第1章5 魔導具開発と妹

・・・ブリジット先生、聞こえますか?

・・・うん。大丈夫。ボクのは平気?


 サイレントウルフ素材から作ってもらった念話魔導具で、寮の自室からブリジット先生に話しかけていた。どちらも問題無さそうで一安心。


・・・大丈夫ですよ。今からそちらに向かいますね。


「先生、ありがとうございます! もし良ければ1つはブリジット先生が持っててくれませんか?」


「……4歳の癖に恋人面? ボクは束縛されるのは嫌いなんだ。ホント君の中身の年齢っていくつなんだ?」


 うーん、完全に疑われているんだよなあ。女神以外の事は少し脚色しながら説明したけど、無理があるよね。どうしたものかな。


「それより、持っててくださいね! 残りの2つは家族に渡して良いですよね?」


「うん。問題ない……」


「あ。君、魔導具講義の単位取りなさい。ボクの弟子だし」


「うーん、わかりました。でも、弟子は形式的なものじゃないですか」


「こっそりで良い、素材集めを手伝え。弟子の欲しい物も作ってあげる」


「おー! それはとても良い条件ですね。引き受けましょう! あ、でも、少しの間、家に帰りますので、戻ってからでお願いしますね!」


「ん……、何がある?」


「兄弟がそろそろ産まれてくるはずなんです、先日手紙が届きまして!」


「そう。……ゆっくりしてくるといい」


 僕はどうやら正式に弟子になったようです。でも、どうにも小間使いされる事の方が多い気がするんですよね。


 さて、帰る前に魔導具をシャルに渡さなきゃ! この為に大森林に行ったわけだし、喜んでくれるといいのだけれど。何気に生徒会室来るの初めてなんだよなぁ。緊張する。


「シャルー」


「あらウィル、来てくれたのですね! 嬉しいですわ! 遠慮はいりません、早くはいってください?」


 いやいや、周りの人達の目線が痛すぎて早くも逃げ出したいです!


「あ、いえ。今日は渡すものがあって来ただけですので…」

「まぁ! なにかしら?」


 学園に来てから、日に日にシャルからの、僕への接し方がグイグイ来るようになってきてる。少しイタズラしちゃいたくなる。


「魔導具ですよ、これ、僕と師匠とで作ったんですけど、念話魔導具というもので、遠くの人と話せるんですよ、凄くないですか? 用事がある時は何時でもこの機械で呼んでください!」


「えっ! 何時でもよろしいのですか?」


「えぇ、寝てる時や講義の最中は困りますけど……」


「ウィル、ありがとうございます! 大切にしますわ! ところで、その師匠という方はどなたなのですか?」


「ブリジット先生ですよ……? それがどうかされましたか……?」


「いえ、なんでもありませんわ?」

 (あの、おば……ブリジット先生なら問題ありませんわね……)


「それでは、僕は暫く辺境伯邸に帰りますので、この辺で失礼しますね!」


「あ、もしかして、そろそろですか! 良ければ産まれましたら、この魔導具で教えてくださるかしら?」

「もちろんです!」


 いやいや生徒会の人達の目線怖すぎ! 少し震えてしまいましたよ。流石、学園のアイドルと言われるだけあって、寄り付く蝿は叩き落とすといった雰囲気でした。二度と行きたくない……。


 その日の夕方、僕は辺境伯別邸のハワード家に帰省した。時折、休みの日には帰っていたので、そこまで熱烈な歓迎は無いのだけれど……。


 どちらかと言えば、別邸内は緊張に包まれている。恐らくは、数日以内には僕の兄弟が産まれてくるからなのだ。アルフレッド父様は少しソワソワしている。ミレーユ母様は割と落ち着いているが、僕にできることは何も無い。


 僕は本を読んで過ごしていた時に、ある事に気が付いた。暫く前に、王都から帰ってきていたエルリーネ様と、僕の両親の距離感がかなり近くなっていたのだ。辺境伯様もエルリーネ様も、両親より歳は上のはずだが、特に母様とは敬称抜きで呼びあっている。ちなみに僕の敬称もいつの間にか無くなったようだ。


