たい叶羽だったが、それは数時間前にも試したが無理だった。

 頑丈な扉の前に壊れた椅子が散乱している。


「…………熱い……」


 布団を被っているせいか体温が上昇しているのを感じる。

 特に背中が妙に熱く重かった。


「乗っかって……る?」

「うん」


 もぞもぞする何かが背中で返事をした。

 叶羽はベッドから転げ落ち、掛け布団を引き抜いた。


「だ、だれっ?!」

「むぅ……」


 退かされた布団の中から現れたのは、裾が腰まである長いアニメ柄シャツを着ている昨日、食堂で見掛けた変な美人女性だった。


「む、むぅって……てか、どこから入った!?」


 驚く叶羽。

 眠たそうな顔で美人女性は長い髪を書き上げながら指を差す。


「ドアから。秘密のパスワードで」

「そんな、私ドアが開いたの見てないよ……?」

「一瞬だけ寝てた隙に」


 そう言って美人女性は立ち上がり叶羽の前に立つ。

 ほっそりとスレンダーで足まで延びる緋色の綺麗な髪と、宝石のように美しい金色の瞳。

 叶羽の身長が150cmなのに対して美人女性は頭一つ分大きかった。


「ぎゅっ……」


 美人女性は叶羽を抱き締めると、子供をあやすように頭を撫でた。


「叶羽、昨日頑張ったから……レフィが誉めてあげる」

「れ……レフィ? それが名前?! でも、この声どっかで聞いたことある?」


 お菓子のような甘く良い匂いに頭をクラクラする叶羽を胸に納めて美人女性、レフィは長い髪を揺らしながらニッコリと笑った。


「そう。レフィは遊左レフィーティア……よろしく」

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