「ミレーユ、先程医者に確認したのだけれど、そろそろだそうね」


「えぇ、明日か明後日? くらいと言っていたわ」


「ウィリアム、一旦戻るけれど、何があったら直ぐに私達を呼んでちょうだい?」


「はい、エルリーネ様。もし良ければ、こちらを持ってて頂けませんか?」


「あら、これは?」


 僕は念話魔導具をエルリーネ様に手渡し、使い方を説明する。シャルにも渡してあると伝えると、早速シャルと話しながら邸へ戻って行った。


「あら、私達にはないの?」


「これ、シャルに作った余り物なのですよ。シャルは忙しすぎて邸に帰って来れないですからね」


「あら、ウィルは優しいのね。ふふ」


「なぁ、ウィル。それの素材どうしたんだ?」


「ブリジット先生が作ってくれたんですよ」


「へぇ、あの先生が……」


 父様は、ブリジット先生を思い出しているようで、眉間に皺を寄せたりと、考え事をしているようだ。サイレントウルフの素材については黙っておくことにした……。


「ところでウィル。去年、小さいオートマタをプレゼントしただろ、それの人間と変わらない大きさのを作ったんだ。欲しくないか?」


「なんと! 頂けるのであれば是非!」


「金属が多いからな、それなりに重いが、辺境伯様が寮まで運んでくれるそうだ」


「ありがとうございます父様! 嬉しいです! ところで、そのオートマタは魔石や魔物素材は組み込まれてるのですか?」


「いや、人間程の大きさのを動かせれる魔物となると、討伐じたいが難しいからな……」


「そう……ですよね」


 (おぬし、レッドキメラは覚えておるか? あの規模の魔物なら動かせるのではないかの?)


 以前、サイレントウルフの素材を混ぜ合わせたマリオネットこと、女神デメテル様は、いつの間にか遠隔対話が出来るようになっており、僕がマリオネットを持っていなくても、時折こうやって話しかけてくる。


 石ゴーレムと同じように、僕の能力で動かせないのだろうか? こっそりと魔力を流してみたが、ビクともしない。うーん……、1から創り出さないと無理なのかな? それとも重さ? 小さいオートマタは動かせたから、魔石と素材が組み込まれてれば動かせるはずなのだけれど。


 いまいち自分の能力がどのようなものなのか、何が出来るのか把握しきれていない。デメテル様に任せると災害が起きそうだし……。帰ったらブリジット先生に相談してみよう。


 その日の夜遅く――


・・・ウィリアム

・・・辺境伯様ですか、遅くにどうされましたか?

・・・エルリーネに魔導具を借りてね。ずっと確認しようと思っていたのだけど、中々タイミングが合わなかったからね。丁度良かった。


 辺境伯様は、エル大森林の大爆発の仕業が、僕の所業だと知っていたようだ。お優しい事に、父様母様には黙っててくれているが、無茶なことして。と、こっぴどく叱られた。


 さらに、辺境伯様が勘ぐっていた教会も、僕の行為だと予測しているようで、学園生徒が、王国十二強ハワードと誇張しているのを耳にしたのか、僕に接近しようとしているのでは? と勘ぐっている。


・・・恐らくはあの日見られていたんだろう。豊穣祭で光輝く君を見て、神の化身だとでも思ったのかもしれないね。


 これは私の予想だけどね。ウィリアムを御輿ににして王権を奪う。若しくはそれに近しい事を考えてるのだと思う。ただ、教会は聖騎士の警備や聖結界が凄くてね、調べるのに苦戦しているという訳だよ。


 昔、教会が国内でかなりの発言力を持っていた頃があったそうだ。だけど、教会内部で腐敗が進み、権力に溺れる聖職者を、時の国王は弾圧していったそうだ。自業自得だと思う。


 だが、ここに来て、帝国に大敗した現国王の力が弱まり、教会が復権を画策しているのではないか? というのが辺境伯様の予測だそうだ。


 しかし、たまに思い返す。こうも難しい内容の話を理解できるって、僕の中身って今何歳なのだろう……と。それに、便利な人形を作るにはどうしたらいいのか。


 その後、辺境伯様とブリジット先生の話や、魔導具について語り、母様に何かあったら直ぐに呼ぶよう言われ、強烈な眠気と戦いながら話していた僕は、話しながら眠りについた。


 翌日、昼頃から母様が産気づいた。直ぐに念話魔導具でエルリーネ様をお呼びし、控えていたアメリアさんと医者を伴って来てくれた。父様は部屋から追い出され、仕事の合間には辺境伯様もシュトレーゼ様も様子を見に来てくださる。


 本当に僕達家族に良くしてくださる。僕に出来ることはきっと少ないのだろうけれど、いつかは恩を返したい……。


 数時間後、僕に妹が誕生した! 初めての兄妹! 嬉しすぎて飛び跳ねてしまう。僕がお兄ちゃんでちゅよー!


――マリー・ハワード


 父様が、女の子だったらと決めていた名前だそうだ。父様の金髪を受け継いだようで、まだ髪量は少ないが、何となく、あちこちがグリングリンしている。将来は、父様と同じ様に天然パーマになりそうだ……。僕はマリーの手に指を差し出すとギュッと握ってくる。まだまだ力は弱いが生を実感する。


 シャルにも念話魔導具で報告をした。


・・・わたくしも義姉になるのですね! シャルロッテ義姉様と呼ばれる日が待ち遠しいですわ!


 えーと、うん。幼さ故の無責任発言なのでしょう。今はそっとしておこう……。


 シャルとの会話内容はわからないであろうに、シュトレーゼ様が下衆っぽくニヤニヤしている……。


「くく……、ウィリアム、シャルとはもうそんな話になってるのかい? くく」


「シュトレーゼ様こそ御婚約のお話はまだ無いのですか? 将来の辺境伯様なのですから、そろそろ正妻や側妻候補を決められては如何ですか? シュトレーゼ様はとても美男子であられますし、さぞ、おもてになるのでしょう?」


「……ウィリアム。一体君は何処でそんな知識を身につけたんだい?」


「どうでしょう? 女神の知識じゃないでしょうか?ふふん」


 ゲテモノを見るように、ドス黒い目色でこの変態長男を見上げながら僕は毒づく。


 家に帰る度にからかわれるものだから、最近では僕も反撃するようにしているのだ。翌日。妹マリー誕生で賑わった辺境伯邸を後に、重すぎる人型金属と僕は学園寮へと向かった。


「先生、ブリジット先生!」


「……あぁ、君か。随分早かったな」


「無事、妹が出来ました! ……ふふ。で、そうそう。色々お願いしたい事とか、聞きたい事があるのです!」


 (はぁ……面倒臭いのを弟子にした)


「面倒臭いとは何ですか?!」


「……そのままの意味だ。そんな事だと生徒会長に嫌われるぞ」


「なんですか、それ。面倒臭がってばかりだと、先生も――」

「は? 先生もなに?」


 (すぐ、脅す態度を取る……だから行き遅――)

「っ痛っ!!」


 強烈なデコピンを受け、僕はいたぁ! と呟きながら、額を押さえてジト目先生を見返すと、フルフルして怒っている。


 気にしていたんですね……。でも、正直、性格はさておき、見た目は可愛いと思うのですけれどね。


 種族毎の歴史や文化は、一般教養の講義に組み込まれている。差別無き学園から生まれたものだと思う。ちなみに、目の前の魔人族のお姉様こと、ブリジット・ゲインズノーレ先生は、僕の予想だと40歳くらい。寿命から逆算すると、人族で言うと10歳ちょっとくらいかな? かなり長命で、人族の3倍位は生きれるそうだ。180~200歳位が寿命らしい。長耳族はさらに長命なのだが、今回は割愛しよう。


 族名は、何だかおっかない名前の魔人族だが、クリスタルを身体の一部に埋め込まれた状態で産まれてくるらしい。その為、昔は魔物と同義とされ迫害されてたそうだ。原理は改名されていないが、人族よりも魔法に精通し、狩猟を生業とした種族だったそうだ。最近でこそ、サウザンピークや、周辺諸国に拠点を構える者も増えてはいるが、昔は迫害を受けながらも、全種族と争っていた、割と好戦的な種族と言えよう。


 しかし、クリスタルってなんなのでしょう。宙から飛来し、様々な益をもたらしているのは分かるのですが……。


 (……妾にも正確にはわからぬよ)


「ところで、先生は何故、魔導具製作や研究をしようと思ったんですか?」


「……ボク達と同じようにクリスタルを身に宿すのに、獣は魔物になるし中身は魔石になる。それを調べていたら今になってた」


「その結果はどうだったんですか?」


「まだわからない」


「なるほど。クリスタルって不思議ですよね……。あっ、クリスタルで思い出しました! 僕の部屋まで来てくれませんか?」

「は?」


「あ、いえ、見ていただきたい者があるんです!」


「はぁ……。面倒臭いなあ」


 面倒臭いと言いながらも、着いてきてくれるブリジット先生。辺境伯様の言っていた通り、少しずつ優しさを感じれるようになってきました……。少しずつ。


「ほう。これは……?」


「父様が作ってくれたのですが、動かせる魔石も素材も入手が難しいらしく、これだけ運んできました。ちなみに、これの小さいのも有りますよ」


 去年、誕生日に貰ったミニオートマタをブリジット先生に渡し動かしてあげる。


「これ、帝国のオートマタ魔導具?」


「ですね。父様は研究者なので」


「で、ここまで自由に動かせるのが、君の能力という訳だ?」


「そうなりますね。魔石なら間違い無いと思うのですが、こういう機械って、クリスタルでも動くものなのですか?」


「わからん。やってみるしかないようだ!」


 (ふむ……)


 なんでしょう。デメテル様? と聞くも返事は無かったので聞き流した……。


 兎も角、どうやらブリジット先生は、興味を持ってくれたらしく、分かりにくいけど、ニヤニヤしながらミニオートマタを研究室に持って帰って行った。色々調べてくれるのかな?

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